おいしい文章の書き手は、料理上手。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:なかおかともみ(ライティング・ゼミ)
「北海道はおいしい」
北海道の外から来た人は、口をそろえてそういう。
例えば、スープカレー。
ごろごろと入っている野菜が新鮮で、ジューシーだ。
例えばソフトクリーム。
牧場のソフトはいずれもおいしく、食べ歩いても飽きないほどに、お店ごとに多種多様で個性的。
居酒屋に入れば、出される山の幸、海の幸の豪勢さに驚き、質に対してのリーズナブルさにもう一度驚く人が、とても多い。
なかでもわたしのお勧めは、お寿司。
大振りの新鮮なネタがどどんと載っている迫力は、他では見られない。
黄金色に粒のたったうに。
ぷっくりとふくらんだいくら。
とろりととろけるえび。
甘く身の厚いほたて。
回転寿司でも十分に楽しめるネタの充実ぶりは、ひとの舌をこよなく楽しませてくれる。
おいしいものが目白押しの北海道。
そんな北海道に住まいながら、わたしは心ひそかに本州への憧れを抱き続けてきた。
それは例えば、江戸前寿司。
冷凍の技術がなく、食材の日持ちがしない江戸時代。
発展したのは、素材をいかにおいしく、美しく見せるかを考えつくした、伝統的な下ごしらえの技。
酢やしょうゆにつけ、煮て、ゆでて、炙ってと、素材に合わせた多彩な下仕事と、美しく入れられた包丁目。
「買って来たのをおろして、切り付けて、握って売るんじゃないんだ」
精巧な仕事をする職人さんの言葉に、深くうなづく。
それは例えば、炊き合わせ。
同じ皿に盛る煮物を、別々の鍋で炊いて仕立てる、手の込んだ作り方。
例をあげるなら、春が旬の筍とわかめ。
味が入るのに時間がかかる筍と、煮すぎると溶けるわかめの組み合わせだ。
同じ鍋だと、わかめの色が筍にうつる。わかめが筍に絡んで、見栄えが悪くなる。
だから、筍はゆっくりと鰹節を効かせて煮込み、わかめはさっと別に煮る。
その二つを、「筍とわかめの炊き合わせ」という一品として盛り付ける。
そんな手間をかけた繊細さが、炊き合わせにはある。
北海道に住まいながら、わたしはその、「手をかける」という贅沢さに憧れ続けていた。
一歩、北海道を出てみると、「北海道」の名を冠した商品をあちこちで見かける。
北海道の食べ物は、おいしい。安心、安全。
そんな北海道ブランドが、確立している。
あらためて調べると、北海道の食料自給率は、なんと200%超。
生乳、じゃがいも、小麦の生産が多く、カロリーベースでは不動の全国1位を誇る。
北海道の食は、質量ともに豊かなのだ、と、一見、誇らしくもなる。
しかし、売られているものをよく見ると、素材が多い。
北海道で生産された素材は、加工することなくそのまま送られている、という状況が透けて見える。
北海道の食は素材が良いから、比較的手をかけずにおいしく食べられる。
だから自然と、素材勝負の料理が多くなる。
しかし、素材をそのまま食べさせる料理は、単純なシステムに乗せることができる。
それは、簡単に誰でも同じものが作れてしまう、ということだ。
一方、手をかけた料理を作るには、一定の技術がいる。
そこで仕上がってくるのは、「買って来たのをおろして、切り付けて、握って売る」のではない、仕事のされた料理だ。
素材と料理に、食べ物としての優劣はない。
でもその二つには、際立った違いがある。
それは、同じものは簡単につくれない、という決め手があるかどうかということだ。
そんな素材と料理の関係は、文章を書くことに似ている。
文章を書くのは、情報という素材を料理するのにとてもよく似た作業だ。
ネットでお店や地域の紹介記事を検索すると、見たことのあるような記事が複数ヒットする。わたしたちはそこから、必要な情報だけをチェックして読み流す。
そんな記事の生産元のひとつは、2000字/500円などの価で募集される、ブログ記事のライティングだ。その条件を眺めると、マニュアルあり、初心者でも簡単、などの、気軽そうな言葉が並ぶ。そんな対価で調べこんだオリジナルの記事をかくなんて、至難の業。だからマニュアルに沿って情報をコピーしただけの記事が、量産され、媒体に乗り、右から左へと消費されていくことになる。
一方、情報が咀嚼され、ほかのものと組み合わされ、形を変えながらアウトプットされた時、文章の印象はがらりと変わる。
そこに生まれるのは、その人にしかできない仕事を施された、文章だ。
それはすでに、情報というむき身の素材であることをやめている。
あたかも、江戸前の職人が細工をした、美しく並ぶ寿司のように。
おいしい素材をみつけるのは、料理人の目利きというもの。
そして、それをおいしく料理するのが、料理人の本領の発揮どころ。
おいしい文章の書き手は、料理上手なのだ。
そんなことを考えながら、関東に越してきた道産子のわたしは、キーボードをぽちぽちとたたく。
とびきりの素材でおいしい料理を提供する、そんな日を目指して。
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