排水溝の詰まりに自分を重ねる
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:ヒトミ(ライティング・ゼミ)
「ゴボッ……ゴボッ……ボッボッボッ……」
頭を洗っているので、目が開けられない。
なんだ? なんの音だ?
シャンプーが目にしみないように少しだけ片目を開けてみる。
「ギャー!!!」
突然のことに叫び声をあげた。
頭はシャンプーまみれ。体もビショビショだ。
しかし……外に出なくては……。
急いで外に出る。バスタオルを体に巻きつけ、さっきから私の目を攻撃してくるシャンプーを洗い流すべく洗面台に向かう。
「はぁ……」
一息ついた後で、恐る恐るお風呂場をのぞきこんでみる。
やられた。いや、やってしまった。
嫌なにおいが鼻をつく。
目の前には排水溝から逆流してきた、髪の毛やヌメヌメしたよく分からないものが、お風呂場の床一面に浮かんでいた。
今思えば、少し前から兆候はあった。水の流れがあまり良くなかったし、たまにゴボッっと無理やり水を流しているような音がしていた。
でもあまり気にとめていなかった。とりあえず水は流れていたし、他に気にすることはたくさんあるし……。
まさか逆流してくるとは……。
寒くなってきた体をブルッと震わせながら、昨日の修羅場を思い出した。
特に嫌な事があったわけでもないが、ちょっとした事にイラッとした。パソコンの起動が遅い。片づけたはずの部屋がまた汚い。トイレの便座があがっている……。
いつもなら「もー。やめてよ……」で終わる程度のことだ。
しかしこの日はなぜか、いちいちケチをつけたくなるような気分だった。
相方が家に帰ってきてから、イライラが増大した。
ご機嫌で帰ってきた相方。仕事の後に趣味のボルダリングに行ったようだ。その連絡は受けている。時間も8時と遅くない。
何でこんなにイライラするんだろう? と自分に自問自答するが、答えは出てこない。
「ただいまー」と言いながらコートを掛けている。
うしろ姿に舌打ちしながら、「ご飯は?」と聞く。
「後で食べるー」と相方。
「後っていつよ?」と私。ため続けたイライラはかなりのレベルに達している。
「んー。あんまりお腹すいてないんよ。お腹すいたら食べる」
この言葉で切れた。
洗い物がすぐにできないし! やらないといけないことがたくさんあるし! 早く家事を終わらせたいのに!
そこから何を言ったのかハッキリとは覚えていない。しなければいけない仕事があるのに、晩御飯を作っている気持ちを考えろ! だの、どれだけ仕事と子育てを両立するのが大変かなど、愚痴を延々とまくし立てた。
ひと通り文句を言い終わり、初めて相方の顔をちゃんと見た。ご機嫌で帰ってきた彼の顔はとても悲しそうなものになっていた。
やってしまった。全然怒る理由なんてなかったはずだ。
「自分で食べたものは洗ってね」と一言いえばよかっただけだ。
相方はやるべき仕事をこなし、健康管理もかねて仕事終わりにボルダリングに行っただけだ。今ご飯を食べたくないと思っただけだ。
共働きということもあり、家事や育児にも積極的に関わってくれている。酒飲みの私が、月に何度も友達と夜遊びできるのも、ライティング・ゼミに子供をあずけて通えるのも、すべてこの相方がいるおかげだ。
なのに、どうしてだろう?
申し訳ない気持ちになってきた。でも、一人でがなり立てた手前、すぐに謝ることもできない。変なプライドが「謝らなくていいよ」「はやく洗い物を片付けて、ホッとしたかったんだし……」「相方にも責任はあるって……」っと、罪をなすりつけようとする。
いやいや、今のはどう考えても私が悪かった。相方に非がないことは明白だ。
しかし、すぐに謝る勇気もない。ただ黙っていた。
沈黙。
「……ごめん」
沈黙をやぶったのは相方だった。
申し訳ないと思う気持ちと、まだ謝りたくないという気持ちが交差して、私が口にした言葉は「もう寝る!」だった。
そのまま次の日になった。
朝、相方は何もなかったかのように仕事に行った。私は心のモヤモヤを洗い流したいとお風呂場に駆け込んだ。そこで排水溝が詰まったのだ……。
これは何かを意図しているのに違いない。そうとしか思えないタイミングだった。
逆流してくる髪やヌメヌメしたものを見ながら、これは昨日の私だなと思った。
お風呂に入るたびに要らないものが排水溝をつたってパイプに流れていく。毎回掃除をかかさなければ良いのだが、ほっておくと汚れやヌメリがひどくなり、最終的には詰まってしまう。詰まってしまうと、もう流れない。今度は逆流してきてしまう。
私のイライラも同じようなものだったんだろう。やらなければいけないと思う事がありすぎた。人の手を借りるなり、できない分は明日に回すなり方法はいくらでもあるはずだ。
でも、それが出来ずに「やらなければ!やらなければ!」と「やるべきリスト」がパンパンに詰まった。それが「洗い物の後回し」で溢れかえってしまった。
もっと心に余裕を持って行動しなければ。洗い物なんて明日の朝にすればいいだけの話だ。
とりあえず、「排水溝クリーナ」を買いに行こう。
そして今日相方が帰ってきたら、「ごめんなさい」と言おう。
冷えたからだを震わせながら、そう思った。
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