メディアグランプリ

24時間営業終了と競泳水着の思い出


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記事:ノリ(ライティング・ゼミ)

「24時間やめるんだってさ」
母は、聞いてもいないのに、さっきテレビで仕込んだ話題を披露してくれるありがたい存在だ。
「どこかのファミレスか……なんとかが……やめるんだって!」
そしてそのほとんどは、実にあやふやだ。だから結局調べなければ何もわからないのだが、どうやらそのニュースは本当のようだった。
大手外食チェーンが24時間営業を順次取りやめるという。背景にあるのは、若い世代の深夜の利用減少と、深夜の人手不足。
スマホでニュースを確認しながら、私は答える。
「へぇ、おもしろいね」
そのとき私の頭に浮かんだのは、深夜一人で接客や調理を行う「ワンオペ」で記憶に新しい某牛丼店でもなく、「ブラック」だと有名になってしまった某居酒屋チェーンでもなく、なぜか「競泳水着」のことだった。

私は小学校5年から高校3年までの8年間、水泳部に入っていた。
理由は簡単だ。
水泳以外のスポーツがすべて、人並みにできなかったからだ。
かといって、文化部にも興味がなく、そして帰宅部になる勇気もなかった。

「水泳ができる人には2つのタイプしかいない。他のスポーツが全部できて水泳もできるタイプと、水泳しかできないタイプだ」
とは、高校の先輩の持論だ。
陸上競技も球技もどんなスポーツも、からきしダメな私は完全に後者のタイプだった。しかし水泳だけは、プール初体験のときから水が怖くなく、それなりに泳げたのだ。ただ、体は柔らかい方だったかもしれない。
水中で行う水泳は、いかに水の抵抗をなくすかが、速く泳ぐカギになる。
そこで関節が柔らかい方が、より抵抗の少ない姿勢をとることができるのだ。
そして最も水の抵抗のために配慮されていたのは、競泳用の水着だった。

見たことのある人は多いだろう。透かしてみれば向こう側が見え、丸めてみれば、女子用でも両手のひらに収まってしまうほどの薄い生地。通常の水着についている胸パットも入っていない。
すべては水の抵抗を減らすためだ。

私は小学5年生から競泳水着を着用し、青春時代のほとんどを裸同然の男女に囲まれて過ごしてきた。

男子の競泳水着は、いわゆるブーメランパンツ。あるお笑い芸人がはいているアレだ。小さければ小さいほど良いとされ、中学の同級生もわざと小さいサイズのものを選んでいた。そのため、お尻の割れ目が見えているのは当たり前だった。高校になると体毛の濃い男子がへそ毛から下がつながり大部分が見えていたけれど、別段、なんとも思っていなかった。

女子の競泳水着は両肩のひもが背中でクロスし、腰の部分が丸く開いているのが基本のパターン。そして年月を経るほどに脚ぐりがどんどん際どくなっていく。レースクイーンさながらのハイレグ水着で、脚を上下にバタバタさせたり、開いたり閉じたりするもんだから、さあ大変。いつもお尻がはみ出てくる。泳いでは水着のズレを直し、泳いではズレを直しと、とにかく忙しかった。
高校2年の夏、高校総体を控えた3年生の先輩と一緒に練習をしていたとき。アキ先輩が新調してきた水着は、両方の骨盤の骨が丸出しになるまで切り込まれていた。初夏の日差しに照らされ、飛込み台に立つ先輩のビキニラインの生白さは、今でも思い出せるほど鮮明に覚えている。
私はさすがに腰骨までは出さなかったが、毎晩ムダ毛処理に追われていたのは間違いなかった。

高校を卒業し、入学した大学には水泳部があった。しかし大学生になってまで私はムダ毛の処理に追われたくない。理由はそれだけではなかったけれど、水泳部には入部しなかった。
そしてすっかり水泳から遠のいた生活をしていた2000年のシドニーオリンピック。
私はこれまでにない衝撃に包まれていた。
この大会で、3つも金メダルを獲得して活躍したオーストラリアのイアン・ソープが身につけていたのは、頭と両手、両足しか露出していない全身タイツ状の競泳水着だった。
「もっと小さく!」「もっと面積を少なく!」という方向へ突っ走ってきた競泳水着が、このころから一転、体を覆う方向へと大きくかじをきった。
しかもそれは、「ちょっとあれなんで、ハイレグを少し戻します」というレベルではない。
以前にも増して体を隠す、覆う方向へと転換したのだった。
その結果が、現在よく見る競泳水着へとつながっている。

私たちが太陽の下に肌の大部分をさらしていた90年代。それが競泳水着の面積の限界点だった。
今では水着の面積を減らすことよりも、サメのような肌をまとうことで、より水の抵抗をなくせることがわかってきたのだろう。

同じように24時間営業というのは、サービス業として、ある意味たどり着いた限界点だ。
もう、薄々、気が付いているのではないだろうか、そんなに便利でなくてもいいかもって。夜は休んでもいいかもって。
行くとこまで行った今、戻りつつある外食チェーンの英断を考えるとき、私は人生の長い時間を共に過ごした競泳水着を思い出さずにはいられない。

行くとこまで行ったから、新しいものが見えたのだろうか。
それとも行くとこまで行くとは関係なしに、新しいものは次々生まれるものなのだろうか。
私の青春時代の、不断の努力(ムダ毛処理)は一体なんだったのだろうか。
わからないけれど、水着のお尻のズレを気にしていたあのころの自分に言いたい。
「もうすぐ、いい時代がやって来る!」

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2017-02-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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