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毒を盛られるお正月


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ありのり(ライティング・ゼミ)

 

「初詣に行き清々しい気持ちです。今年は〜をモットーに過ごしたいと思います」

 

「元旦の新鮮な空気の中、今年チャレンジしてみたいことを5つあげてみました」

 

お正月のfacebookボードでは、友人や知人らの罪のない投稿が続きます。

 

「清々しい? 新鮮? うーん……お正月って、そんなに軽やかな気分になれるタイミングかなあ」と、つぶやきながら、元旦の私は携帯の画面を少し早めにスクロールして行きます。

 

一年には多くの行事があります。クリスマスやお花見、自分の誕生日などなど。

「でもさ、お正月ほど人生を振り返ることになる行事ってないよねえ」と、幼いころにジュースをいれて遊んで叱られたお正月用の酒器でお屠蘇を飲みながら考えます。

 

特に、毎年年末に実家に帰省し、元旦から先祖のお墓参りや近所の神社へ初詣に行ったり、親類があつまり恒例の宴会が開かれたりする私のように、小さい頃から繰り返されてきたお正月の決まりごとを律儀にこなしてして過ごす人は要注意です。

 

それらのタスクの端々に宿る幼いころや若い時分の思い出が、この時期に会うモノやヒトからぽろぽろとこぼれ落ち、いつのまにか「人生振り返りお正月キャンペーン」に入り込むことになります。

 

思い出たちは、たいてい、最初のうちなつかしさを帯びた感動を呼ぶのですが、感傷にふける時間が過ぎると、そのあと独特のかすかな憂鬱さが訪れます。

そこに、わずかな毒が含まれているからなのです。

 

たとえば、実家の大掃除をしていたら見つけた押し入れにしまいっぱなしの昔の宝石箱。当時人気だったクレージュのシルバーネックレスが、チェーンの切れたまま捨てられずおいてあります。大学時代の恋人からのプレゼントです。

 

「わあ、なつかしい! これ、初めてのブランドもののアクセサリーで、すごくうれしかったのよね」なんて温かい気持ちでそれを掌にのせて指先でいじっていると、ふと胸にちいさな痛みが湧きます。

 

「これをくれた彼は、とても誠実ないいひとだった。でも、最後は意見が合わなくなり、断腸の思いで私は自分の道を選んだけれど、実は彼の気持ちを顧みない、傲慢でわがままな選択だったのかも」などと、20年以上も前のことを切なく反省してみたりします。

 

また、今は亡き母は父と婦人服の小売店を経営していたのですが、昼間は一日中店に立って接客をし、夜はいつも12時すぎまで売れた商品の裾上げや直しをしてと、本当によく働くひとでした。 自分の時間などほとんどなく、家業と家族にすべてを捧げて生きていました。

 

もちろん、40年以上も使っている実家の漆のお重箱には、かつては母の手作りおせち料理が詰められお正月の食卓にならんだものですが、いまそのお重箱に並ぶのは、私がいつもスーパーで買い込んだ出来合いのおせち料理です。

 

せっせと見栄えだけを気にして並べる自分の手元を見つめながら、母の生き方とは全く違い、結婚しても自由な仕事と時間を手にし、人生を謳歌する生き方を選んだ自分は、果たしてこれでよかったのかしら、とぼんやり思ってみたりもします。

 

さらに、親戚と鍋を囲めば、おしゃべりな叔母が熱燗片手に私におしゃくをしながら「さとくんは寮生活なんやろ。親元を離れて中学から寮やなんて、あの子がかわいそうちゃう?  いじめられたりしてへんの? よう手放したなあ。おばさんなら無理やわ」なんて話しかけてきます。

無邪気なおしゃべりに苦笑いをしながら、「世間一般とは違う選択をしたわたしは、どこか無責任な親ではなかったのだろうか」なんて考えが頭をよぎったり、ということも起きるのです。

 

お正月というのは、このように不意打ちで、過去に置いてきた自分の選択を集中的にどんどん味わうことになり、なにか調子がくるってきます。

 

じわじわと、気が付かないうちに毒を含んでしまうように。

 

その毒の正体は「恐れ」です。

 

相手の期待に応える、親のやり方を踏襲する、世間一般の常識に合わせる、それらの行動に共通するもの。それは、「周りや慣習に合わせていた方が安全だよ。人や常識と違うことをすると危ないよ」とささやく「恐れ」です。

 

「恐れ」は生存本能から生まれるので、実はとてもパワフルです。たとえ自分で選んだ今に満足していても、「それで本当によかったの?」とひっそりとおびやかしてくるものでもあります。

 

特に、自分を信じて自分の道を選択し続けてきたひとほど、お正月って、「清々しい」とか「新鮮」なんて軽やかな気分になるよりも、過去に振り切った「恐れ」の毒気にあてられて、なんとなく気持ちが重く憂鬱さを持て余す時期でもあるのだと私は思います。

 

そして、その憂鬱さはそこはかとない未来への不安を呼び覚まします。だから、私のようなお正月に心当たりのある人は、そんなときに新年の抱負など語らない方がいい。不安と戦うか、逃げ出すかをしているような、妙に気張った目標を立ててしまうことでしょう。

 

一年の計を立てるなら、普段の生活パターンにすっかりもどった冬晴れの日に、新しい手帳をもってカフェにでも行き、一年の可能性に想いを馳せるほうが賢いかもしれません。

 

お正月の毒が抜けたころに。

 

*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 *この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2017-02-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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