「ラスコー展」を見に行ったら、日本の男性がなぜ草食系なのかわかった
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記事:みはらあずさ
「彼が、一緒に寝ているのに手を出してきません……。どうしたらよいでしょうか?」
人生相談の仕事をしていると、よくこんな質問文を目にする。気になっている男性がいるけど、彼からアプローチしてくれない。つきあっているけど、彼が奥手で2人の関係に進展がない。ほぼ毎月のようにそんなお悩み相談が舞い込んでくる。
知人にも草食系と呼ばれる男性がいるが、彼は気になる女性がいたときは、まず「お土産を買いたいんだけど、最近の流行のお菓子って何かな~?」とメールするそうだ。アレコレとアドバイスをもらえたらしめたもの。最終的に「おれ詳しくないからな~、1人で買えるかな?」という文面のメールを送りつけ、相手から「一緒に買い物に行くの付き合ってあげようか?」という返信がくるのを待つ。
「そんなまどろっこしいことしてないで、普通にお茶とかデートに誘えば?」と思うのだが、彼は策を弄して待ちの姿勢でいることが多いようだ。ストレートに誘って、断られたときに傷つくのが怖いのだろう。女の私からすると、頼りないことこの上ない。
いったい、日本の男はいつからこんなに消極的になったんだろう?
その答えは、年明けに訪れた「ラスコー展」で、ある展示物を見たときに気がついた。
「ラスコー」とはフランス南西部の地名である。1940年、ラスコーのヴェゼール渓谷にある洞窟に、地元の少年たちが偶然入り込んだ。暗闇の中で明かりをつけると、岩肌に浮かび上がったのは、2メートルもある牛の絵や、向かい合うバイソンの絵、川を泳ぐ山羊の絵だった。赤、黒、茶で洞窟に描かれた絵は、生命の躍動感にあふれ、少年たちの目を釘づけにしたことだろう。報告を受けた学者が調べてみると、それは2万年前にクロマニョン人によって描かれた壁画だと判明した。後に世界遺産にも登録されたその洞窟壁画に関する展示会が上野で開催されていると聞き、私は仕事の合間を縫って国立科学博物館に足を運んだ。
「2万年前のクロマニョン人」と聞いても、毛皮の腰巻きを巻いて、槍を持ってマンモスを追いかけ回している原始人くらいのイメージしかなかった。だが、実際はかなり高度な技術を持っていたようだ。たとえば彼らは、「投槍器」という道具を使って狩猟していた。小さな槍を飛ばす手持ちの道具で、氷河期に大型の動物を狩猟するのに使われていたらしい。単に手投げの倍以上の距離飛ばせるというだけでなく、補助具に美しい動物彫刻がほどこされたものも見つかっている。2万年前の人類は、すでに道具のデザインにまでこだわっていたのだ。
男たちが狩りをする一方、女たちは石刀でトナカイの骨を削って、現代と同じ形の「針」を作りだしていた。針穴には乾燥させた動物の腱を通し、毛皮を縫い合わせて身にまとう。貝殻の帽子や、動物の爪を連ねたアクセサリーもつけていたようだ。オシャレの感覚は現代人とそんなに変わらないかもしれない。
家族形態については、展示ではとくに触れていなかったが、極寒のなか大型動物を追いかけ回していれば、男性の生存本能や闘争本能は激しく刺激される。闘争心をつかさどるテストステロンが大量に分泌されたら、体はムキムキになるし恋愛には積極的になる。強い男ほどたくさんの女性を獲得し、大勢の子どもを育てたことだろう。
そうやって各地で小さな集団を作っていたクロマニョン人のうちの誰かが、採取した石から岩絵の具を作りだし、石と獣脂のランプで洞窟を照らしながら壁画を描いた。到底1人でできる作業量ではないと言われているので、吹雪などで外に出られないときは、家族で役割分担しながら絵を描いていたのかもしれない。精巧に再現された洞窟壁画を見ているとそんな想像がかきたてられた。
最後に、「クロマニョン人がいた時代の日本列島」というテーマの展示があった。南フランスのクロマニョン人が洞窟で絵を描いている間、われらが日本人の祖先は何をしていたのだろうか? やはり投槍器を持って動物を追いかけていたのだろうか。何気なく、説明が書かれたパネルを見て、私は軽いショックを覚えた。
私たちの祖先は……落とし穴を掘っていた。
なんと、約3万5000年前の日本で、世界最古の狩猟用の落とし穴が発見されていた。底に向かってラッパ状になった、大きくて深い穴に落ちると、動物がいくらあがいても外には出られない。そんな罠を仕掛けて、獲物がかかるのを待っていたのだ。
それを見た瞬間、「日本の男はいつから草食系になったのか」という長年の疑問が解けた。
「そうか……。日本の男たちは、3万5000年以上も前から『待ちの姿勢』で生きてきたんだ……」
わたしたちの祖先は、動物を追いかける能力に自信がなかったのか。それとも動物と正面から戦って傷つくのが怖かったのだろうか。理由はわからないが、3万5000年以上も前に、自ら獲物を追いかけるのをやめ、相手が罠にかかってくれるのを待つという受身の姿勢で狩りをしていたというのは非常に興味深い。
現代の日本男性の多くが、恋愛という狩り場において受身の姿勢でいる。それはSNSや学校教育の影響ではなく、DNAに刻まれていた遺伝子情報によってそうなっているのかもしれない。そういえば、私の知人もメールで罠を仕掛けて、相手が誘いに乗ってくれるのを待っていた。そんな男は他にもワンサカいることだろう。
こうなったら、女性の努力で男性を変えるのは難しいかもしれない。なんせ3万5000年前から連なるDNAが元凶なんだから。いっそ「男性にリードしてもらう」というのはあきらめて、男がおそるおそる仕掛けている「落とし穴」のありかを探ってみてはどうだろうか。穴の存在を探知したら、あえて自分から飛び込んでみる。そして「もう私はあなたの獲物になりましたよ」とアピールをする。男性が油断して穴を覗き込んだら、その手をつかんで、恋愛関係に引きずりこんでしまえばいいのだ。きっとそうやって巣作りしてきた祖先の遺伝子が、私たち女性の中にもあるのだから。
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