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就活は長距離マラソンなんかじゃなかった


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記事:なみ(ライティング・ゼミ)

 

「なぜこの業界を志望したのですか?」

「私が商社を志望する理由としては、物流を通して国の垣根を超えた……」

 

姿勢を正したまま、体共々口も動かなくなる。

 

「どうしたの」

「あーもう嫌だ、めんどくさい」

 

 

さっきまで膝の上できれいに重ねていた手は、カバンの中を探っている。

そして目的のスマートフォンを見つけると、

いつものように触りだした。

 

「もう9月だって」

 

「ね、秋だね」

 

ほとんどの同級生達は、夏には内定を決めていた。

ほとんどの、大学4年生は。

 

就職活動に行き詰まった女子大生2人がたどり着いたのは、神保町の老舗喫茶店。

木でできた小さいテーブルとイスにそぐわない真っ黒いスーツで、

大きなカバンを腰で押さえながらやっと座っている。

 

「この前の面接さ、おねえさんめっちゃ笑顔で話を聞いてくれるから行けた! とか思っていたんだけどさ」

「え、まさか」

「落とされたわー、もう大人の笑顔なんて信用しない」

明るいテンションで話をしてみたものの、なんだか窮屈になって、水を口に含む。

すると空気を変えるように、友人が話を切り出してきた。

 

「うちのゼミ生が言ってたんだけどさ、めっちゃ成績悪くて卒業ギリギリなのに超大手企業から内定だって」

 

「政経の特待生さ、有名ブラック企業の営業だってね」

 

「えーマジで、もったいな!」

 

「ね、世の中って不公平だね」

 

それっきりお互い、しゃべらなくなった。

4年間なんて、まるで意味がなかったのか。

入学した時点で、まるで将来が決められているようだ。

 

なんのために大学に行ったのか、

自分自身でも分からなくなってくる。

それでも受け続けなければいけない。

どんなに勉学を頑張ってても、学生には分からない、会社に欲しい魅力を備えていなければ、内定がでない。

自分でどんなにPRをしても、見る相手が望んでいないのであれば意味がない。

例えば笑点の前座は漫才だし、音楽ライブの前座も売れる寸前のミュージシャンだ。

観客が見たいものを見せなければ、お客さんは食いついてくれない。

しかし、私を含め、内定が出ない多くの就活生は、会社が求めているものが分からなかった。

そこでつい相談するのが、自分の一番近しい、内定を持っている友人や先輩だ。

 

「内定持ってる子に聞いたんだけどさ、やっぱり自己分析が一番大事だって。もう一回自己分析やり直そうかな」

「バイトの先輩は自己分析なんて必要ないって言ってたよ。行きたい企業に合わせて対策を練った方がいいって」

「なんだかよく分かんないね」

 

就活終盤になると、多くの内定を持っている学生、いい企業に就職した先輩の意見が、就活生の間で多く共有されるようになる。

中には、大学から推薦をされた学生が、就職指導課で相談員として、同級生の就活の相談に乗ったりする。

ついこの前まで、同じ教室、同じ立場で勉強していた仲間が、相談員として就職指導課の一員になるのだ。

この敗北感は、社会人になる前の洗礼のように見えた。

きっとこんなものではないだろう、同期に先に出世をされるサラリーマンの気持ちは。

 

 

いろんなアドバイスに揉まれて、どれを参考にしていいのか分からなくなってくるのが、この秋くらいからだ。

 

ちょうど、私と友人も、先の見えない不安の中に迷い込んでいた。

誰の意見を参考にしたらよいのか分からない。

言われたことを試してみても、なんだか上手くいかない。そんな日々が続いていた。

 

その日の夜、どんよりした気持ちのまま、家に着いてしまった。

 

「何、またダメだったの」

「今日は面接なかったよ」

”また”ダメだった。

あまり就活の話はしないのに、失敗続きであることが母親にばれている。

出来の悪い娘でごめん。

更に勝手に落ち込みながら、布団にもぐりこんだ。

 

眠れないまましばらくすると、母親が近づいてくるのを感じて、

思わず布団を深くかぶった。

「今日の布団、ふかふかでしょ。天気が良かったから干したんだよ」

太陽のにおいがするでしょう。

そう言う母の問いかけに、うん、と頷くのが精一杯だった。

 

私はまるで泥沼の中にいた。

就活から抜け出したくて、必死に目についた物に飛びつくものの、どんどん沈んでいく、まるで泥沼のような状態だった。

もがいてももがいても、周りに生えている草木にしがみついても、這い上がれなかった。

 

きっと、沈んでいく足元ばかり見ていたからかもしれない。

空を見上げたら、そのうち陽が差してくる。

地面もそのうち乾いてくる。

無我夢中にあれこれ飛びつかず、一度立ち止まればよかったのだ。

 

 

 

 

 

それから数日が経って、

今日はいつもの友人との就活反省会の日だ。

その前に、言っておかなければ。

そう思って電話をした。

「おはよう」

「何、電話なんて珍しいね」

「これから会うのにごめんね」

「ううん、どうしたの?」

「確かベッドじゃなくて布団だったよね」

「そうだけど」

窓の外には、さわやかな秋晴れの空が広がっている。

柔らかい陽射しが、部屋の中を優しく照らしている。

 

「今日はさ、お互いに悩んでいること全部言い合おう。そしてさ、夜はふかふかの布団で寝よう」

 

嫌なことなんてたくさんある。

けれど、頑張れる気がするよ。

太陽のにおいに包まれて寝ると。

だからさ、

 

「出してからおいで」

***

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2017-03-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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