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「私は3人目だと思うから」青い髪の彼女と私の共通点


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記事:ノリ(ライティング・ゼミ)

「いえ、知らないの。多分、私は3人目だと思うから」
彼女は敵と戦って、仲間をかばうために死んだ。
誰もがそう思っていたところに無事と連絡が入り、病院へと駆けつけた仲間が助けてくれた礼をいうと、こう言った。

彼女とは、エヴァンゲリオン零号機パイロットの綾波レイだ。
第16使徒に侵食されて零号機は自爆。そしてレイも死んだ。これはレイの2度目の死だった。
1人目のレイは、幼いころ「ばあさん」と呼んだ赤木博士(母の方ね)に殺されたらしい。

この現実離れしたアニメの中で、謎に包まれ、感情が見えず人形みたいに描かれるキャラクター、綾波レイに、私はものすごく親近感を覚える。
かたや、第3新東京市でエヴァを操縦する14歳の女の子。
かたや、地方都市でぼちぼち暮らす中年女。
それは、髪型がボブだからではない。
「3人目」だからだ。

私はこれまで2度死んでいる。

1度目は、27歳の時。
中学生のときからつきあっている彼がいた。
私は転勤の多い家庭だったため、つきあいだしてすぐに私は転校し、それからずっと遠距離恋愛だった。それでも細く長く付き合いが続いていた。
どちらの両親も公認のつきあいで、周りの友人にも知らない人はいなかった。彼氏というよりも家族に近いものがあった。
大学院を卒業した彼の就職を機会に、結婚しようという話になったのは、ごく自然で、むしろ、遅いくらいだった。
しかし、いざ、結婚となると、つきあっていた長い時間では埋められなかった価値観の違いが浮き彫りになってくる。
そのうちの一つが、結婚式をするかしないか。
両親のためにも式をしたい長女の私と、そんなものに金をかけたくない次男の彼。
結婚することは決まったものの、結婚式についてはもちろん、新居も、今後の予定も、一向に話が進まないまま、結婚の話はなくなった。
ほどなくして彼は別の女性と結婚したと聞かされた。
私ではない妻がお風呂に入っている間、彼は私に電話をしてきた。
これまでのことを謝られ、私は怒りを通り越してあきれ、二度と電話しないことを約束させた。
その電話を東京駅で受けた私は、婚約指輪がわりにもらった指輪を東京駅のゴミ箱に投げ捨てた。
それから3ヶ月、私は実家で魂が抜けたように日々をやり過ごしていた。
彼をものすごく気に入っていた母も、何も言わないでいてくれた。
私は一度、死んだ。

それから私は新しい仕事を見つけた。
面白くて面白くて、のめり込んだ。仕事に打ち込むほど、会社の中に新しい居場所が出来ていく。
試用期間が過ぎると、それまでフリーターとしてアルバイトを転々としていた私が、契約社員として会社に入ることになったのだ。
まったくの未経験だったから、入社して少し仕事のペースが見えてくると、学校へ通ってスキルアップに励んだ。
金曜の仕事が終わると仙台から夜行バスに乗って東京へ向かった。
東京では土曜日の午後から学校がある。授業を受けて土曜日の夜、またバスに乗り、日曜の朝に帰ってくる。そうした生活を9カ月送った。
会社もそんな努力を買ってくれて、私は部署を異動になり、正社員となり、さらに責任の大きい仕事を任されることになった。毎日が刺激的だった。
それから後輩もできた。ちゃんとできていたかはわからないけれど、後輩への指導もやりがいを感じていた。
5年、6年と在籍期間が過ぎると、大きなプレゼンのメンバーにも入ることも増え、社内の会議にも出るようになり、中堅の社員になりつつあった。
私はとても充実していた。はずだった。
会社に入って10年を迎えるころ、私は仕事ができなくなった。
うつ病になったのだ。
上司とは合わなかった。合わなかったけど無理して合わせていた。震災後リストラがあって会社は暗かった。通勤がきつかった。担当する仕事の内容がどんどん変わって辛かった……。
いろいろなことが想い浮かぶが、原因ははっきりとはわからない。
けれどもう、この職場にはいられない。
私は休職の末、会社を辞めることになった。
これまで何度も転職を経験していれば、ダメージは少なかったのかもしれない。
しかし私にとってはこれが会社員としての1社目。
10年かけて築き上げてきたプライドが、いっそう自分を苦しめた。
私はまた、死んだ。
1年ほどの間、ほとんどを布団の中で過ごしていた。
そして最近、やっと生き返ったところだ。

私をサルベージしてくれたものは、家族の存在であり、友人のやさしさであり、元同僚の気づかいであり、新しい仕事での自信であり、これまでの楽しい思い出であり、季節の移り変わりであり、青空を行く雲であり、コーヒーのポイントカードであり、ポケモンGOだった。

生きていると“詰む”ことがある。
私はこれまで2回詰んだ、それだけの話だ。
そして今、3人目の人生を歩み始めている。
世の中には、おおっぴらにしていないだけで、2人目の人、3人目の人、5人目の人、10人目の人、たくさんいるのだと思う。
でも、そうやって生きていけばいい。
何回死んでも、何度でも生きていけばいい。

ただ私たちは、綾波レイのように、新しい肉体が何度も与えられるわけではない。
本当の意味で死んではだめだ。
けれど肉体さえ生きていれば、何人目の人生も生きることができる。
そして、どうのこうの言う奴には、冷たく言ってやればいい。
「知らないの。多分、私は3人目だと思うから」

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2017-03-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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