内密にお願いしたいのですが、探偵業始めました。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:牛丸ショーヌ(ライティング・ゼミ)
突然のわたくし事で恐縮でございます。
ごく親しい方にしか伝えてなかったのですが、2017年3月20日(祝)に福岡で探偵事務所を開業しました。
開業と言いましても、私が勝手にこの日を「開業日」と定めただけでありまして、お祝いの花を頂くことなく、人知れず、ひっそりと始めたという次第でございます。
その前に、私の出自と名前のエピソードから聞いてください。
私”牛丸ショーヌ”は日本名(戸籍上)”牛丸ショウタ”と申しまして、国籍は日本人でありますが、父方の祖父が「アイルランド人」という日本ではあまりお見かけしない国の出身でありました。
詰まるところ、私はアイルランド人の血が4分の1入っていることになります。
私が物心ついたときにはすでに祖父は他界していたのですが、その祖父は物凄く高潔で厳格な性格だったらしく、数多くの武勇伝があったそうです。
幼いときに父から祖父の話を聞いていたためか、いつしか私の中で祖父の存在が大きくなっていたのです。
自分にもアイルランド人の血が流れている。
祖父に対する尊敬心もあり、30歳という年齢を越えたあたりから、私は主にネット上で「ショーヌ」と名乗ることにしました。
アイルランドで”ショーン”という名はごくありふれた「名」でありますが、日本でも知名度のある映画俳優(ショーン・コネリー)のおかげで、珍しい「名」ではありません。
そこで、名前を聞いた方が一度で覚えてもらえるように、ショーンをもじって”ショーヌ”とした経緯があるのです。
さて、なぜそのような血脈のもとに生まれた私が探偵業を始めたのか?
いよいよ本題になりますが、その理由も、やはり祖父に関係するのです。
詳しくは知りませんが、祖父は日本に来る前に母国で小さな個人の「興信所」を営んでいたと聞きました。
興信所とは企業の信用調査が主な業務です。
現代日本では個人でやっているところはほぼ無いかとは思いますが、祖父が生きていた時代は珍しくなかったとか。
社会人になったばかりのときに、そのことについて聞いた私は、興信所や探偵業に強い興味を持ち続けていました。
高校生のときは「名探偵」が事件を解決するいわゆる「探偵小説」を夢中で読んだものです。
特に明智小五郎や金田一耕助がお気に入りの探偵でした。
しかし、社会に出てから気づいてしまいました。
「探偵」という職業が、現実とこんなにも乖離しているということに。
「私立探偵」が颯爽と現れて、警察でも解決できなかった事件の謎を解き明かす。
現実世界ではこのようなことはまずあり得ません。
言わば「探偵小説」というのは、舞台を現実世界に置き換えた「ファンタジー」だったのです。
なぜ、現実ではあり得ない物語にこんなにも人は興味を引きつけられるのでしょうか?
それは「謎」を解き明かす過程にあると思っています。
私たちが生きる日常の中に「事件」が起こり、「謎」が浮かび上がる。
それを「誰か」が論理的に、誰もが納得できるように解き明かしていく。
徐々に徐々に謎が解明されなければなりません。
それがお約束です。
人間の知的好奇心は留まることを知りません。
元来、私たちは「知りたい」生き物なのです。
読み手である私たちは、物語の中で提示された「謎」が「誰か」によって解明されるまでの過程を楽しんでいるのです。
その「誰か」の役割を担うのが時には「刑事」であり、「探偵」なのでしょう。
国家の警察機関よりも、民間人である「探偵」に親近感を持つのは当然です。
いわば、「探偵」とは現代における「謎の解明装置」の役割を果しているのです。
こんなことを考えるようになってから、ますます探偵業に対する想いが強くなってきました。
いつか自分が探偵をやってみたい。
日に日にその想いは増すばかりでした。
そして私が本格的に「探偵事務所」を始めようと決断したのは、近年立て続けに起きた震災を経てからでした。
少しでも社会の役に立つことをしたい。
そのためには、「利益」を追求してはならない。
ボランティアとは違ったかたちで社会に貢献する。
それが私の場合は「探偵業」だったのです。
しかし、私は会社に勤めています。
それも、会社は金融機関です。
社員規則を調べてはいませんが、通常の会社は「副業」を禁じているところが多いはずです。
こういう理由から「副業」に当たらないように原則は「社会奉仕」の一環として困っている人たちの依頼を無償で解決することを目標に定めました。
※本来はもう1つの収入源が年間20万円を越えなければ確定申告をする必要はありません。
もちろん、全てが無償というわけにもいかず、交通費や経費は実費を払ってもらいますし、依頼の内容によってはお客様から対価を頂くこともあろうかと思われます。
「儲ける」ことが目的でなければ良いのです。
そんなこんなで、わりと緩い理念を掲げて昨年の10月から開業に向けての準備を開始しました。
まずは事務所。
これは不動産関係の知人がいるおかげで福岡市の中心地である天神から徒歩15分くらいの場所にあるワンルームマンションを借りることにしました。
築41年と古く、家賃は月に3万5千円ですが、紹介者の厚意と3年間空室だったこともあり月2万円になりました。
その部屋にパソコン1台と、リサイクルショップで購入したテーブルに椅子2脚。
物件の敷金を合わせても初期経費(開業資金)は7万円程度で収まりました。
天狼院書店の三浦店主はライティング・スキルを駆使して金融機関から資金を引っ張ったのは有名な話ですが、私の場合はどうやら借入しないでどうにかなりそうです。
実はいきなり何の計画性もなく、勢いだけで「探偵業」を始めたわけではありません。
日本で探偵スキルを習得するためには、ここしかないと言われる大手探偵養成機関であるG探偵学校を卒業しているのです。
30万円以上する学費を支出して、会社勤めをしながら、夜間や休みの日を利用して、半年間みっちりと探偵業の基礎を学びました。
尾行実習、張り込み、聞き込み話法、盗聴・盗撮発見スキルなど、ここでは申し上げられないような専門的で危険なことも体得したのです。
卒業後は通常、G探偵学校が運営する事務所のフランチャイズ方式を利用するという手もあったのですが、私は片手間の副業ということもあり、個人で独立する道を選びました。
事務所名は「ショーヌ探偵事務所」に決定。
大手の名前を使わないということで、まずは認知度を上げるためにホームページを立ち上げました。
友人に協力してもらい、サイトを開設したのです。
ランニングコストを抑えるため、固定電話も引かずにお客様からの依頼は原則、サイトから受けるという方式にしました。
「探偵業」は信用が第一です。
依頼はネット経由で受けるのですが、内容によっては事務所まで依頼主にきてもらうことにしました。
面会して依頼主の「人となり」を見極めるのも探偵としての重要な対人スキルです。
また、依頼主と会わないで、依頼を請け負う場合は、成果としての報告は電話、メール又は郵送でやり取りすることに決めました。
広告宣伝費も最小限に抑えたかったのですが、SEO対策には注力しました。
その甲斐もあり、Googleで「福岡 探偵事務所」で検索すると上から5番目に「ショーヌ探偵事務所」が出てくるまでになりました。
公安委員会に提出していた「探偵業」の届け出が認可されたという通知がきました。
万全の準備を整えたうえで、晴れて3月20日の開設に至ったのです。
皆さんは「探偵業」と聞いてどういう業務を思い浮かべるでしょうか?
