温かい雑貨屋の黒ネコと眩しいだけの白ネコ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:シロフクロウ(ライティング・ゼミ)
久しぶりの大阪。ここは相変わらず人が多くて疲れる。京都も人が多いけど大阪はもっと多い。地下も入り組んでいて一度入ると何処に行くのか、さっぱり分からない。
そんな大阪で食事をすることになった。時計を見ると、まだ待ち合わせの時間まで1時間以上もある。こんなところで歩きまわると、きっと迷子になって元の位置にまで戻れなくなりそうだと思い、座れる場所を探した。できれば暖かい所がいい。
いつもならば、その辺りのカフェを見つけて1人静かにジャズを聴きながら本を読んで寛ぐのだけど、この日はどうもそんな気分にはなれなかった。
少し歩いた先に偶然にもクッションの効いたソファを見つけたこともあって、そこに腰掛けて待ち合わせの時間まで待つことにした。
本でも読もうかと思ってカバンの中に手を入れようとした時、ふと前方から視線を感じた。僕はつい気になってそちらを見てみる。大きくて可愛いらしい目。
目の前には雑貨屋が2つ並んでいた。お客さんは右側の店に多くて左側の店は少ない。
どちらも清潔感があって開放的なのに右側の店にだけ人が集まってくる。そこには先ほどの大きな目をした黒ネコのクッションがあり、店の外に向けて置いてある。その傍らには1人の女性店員。自然な笑顔をたたえて、艶やかな黒髪は胸にまで届きそうで後ろで結わえてある。
そこまで綺麗な女性ではないかもしれない。しかし僕は今にも黒髪が優しい風に吹かれてなびいてしまいそうな和らいだ雰囲気に飲み込まれてしまった。
待ち合わせの時間が来るまで、少しだけ夢の世界へ。
僕は彼女に理想的なイメージを膨らませていく。
お客さんがいないところでも、いつも笑顔でいる。作り笑顔ではなさそうだ。
きっと優しい人に違いない。
雑貨屋ともなると、そんなに給料も良くないのだろうけど、それでもこの仕事をしている。
きっと人と接するのが好きな人に違いない。
お客さんが店に入ってきた時も直ぐにお客さんに近づいたりはしない。声をかけても相手が嫌な思いをしないか、今声をかけてもいいのかタイミングを見計らっている。
きっと配慮の行き届いた思いやりのある人に違いない。
彼氏はいるのだろうか? いやこんな清楚な人に男がいるはずがない。
このような素敵な女性と結婚したら毎日が幸せだろうな。仕事に行く時も帰ってきた時もこちらを見て微笑んでくれる。もうそこに居てくれるだけでいい。
周りからは「あのような綺麗な女性と結婚できて羨ましいですね」なんてことを言われてしまう。どうしよう。
澄ました顔で「いえ、そんなことないですよ」とか言わないといけないな。
決して事務的ではなく自然な動きや佇まいがとても美しい。その美しさは内面から滲み出てくるものなのだろう。
こんな女性だから夜の生活なんて一体どうなってしまうのだろう。想像すると何だか凄そうだ。
「あー」
どこかの家族連れの子どもが泣き叫んだようで、現実の世界に戻されてしまった。あと少しだったのに……
時計を見ると、まだ待ち合わせまで時間がある。今度は左側の人気のない店も観察することにした。
こちらにも女性店員がいる。ルックスはどう見てもこちらの方が上。
しかし「ああ、綺麗だな」と思うだけで、さして惹かれることはなかった。
二つの店の人気の差、そして二人の女性。
一体どこに違いがあるのだろう?
人気のある右側の店は非現実空間が作られている。蔦や草が天井や棚などに絡み合って、まるで大自然の中に佇む店のようにみえる。店内は黒をベースにしておりシックで落ちついている。そこに小物類などが置かれていて赤や白色の薔薇やピンクのリボンで装飾されている。黒ネコは色んな人に撫でられているからか少し古ぼけた感じ。
照明にも気を遣っていて淡い光で店内を照らしている。今にも木漏れ日に誘われて何処かからか飛んできた小鳥がチュンチュンと鳴きだしても不思議ではない空間。
先ほど夢の中に出てきた女性店員の服装も黒色でピンク色のリボンで黒髪を結わえてある。
お客さんも居心地が良いらしく店の中でゆっくりと雑貨類を手に取って、店員とも友達のように話している。
一方、人気のない左側の店は穏やかな雰囲気はあるのだけど、白で統一されていて全体的に明るい。隣と同じように、こちらにも大きな目をしたネコのクッションがある。こちらは店内に合わせて白ネコ。黒ネコとは違って、あまり触られてはいないようで綺麗なまま。
店内は明るいから一瞬魅入ってしまうのだけど、眩しくてすぐに視線を逸らしてしまう。
お客さんも光に吸い寄せられる蝶のように店の中へ入って行くのだけど、やはり落ちつかないのか雑貨類を手に取ることも殆どなく、何があるのか少し見るくらいで店を出て行ってしまう。
こちらの店員も清潔感がある。しかし話しかけてくるお客さんはいない。
きっと人はあまりにも美しいものには近寄りがたいのでしょう。明るい場所に入っても自分が目立ってしまうからか、どうも落ち着かない。影がある場所を見つけて休憩したくなる。
僕は今まで出会ってきた人も内面に潜める美しい部分を見つけては、何故この人の良さが他の人には分からないのだろうと、その美しい部分を見つめた。そしてどのような人なのだろうと想像してきた。
何か1つだけでも美しいものを持っていたら、きっと何処かの誰かに興味を持ってもらえる。その美しいものは光り輝くものでなくても構わない。内面にあるものを綺麗ではないからと自分が疎ましく思っていても、他の人はそうは思わないかもしれないし、いつか自分の考えが変わって好きになるのかもしれない。
外側の美しさよりは、内側の美しさを大事にしたいと思う。
結局、あの女性に声をかける勇気はなかったので、黒ネコが彼女の大事なパートナーだと思うことにして、その場を離れた。
まだ好きにはなっていないかもしれないけど、僕にも長い付き合いの大事なパートナーがいる。
僕はその古ぼけた黒ネコを抱えて待ち合わせ場所へと向かった。
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