30代OLのすっぽん体験記
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:きむらあや(ライティング・ゼミ2月コース)
「すっぽんってどんな味なんだろうね?」
「ここはあえて調べないで、素直に味を感じてみたいかも。」
仕事のため、同僚3人とともに静岡市に訪れた私は、少し足を伸ばして浜松に向かった。
そのお目当ては、すっぽん料理である。数ヶ月前、ご縁があった方が教えてくれたお店で、せっかく近くまで行く機会があるから、と、訪問を決めたのであった。
というわけで、すっぽんのために、帰路とは真逆の新幹線に飛び乗って、静岡から浜松へ。
入り組んだ道に少々迷いつつ、お目当てのお店の看板を見つける。昔ながらの作りだけど、きれいに改装された素敵な日本家屋だ。風情たっぷりの佇まいで、お店の外観だけで気持ちが上がる。こんな機会でもないと、子連れではなかなか入る勇気が出ない。大人同士って最高だ。
和装の中居さんに案内され、2階の座敷へ。
冷たいおしぼりを手渡してもらい、何から何まで親切丁寧な応対にこちらが恐縮してしまう。
注文した三日日みかんジュースを飲みながら、先付の小皿とお刺身に舌鼓を打つ。あまりたくさんお酒の飲めない体質のわりに飲みたがりなので、日本酒にしておけばよかったかな……と思ったりしたところに、大将らしい男性が土鍋を持って入ってくる。
ついにきた。メインディッシュ、すっぽん鍋!
お鍋は座敷の隅のテーブルに配置され、コンロで煮られている。座って待っていたら、食べごろになったら中居さんがよそって持って来てくれるシステムらしい。
煮えてくるにつれて、ものすごくいいにおいが強くなっていく。待っていればいいのに、写真を撮りたくなったり、煮える様子をみたくなったりして、席を離れてウロウロしてしまう。
そうして、食べどきのベストタイミングでよそってもらったすっぽん鍋が、各自の目の前に並べられる。いざ実食。
うんまっ!!!!
閑静なお座敷だから、大きな声は出さないけれど、心の中では完全に大声で叫んでいた。
すっぽん、想像していたよりもめちゃくちゃうまい!!!!
すっぽんのダシがとられているであろうスープがまず最強にうまい。ひたすらいい香りが鼻に抜けてくるし、うまみが強い。コクというのか、舌のいろいろな味覚を一度に刺激してくるような、複雑な味がする。
すっぽんの身は、鶏肉っぽい、さっぱりかつジューシーな食感の部分と、ぷりぷりしたゼリー状の部分があり、どちらも非常に美味しい。味は、マグロの煮付けのような、噛むたびにうまみがじわっと出てくるようだ。
すっぽんダシがしみたおねぎや椎茸、豆腐も楽しみつつ、よそっていただいた分を早々に食べ終えると、すかさずおかわりを聞いてくださる。2杯食べても変わらず美味しい。
続いてすっぽんの肝の煮付け。すっぽんダシのスープがかかった茶碗蒸し。
最初のすっぽん鍋の衝撃で、よくわからなくなった舌に次々と襲いかかるすっぽん料理に、「うまい」「おいしい」しか言えないマシーンのようになる。
すっぽん料理の最後は、鍋のスープで作る雑炊だ。
やっぱり、食材としてのすっぽんの、一番の目玉はダシかもしれない。とにかくうまみが凝縮されていて、無限に飲みたくなる。
そんな最高のスープに米を入れたらおいしいに決まっている。しかも、小さなお餅も入っている。おいしすぎて泣きそう。これもペロッと食べてしまうと、おかわりをよそっていただけた。3杯食べて、お腹も心も満たされる。
デザートの水菓子はスイカだった。(水菓子とは果物のことだと知ったのは、大人になってからだったように思う。完全に余談)
今シーズン初スイカが、上品なお皿に乗せられて、丁寧に皮と身の間に切れ目を入れてもらったものになるとは。種を取るための先の割れたスプーンも久しぶりにお目にかかる。何から何まで感動的な体験だ。
有名な珍味を食しに行くにあたり、わたし個人の・固有の感想が出てくるかも、という期待を込めて、先入観を持たないように、ネットなどの情報は全く頭に入れずに行ったが、結果的には、調べて行っても全く問題なかったと思う。それくらい、ただひたすらおいしいと思ったし、子どもと夫を置いて同僚と食べるという背徳感を含め、この夜のすっぽん体験は、私と同僚4人だけの固有の体験であり、感想だったと思う。
すっぽん、おおいに気に行った。頻繁に食べるには、私にとっては過ぎた贅沢だけれど、またいつか、味を忘れた頃に、また食べて、そのときの新鮮な感動を味わいたい。
……などと言いつつ、翌日、せっかく浜松まで来たからと、浜名湖を訪問し、うなぎ店で一番豪華な御前を頼んでしまったのだが、その話はまたどこかの機会に。
***
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