選ばなかった道がまぶしくてしょうがなかった私が、いま一番したいこと
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記事:hiro(ライティング・ゼミ平日コース)
『結婚したまえ、君は後悔するだろう。結婚しないでいたまえ、君は後悔するだろう』
哲学者キルケゴールの名言が、じわじわと心に刺さる。
そうなのだ。
選ばなかった道は、妙に輝いて見えてしまうから困る。
「あの時、ああしていれば……」という思いは、ことあるごとに顔をのぞかせ、一生かけてその人を苦しめることになる。
欲張りな私は、経験しないまま後悔することに耐えられず、思いついたら即方向転換してきた。
特に職業に関しては、心の赴くままアグレッシブに動いてきた。
大学卒業後、最初に就職した企業は名が知れていて給料も良く、社会人としての常識が身に付く会社だった。
本当は出版社に入りたかったのだが、大手出版社の採用はどこも宝くじで1等を引くぐらいの倍率で、書類審査の段階で落とされることがほとんど。なかなか内定が出ず、焦りを感じた私は、取り返しがつかなくなる前に一般企業へ切り替えた。
だが、この逃げ腰の選択が後々まで私をひどく後悔させることになった。
はじめのうちは歓迎会だの、社員旅行だの、新入社員時代はちやほやされて楽しかったOL生活も、2年目には色褪せてしまった。さらに、規格外のことを決してしてはならないという社風が合わず、息苦しさを感じるようになってきたのだ。
「私の人生このままでいいのだろうか?」という疑念が仕事中も頭から離れなくなり、早々に諦めてしまった出版社への思いが再燃してきてしまった。入社から5年、周囲の反対を押し切って、とうとう会社を辞めることを決意した。
退職後は、小さな専門出版社にアルバイトで入ることができた。憧れの出版業界に入った私は、意気揚々と仕事をした。前職の蓄えがあったから、たとえ給料が大学生のバイト並みであっても、1カ月振り込みが遅れても、構わず元気に働いた。
もともと人が少ない出版社ということもあったが、やる気満々で働いた私は瞬く間に昇進して、気づけば新しく立ち上げたばかりの雑誌の編集長になっていた。
しがない零細出版社の新雑誌といえども、編集長は編集長である。
次第にいろいろな人から売り込みに応えたり、挨拶対応などに追われるようになり、目が回りだした。
もともと未経験からのスタートだったのに、2年も経たないうちにわけもわからず編集長として担ぎ出された私は、限界がくるのも早かった。
また、綱渡り状態の経営を続けていた会社は、たびたび原稿料不払いを引き起こし、そのたびに編集長として頭を下げるのにも疲れてしまった。かなり強く引き留められたが、結局丸2年でその出版社を辞めた。
その後、同じ業界の専門出版社に入ったが、景気の悪い業界でこのまま安月給の仕事を続けて良いものか、迷い始めてもいた。
30歳を過ぎ、友人はどんどん結婚していくし、挙句の果てには妹にも先を越されてしまった。20代の頃は風船ぐらいの大きさだった私の結婚への憧れは、もはや気球ぐらいまで膨らんでいた。
結婚する人生を選ぶなら、この辺りで婚活に本腰を入れた方がいいんじゃないかということで、私は思い切って結婚相談所に登録した。
入会金が10万円もするところで、毎月2万円もの会費をとる代わりに、身分も収入も保証された男性を紹介してくれるというシステムである。
しかしこれがどうも……会った時から結婚前提で話をするというシステムになかなか馴染めなかった。
お金をかけて気合い十分で乗り込んだはずなのに、結局覚悟を決められず、5人会ったところでドロップアウトした。
退会理由には、「結婚を前提に付き合い始めた男性がいるので」と書いた。
我ながら、かかった費用もついた嘘も痛すぎたと思う。
仕事は微妙、結婚もできない。
失意の中、昨年11月に突如天使が現れた。
甥っ子が産まれたのだ。
「ついに叔母さんになっちゃうのか~」とビクビクしていたが、産まれてみたら想像を絶するかわいさだった。
動物園のパンダの動画を観て「かわいい!」というのとは、次元が違う。
不思議にも、母親である妹以上に私と顔が似ている甥っ子を見ると、「将来私が子どもを授かったら、こんな顔の子が産まれてくるのかなぁ」という幸せな妄想にひたることができる。
ひょっとして、自分が一生子どもを産まなかったとしても、この子を我が子のように可愛がっていれば心は満たされるのではないか、とすら思った。けれど、その甘い幻想はすぐに打ち砕かれた。
季節の行事が来ると、親子にしか入れない世界があることを感じざるを得ない。そんな時、甥っ子はやっぱり妹の子であり、私は母親ではなく伯母さんでしかないと嫌でも思い知らされるのだ。
これまで、私は選ばなかった人生に憧憬を抱くあまり、様々な職場を経験したり、婚活をしてみたりした。しかし、子育ては「興味があるから試してみる」というわけにはいかない。子育てのない人生に戻ることも、子供と縁を切ることもできない。その不可逆性や可動性がないことこそ、崇高な道と言えるのではないだろうか。
選ばなかった道をまぶしく思うのはそろそろ終わりにして、この道を進まずしてどうやって前に進むというのか、と言えるほどの道へ一歩踏み出すこと。これがいまの私の目標だ。
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