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シェアしてはいけない。


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記事:さすらいの情報屋(ライティング・ゼミ)

先日、運よく巡ってきたチケットを携えて、某芸人さんのライブイベントに出かけた。お笑いイベントなど初めてだったが、笑いっぱなしの3時間半。長丁場を感じさせない、最高のイベントだった。

会場を出たのが22時過ぎ。仕事後食事もとらずにテンション全開で笑いっぱなしだった私は、この時間からの食事を決行する。そう、ラーメン屋である。

福岡には多くのラーメン屋がある。細麺であっさり豚骨スープの長浜系、スープ泡立つやや太麺の久留米系、関東だけでなく海外進出まで達成している有名店は創作系の部類に入るかと思う。有名店ほど観光客が行列を作るものだが、普段私はワンコイン前後で食べられる昔ながらの店に足を運ぶことが多い。他人のラーメンの味の評価ほどあてにならないものはない。自分の気に入った店を、末永く愛する。これはラーメン好きの責務ではなかろうか。

その日の私は街中にいたため、いわゆる「有名店」の部類の店をチョイスした。23時前である。そういった店しか開いていないのが現実だ。半熟煮卵がのったその店オリジナルのラーメンに加え、小ぶりの博多一口餃子をオーダー。麺は「カタ麺」である。一般的に、普通麺から近い順で、「カタ麺」「バリカタ」さらに「粉落とし」や「ハリガネ」などと言われるパターンまであるそうだが、私は「カタ麺」でしか頼んだことはない。麺は硬ければいいってもんではないのだ。ウンチクを言わせてもらえば、最初はカタ麺でオーダーし、「替玉」をする際には「普通麺」にすべきだと思う。スープが冷めかかったタイミングでは普通麺の方が最初の状態に近い硬さで食べられるからだ。しかしこれも私の食べ方であり、まったく他人から見たらどうでもいい話なのだろう。

さて、ラーメンが運ばれるまでの間、辛味のついたもやしで小腹を満たす。いや、実際は小腹ですら満たされるわけではないのだが、こうやっている間にも我が五臓六腑にラーメンを受け入れる準備が整っていくのだ。

「おまたせいたしましたー!」

威勢のいい声で店員さんがラーメンと餃子を運んできた。器から立ちのぼるまろやかな豚骨スープの香りとトッピングによる視覚効果。これを見せられて、手が出ないわけがない。サッカーならば、完全に反則である。

カタ麺を頼んだのだから、すぐに食べ始めなければ意味がない。そんなことはわかっているのだが、ついやってしまうことがある。スマホを出して、いいアングルに置きなおし、ラーメンのトッピングにフォーカスして……カシャ。外で食べるものは基本的にカメラに収めてしまうクセがある。カタ麺で頼んでおいてさっさと食べないなんて支離滅裂じゃないか。その通り。わかっちゃいるけどやってしまうのだ。店主およびスタッフの皆さんへはお詫びしかない。

ともかく、そこから一気に頂く。スープが、麺が、煮卵が、きくらげが、チャーシューが……私の内面と一体化していく。さらに辛味もやしを乗せてみたり、最後には紅ショウガでお口直しをしたりなど。さすがに自制心が働き替玉はしなかったが、その日も大変美味しく頂いた。何系のラーメン屋であっても、それなりに美味しい。食べ終わった後にごちゃごちゃ御託を並べるのは誤りである。ごちそうさまでした、この一言に尽きる。

店を出て、ふーっと息を吐きながら、スマホをいじりつつ歩く。器全体から湯気の上がる最高のタイミングで撮影したラーメンの画像を開いてみた。なかなかいいアングルで撮れている。しかしこの夜私はこの画像をSNSにアップすることはしなかった。私の中の中途半端な倫理観が働いたのである。

(こんな夜中にラーメンを食べるなんて! しかも餃子まで!)

人はそう思うのだ。いや、本当はどうだか知らないが、そう思っている人が多いのだと私は思っている。仮にこれをシェアするとどうなるか。

好意的:「うわ~美味しそう!」
やや好意的:「こんな時間にメシテロやめろ」
それ以外:スルーしながら心の中で(そら太るわ)

それ以外、のパターンについては、他人の心の声を覗いた形なので、必ずしもそうとは言い切れないが、きっとそうだろう。……いや、わかっている。これは私自身の心の声でもあるのだ。身体には絶対よくないということはわかってはいるのだが、やってしまう。美味しい。そして、楽しい。それが深夜に食べるラーメンなのだ。

深夜の背徳感といえば、小学5~6年生の頃、夜中にこっそり親に隠れて遊んだ国民的RPGを思い出す。

当時ゲームといえばファミコンである。テレビにつないで遊ぶわけだが、当時住んでいた木造家屋の2階の自室で、私が既に寝ているはずの深夜に、テレビの音を消してレベル上げ、そして緊張のボス戦に挑むのである。そんな折、階段をきしませながら上がってくる父親に見つからないよう、気配がした瞬間にテレビの電源だけを切り、布団にサッと隠れる。数秒間の緊張が木造家屋を包む。不自然にも寝息なども立ててみたりするのだが、部屋にはファミコン本体の廃熱ファンが「サーーーッ」と音を立てている。

父親は昔ながらの厳格な人間であった。スパルタ人間と言ってもいい。見つかったらファミコンを叩き割られて終了である。そこまではいかなくとも、リセットボタンを押された時点で血の気が引くだろう。それがファミコンである。

結論から言うと、私の深夜の所業は何度もばれた。ばれたが、リセットボタンを押すと絶望的な状況になるということを父親が知らなかったため、死ぬほど怒られはしたが、大切な「ぼうけんのしょ」はその怒りから難を逃れたのである。

しかし深夜の愉しみというのは、どうしてこうも理解されないのだろう。きっと誰もがその歓びを知っているはずなのに、常識的な倫理観が先に立つ。はたしてそれが建前上のものなのか、本当に倫理的な人間なのかわからないが。そしてそんな自分以外の人間の評価を気にするというのは、私自身、残念ながら小学校の頃から変わりないように思う。

 深夜の背徳感。それは、決してシェアしてはいけない。自分ひとりで愉しむべきものなのだ。
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2017-03-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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