朝の戦争は、今だけの特権だと思えばとても愛おしい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:渡辺 剛(ライティング・ゼミ)
「いいじゃねえか。今だけの特権なんだからよ」
テレビのCMで流れてきたその言葉で、はっとした。
ビートたけしさんの出演する、たしか、缶コーヒーのCMだったと思う。
娘を自転車の後ろに乗せて保育園の送り迎えをする若手社員役の芸人さんが、上司役のビートたけしさんに娘の送り迎えの愚痴をこぼすと、冒頭の言葉が返ってくる、という内容だ。
私は、6歳になった娘と、もうすぐ2歳の息子を、ほぼ毎日保育園に送っている。
2年前に人事異動で、現在の飲食店勤務になってから、出社が以前よりも遅くなったことと妻の職場復帰も重なって、朝の送りは私の日課になった。
私はそもそも、新たに何かを始めることや、新しい環境に入り込むのが苦手である。普段使うお店も、通い慣れたところが良いし、なにかの習い事を始めるときや、新しいサークルやチームに入るときは本当に勇気がいる。
はじめ、保育園の送り迎えも、それまであまり立ち入ったことのない場所であるという点では、かなり戸惑った。送り迎えのシステムもよくわからない。子どもたちの部屋はどこか、まずどうすれば良いのか、子どもを預けて、そのまま帰ってきて良いのか、それともなにか手続きがあるのか……
わからなければ聞けばよいのだろうが、その「何もわからない感」に恥ずかしさを感じてしまうのだから情けない話である。
周りを見渡せば、慣れた様子で子どもたちを預け、保育士の先生となにかの会話をしている保護者の方々。
まるで周りはお得意さんだらけの居酒屋にでも来てしまったような孤立感に襲われる。「あらあら、見ない顔ね」という顔でこちらを見られているような気がして(実際には温かい眼差しでこちらを見て下さっているのだが)、玄関で一度脱いだ靴をもう一度履いて外に出ようかと思ったくらいだったが、そんな私に送り迎えの「イロハ」を教えてくれたのは、当時4歳だった娘であった。
「おふとんは、あそこ」
「にもつは、ここだよ」
「ママはいつも、ここにおいてる」
私は、保育園で見せる娘の姿に、成長を感じずにはいられなかった。
いつまでも、幼児だと思っていたのに、保育園では他のお友達と遊び、一緒に絵を描き、パズルをしたりして楽しんでいる。
それからほぼ毎朝、子どもたちを急かしながら朝食を食べ、着替えをさせ、登園の準備をする。
子どもたちが言ったとおりに動いてくれれば楽だが、そうはいかない。
静かだなと思ったらおもちゃを引っ張り出していたり、絵本を開いていたり、絵を描き始めていたり。
その度に、何してるの、早く着替えなさい、いま何時だと思ってるの、などと、なるべく掛けない方がいいとはわかっている言葉を、たくさん掛けてしまって後悔しながら、自分自身の準備もバタバタと済ませ、時間になると子どもたちを車に乗せて、家を出る。
ああ、なんとか間に合った、という日もあれば、やれ遅刻だと、慌てて保育園へ向かう日もある。
まさに、朝は戦場である。
私が朝早い出勤の日は、これを妻が一人でやっているし、世の中で子育て中のパパさん、ママさんの多くが、これをワンオペでこなしていると思うと、本当に尊敬の一言に尽きる。
そんな戦場も、あと3か月もすれば、状況が大きく変わる。
6歳の娘は、春から小学校へ入学するのだ。
小学校になると、家を出るのは今よりもだいぶ早くなる。そういう意味では、親としては子を送り出すまでは相変わらず戦場なのかもしれないが、なにせ、娘は自ら歩いて、通学することになる。
その事実に気づいた時、一気に寂しさがこみあげてきた。
娘と保育園に通った日々。たったの2年間かもしれないけれど、成長過程の4歳から6歳までの2年間は、やはり著しい成長を感じる。
保育園までの道のり、春には桜が咲き乱れ、風に吹かれて車のフロントガラスにあたる桜の花びらを見ながら「うわあ、きれいだね」と言った。
初夏のよく晴れた日は、日にあたる緑の葉っぱを見て、「みどりが、きらきらしてるね」と言った。
秋、赤く色づく木々の葉っぱを見て「どうして赤くなるの? はずかしいの?」と言った。
雪が降った冬の日は、空を見上げながら両手を広げて立っていた。はやく車に乗りなさいというと、「なんで手には積もらないの。雪だるまつくりたいのに」としかめ面をした。
しりとりを覚えたら、毎日毎日、しりとりをした。
娘の「しりとり」から始まり、りす、すいか、からす、す……
いつも娘の「す」で詰まって、終了。これがしばらく毎日繰り返された。
こども向けの童謡をジャジーな音楽に乗せて歌うアーティストのCDで「いぬのおまわりさん」を聞き始めると、毎日毎日こればかり、しかもリピートしながら聞いて、最終的には間奏の時に入る「ワンワン! ニャーオ」といった鳴き声真似まで入れながら、完全に歌い上げるまでに上達した。
娘のクラスの子たちも、私自身もすっかり仲良くなり、毎朝、作った工作や描いた絵を見せてくれたり、保育園で起きているいろんなことを教えてくれたりした。
そんな子たちの成長も見守ってきたこの2年間も、ふと思い返した。
保育園に向かう車の中で、娘に聞いてみた。
4月から、小学校だね。パパと一緒に保育園行くのも、もう少しで終わりだよ。
娘は外を見ながら「うん……」と、わかっているのかいないのか。
小学校まで、歩いていくんだよ。できる?
うーん…… としばらく考えた後、
「できたら、できる」
と言った。
「やれば、できる」のつもりらしい。
あと3か月。
今だけの特権。今を大切に、明日も、子どもたちを送っていきます。
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