私のような個人でやっている私立探偵への依頼は8割が浮気調査だと言われています。
よくドラマや映画でも妻が探偵を雇い夫の浮気現場写真を撮影する場面が出てきますのでご存知の方も多いと思われます。
あとは所在調査、家出人捜索調査そして盗聴器の発見業務などです。
私は副業のため、できるだけコストをかけたくない。
そして、ほぼ報酬も貰わないスタイルなので機材にお金がかかる盗聴・盗撮器の発見業務は請け負わないことにしました。
もちろん、私の考えが及ばないような依頼内容がきたときはそのときに考えるということで、基本は土日と平日夜だけの勤務になるため、時間的制約に縛られない依頼に限定することにしたのです。
もう緊張を感じる年齢ではないと思っていたのですが、20日の朝10時にサイトがアップしてからは気分が落ち着かず、10分おきに依頼がきていないかを確認したものです。
冷静に考えてみればそりゃあ、そうでしょう。
この日本で、何か困ったことがあったときに、「探偵事務所」を検索する人が一体何人いるでしょうか?
もちろん、私はサイトだけを頼りにしていたわけではありません。
地元の友人・知人や仕事で知り合った方々を通じて、ごく小規模ではありますが、事務所開設のPRをさせてもらいました。
名刺を作成して50枚以上は撒いていたのです。
1週間経過したころに、1件くらいは冷やかしでもいいので、依頼が来ないと悲しいなと、そんなことをぼんやり考えるようになりました。
現実の「探偵業」なんて、こんなものなのです。
ひっきりなしに事件が続いて、探偵が忙しくすることはありません。
頭脳明晰な探偵がスマートに事件を解決するなんて、実際の「探偵業」を学んだ私から言わせてもらうと、子供のときにテレビ番組で観た「ヒーロー」番組のようです。
現実は物凄く地味で、「待機すること」に根気がいる職業なのです。
幸いにも私は副業ということで、ネット経由での依頼しか受けないこともあり、待機時間は趣味の読書や映画を観ているため、苦痛ではないですが……。
そんな私の予想に反して最初の依頼がきたのは24日金曜日の夜でした。
開設して5日目です。
本業の仕事を終えて、帰りの電車の中で日課になったサイトの依頼箱を確認すると1件、依頼がきていたのです。
「おぉ!」
喜ぶべきか微妙なところですが、内容を読んでみました。
件名は「ターニャの捜索」。
「まさか、初めての依頼がロシア人の捜索とは! しかも福岡で?」
とりあえずは読み進めてみることにしました。
「名前はターニャ・品種サイベリアン・黒・5歳・オス・温和で優しい性格です。非常に賢くて、ターニャちゃんと名前を呼べば大抵は来てくれます。散歩に出ても夕方には帰ってくるのにもう1週間、姿を見せてくれません。お腹を空かしてなければよいのですが。ぜひ捜索してください」
※依頼内容の件名・本文は秘匿しなければならないため、実際とは異なります。
ロシア人ならぬ、ロシア猫の捜索とは……。
うーん、この展開はどこかで読んだことがある。
小説だったか、漫画だったか。
人が死なないミステリーではありふれた話。
まさか、探偵事務所に本気で依頼を出してくるとは。
正直なところ、依頼を受けるかどうか迷いましたが、飼い主にとっては心配でたまらない事態なのでしょう。
藁にもすがる想いで依頼してきたのが分かります。
困っているに違いない。
私は本件を探偵業としての最初の依頼として、取り組むことに決めたのです。
どのようにして、依頼を解決していくのかはまたの機会に。
そんなこんなで、私は探偵業を始めました。
福岡で地域に根差してひっそりとやっていきたいという希望もあり、大々的な告知は今後もする予定はございません。
ここまで読んで頂きました皆々様、ありがとうございました。
そして、どうかこの探偵事務所のことは内密にお願いいたします。
今後とも福岡でひっそりと営業している「ショーヌ探偵事務所」をご贔屓に。
※本内容はフィクションです。「依頼」は承っていませんのでご注意ください。
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