年中無休のフードフェスティバル
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記事:キクモトユキコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
2014年の8月、私はとあるイベント会場でたこ焼きを焼いていた。会場は大盛況で、ステージの方からは演歌や和太鼓の演奏も時折聞こえてくる。私はせっせとたこ焼きをこしらえ、出店の前を通り過ぎるお客さんにたこ焼きをアピールしていた。
別に大阪出身という訳ではない。稼業でもない。ただ、家にたこ焼き器を持っている程度には好きなので、非関西圏の人間の中では上手に焼ける方ではないかと思っていた。知り合いがイベントでたこ焼きを売っていて、人手が足りないので手伝ってほしいと言われたのと暇を持て余した自分自身がお手伝いをしたかったから、5時間ほど高速バスに揺られてこの場所にやってきたのだった。
このイベント会場にたこ焼きという食べ物を知っている人はほとんどいない。たこ焼きを買うときに支払われるお金は「円」ではないし、注文だって日本語ではない。なんたって8月なのに桜が咲いている。そもそもこのイベント自体が「桜まつり」だ。
2014年の8月、私はブラジルの桜まつりでたこ焼きを焼いていた。
ブラジルに来て2年半が過ぎ、ポルトガル語での簡単な接客くらいなら問題ない。それでも「タコ」を意味する「ポゥヴォ」の発音は私にとっては厄介で、よく「ポーヴォ?」と聞き返された。「人々(ポーヴォ)」入りの食べ物なんて、誰も食べたくないはずだ。
日本では褒め言葉の「外はカリッと、中はトロトロ」も、こちらの人からしたら生焼けだと感じることもあるようで、一口食べたお客さんから「大丈夫なのか」と質問されることもたまにあった。
それでもたこ焼きの評判は上々、食べ終わったお客さんから「美味しかったよ」と言ってもらえることも多かった。日本で愛される食べ物が異国の地でも気に入られるのはくすぐったくて誇らしい。
ブラジルには日系人が多い。
この「桜まつり」の会場は、日系の養護老人施設の敷地内にある公園で毎年開かれている。日本の桜は桜並木のように道沿いに植わっているのが一般的なイメージだけど、この会場は梅園のような雰囲気で敷地内のそこかしこに桜が植わっていた。出店も日本食関係からブラジルでよく見る出店、手作り品の販売などと幅広い。
ステージでは養護老人施設の入居者なのか、日系人らしきおじいちゃんおばあちゃんたちが演歌や昔の日本の歌をカラオケで歌っていた。かと思えばアルプス地方の民族衣装を着た可愛らしい女の子たちがやってきてダンスを踊る。
この地方は「ブラジルのスイス」と呼ばれる高地にある観光地で、もともとはスイス系移民が多く入植したことに由来する。チーズフォンデュや地ビール、チョコレートも有名だ。サンパウロなどの都会に住むブラジル人は、標高が高く涼しいこの地に避暑のためではなく、冬にブーツやマフラー、コートなどの冬のファッションを楽しむためにやってくるのだとよく聞いた。かくいう私も、旅行でここに来るときは日本から持ってきたブーツをちゃっかり履いて行ったのだった。
ブラジルには移民が多い。日系人だけではない。
アフリカ系、ドイツ系やイタリア系、アラブ系、中国系、韓国系…… 日本では色んな国の料理が食べられて良い! と思っていたけれど、ブラジルだって全然負けていない。アラブ料理なんて日本では食べたことがなかった。そしてそれがブラジルではコンビニで買える肉まんレベルにポピュラーな食べ物だったりするのだ。手巻き寿司だって日本では家庭料理で、わざわざお寿司屋さんに手巻き寿司だけを食べに行くなんて考えられないけど、こちらで手巻きはファストフードのような扱いで専門店も数多い。
ピザ屋の多さに驚き、ピザ食べ放題にチャレンジしたり、ソーセージとザワークラウトとビール以外のドイツ料理を知ったり、得体の知れなかったアラブ料理の豆のペーストがなぜか懐かしい味がしたり。
中国人街、韓国人街で食べるアジア料理のレストランは、家庭で賄える日本料理と違って慣れ親しんでいるけれど家では作れない味を提供してくれる貴重なオアシスだった。
それぞれの国から持ち込まれた料理がそのままブラジルを代表する食べ物になっている。日本のカレーやラーメンのように持ち込まれてから独自に進化した食べ物も多くあるけれど、意外とちゃんとした料理が食べられたりする。長年日本に暮らし、ブラジルに帰ってきた日系人の友人はブラジル初の讃岐うどん専門店をサンパウロに開いて今や有名人気店だ。ビジネスチャンスだって眠っている。
もはや国全体がフードフェスティバル。食べ物だけではなくて文化も楽しめる複合型イベント。こんなに数多くの出店者を受け入れ、参加者を楽しませる懐の大きな主催者。そんな国がブラジルなのだと思う。
年中無休で楽しめるフードフェスティバル。入場料はないけれど、パスポートと航空券はちゃんと用意してくださいね。
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