メディアグランプリ

遺跡発掘の学芸員になれなかった私が、遺跡以外で掘り当てたモノ


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記事:須田 久仁彦(ライティング・ゼミ)

今からちょうど25年前のことである。子供の頃から歴史好きだった私は、念願だった大学の史学科へ進学した。

専攻したのは考古学だった。進学した大学が、考古学で有名だったことが大きかったが、別に大きな理由があった。それは、卒業後も歴史に携わり、働くことができる可能性が大きかったからだ。

文献を中心とした日本史や東洋史、西洋史を専攻した場合、卒業後もそのまま歴史に携わろうとすれば大学に残るか、博物館を始めとした他の研究機関に就職するしかない。そして、その門は極めて狭い。

考古学の場合は就職事情が異なる。もちろん大学や他の研究機関などに就職する方法もあるが、他に就職先があるのだ。しかも、それは各都道府県、各市区町村に必ずあるものである。

その就職先とは教育委員会である。

建物を建てる時など地面を掘り起こす工事が必要な場合、遺跡があるかどうか確認が必要となる。そして、遺跡があれば発掘調査を行わなければ工事を行うことが出来ない。この確認や発掘調査を行うのが都道府県や市区町村の教育委員会であり、学芸員という専門職員が中心となって行われる。

卒業後も、自分の好きな歴史に携わりながらご飯が食べられる! それはまさしく私にとってパラダイスだった。

しかもその当時、まだバブル景気に沸いていた時代だった。全国各地で大きな建物が建てられ、ゴルフ場などの新設が相次いでいた。当然、学芸員の需要も多く、就職先は引く手あまただったのだ。

大学のOB・OGの先輩方の多くが、全国各地の教育委員会に就職し、遺跡の発掘を通じて華々しく活躍されていた。その活躍ぶりにさらに憧れが募った。私自身、大学OBの先輩方が勤める教育委員会で、遺跡発掘の現場をお手伝いさせて頂きながら、将来に向けて希望を大きく膨らませていた。

そして迎えた大学卒業。私は就職ではなく大学院への進学を選んだ。先輩方から、大学院へ行った方が就職先の条件や待遇なども良くなるといったアドヴァイスを頂いていたせいもあるが、それだけではなかった。考古学の研究の面白さが分かり始めて来た時期だっただけに、もう少しこの研究を続けたいという希望が大きかったからだ。

しかし、この判断が私の人生を大きく狂わせた。

大学院を修了し、今まで学んできたことを活かそうと意気揚々と社会に飛び出した。しかし、私を待ち受けていた社会はバブルが完全に弾けきり、学芸員の募集などほぼ皆無となっていた社会だった。

私は学生時代からお世話になっている教育委員会での遺跡発掘を続けながら、どこかの教育委員会で募集があるのを待つことになった。しかし、どこかの教育委員会で募集があれば私と同じような立場の人間が多く集まった。倍率はどこも80倍を超えていた。

たまにある募集に、応募しては落とされ続けた結果、それもついに終わりを迎えることになった。それは学芸員として就職が決まったからではなかった。教育委員会へ応募できる年齢の上限を超えたからだった。最悪の結末だった。

念願だった遺跡発掘の学芸員として就職するという道が閉ざされ、絶望の底に叩き落された気分だった。しかし、それは底どころか、まだ浅瀬に過ぎなかった。

学芸員への道は閉ざされたものの、将来のために何か別に職を探さなければならなかった。失意の中、転職サイトで情報を調べ、興味ある企業に応募していった。

しかし、結果は散々だった。応募した企業からはことごとく落とされた。

その当時、私は30歳を目前に控えていた。厳しい就職活動を経て就職していった同世代はすでにキャリアにして8年程度の経験があった。その間、ビジネスパーソンとして厳しい社会と闘い続けてきた同世代と、遺跡発掘しかしてこなかった私では大きな差が出来ていたのだ。いくら「未経験OK」と謳っている企業であっても、ビジネスの経験が全くない私を採用してくれる企業はなかなか現れなかった。

それでも何とか就職先を見つけ、転職することはできた。しかし、今度は今までと全く異なる職場環境に苦しむことになった。仕事にも馴染めず、短期間で辞めることになった。そして、気がつくと短期間での転職を繰り返すようになっていた。自分はどうしたいのか? 将来に向けてのビジョンが描けず、先が全く見えなくなっていた。

そんな私にとって転機となったのが12年前だった。現在も勤務する旅行会社へ、トラベルプランナーとして勤務することになったのだ。未経験だったが、旅行は歴史と同じように大好きな分野だったのが救いだった。もちろん勤務当初は慣れない仕事内容に苦しみはしたものの、好きな分野だったせいで徐々にプランニングに楽しさを見つけ出すことができた。何より私がプランニングした旅行後に、お客様から「楽しかった!」とお礼の言葉を頂くと嬉しくもあり、快感にもなった。

それからしばらくすると、今度は添乗員としてお客様の旅行にも同行するようになった。ある添乗でのこと、その日はコースの中に遺跡が組み込まれていた。すでに遺跡発掘の現場から離れて数年が経ち、考古学に関連する場所に行くのは久しぶりだった。遺跡を訪れ、お客様をご案内していた時に、あるお客様から遺跡についての質問があった。

昔はこれが仕事だったな、と懐かしい気持ちに包まれながら遺跡についての説明をしていると、お客様がこうおっしゃった。「添乗員さん、ずいぶん詳しいんですね!」

いや以前はこちらの分野のプロだったもので……と返しながらも、その時になって気がついた。

観光地には史跡や博物館などが多く含まれる。トラベルプランナーは旅行を通じて、歴史の楽しさや魅力を伝えることができるのだ。私の好きな旅行という分野だけではなく、一旦は諦めなければならなかった歴史にも携わることが出来るのが、トラベルプランナーだったのだ。それを実感した瞬間だった。

遺跡発掘の学芸員にはなれなかった。遺跡の発掘で遺物を掘り当てることは出来なくなった。しかし、代わりに旅行と歴史という私が好きな二つの分野に携われる、まさに天職とも言える職種を掘り当てることが出来ていたのだ。

歴史の楽しさや魅力を旅行を通じてどう伝えるか? それは今も試行錯誤を続けている。なぜなら、歴史は苦手な方も多い分野だからだ。それでも旅を通じて歴史が苦手な方でも楽しんで頂くためにはどうしたら良いか? 考えれば考えるほど楽しくなってくる。やはり、トラベルプランナーは私にとって天職なのだ。

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2017-01-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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