満員電車で僕は歌う
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記事:鍋倉大輝(ライティング・ゼミ日曜コース)
今朝もいつもと同じ時間に家を出て、
同じ道を歩き駅に向かう。
駅に着き、改札をくぐり、駅のホームに佇む私。
ああ、今日もこの時間がやってきた。
仕事自体が憂鬱、ということは全くないのだが、
朝のこの時間はどうしても憂鬱になってしまう。
この後に控える、あの時間がなくなるのであれば仕事に対するモチベーションも3割増しぐらいになるのではないだろうか。
この後に控えているのは、
そう、満員電車だ。
物心ついた時から大学生の時まで、ずっと福岡で暮らしていた私。
ご存知の通り、東京には遠く及ばないものの福岡も日本の中ではそれなりに大きい都市だ。
福岡でも、バスや電車が混雑することぐらいもちろんある。
だが、いくら混んだとしても隣の人と肩がぶつかるぐらいのものだった。
それが東京に出てきてみるとどうだろう。
押しつぶされる、というのはこういうことかと、身をもって体感した。
そんな中でも特に、通勤の時間帯は脅威だ。
帰宅の時間は企業によってばらつきが生まれるため、多少は人が分散される。
しかし、始業の時間はどこの企業も似通ったものなので、そうなってしまうのも当然だろう。
昔から通勤ラッシュというワードを耳にすることは多々あった。
それとは無縁の生活をしてきた私だったが、突然その戦場に放り込まれることになった。
社会人になり、上京してきてから幾度となく満員電車を経験した。
だいぶ慣れてはきたものの、好きにはなれそうにないものである。
満員電車には様々な人がいる。
辛そうな顔をしてひたすら耐えている人。
入口脇のスペースを死守する人。
器用に立ち振る舞い、満員の中でも本を読んでいる人。
降りる人を見つけると、さっと身を引いてくれる人。
ドアが開くと、我先にと言わんばかりに人を押しのけて行く人。
一つの車両にあれだけの人が詰め込まれているのだから当然といえば当然なのだが、
本当にいろいろな人が存在する。
良くも悪くも、人間性が現れる場なのだろうなと思う。
こうして語っているものの、私が模範的な振る舞いが出来ているのかというと全くそういうわけではない。
狭い中、本を読み冷たい視線を向けられることもあったし、
急いでいるときは人混みを切り開き、我先に出ていったりすることもあった。
あの大勢の中には、周りの人に迷惑をかけないようにと常に気を遣い、
満員電車という憂鬱な場を、少しでも快適にしようと努力している人もいるだろう。
そんな中、自分本位の行動をしてあの場の秩序を乱してしまったのは本当に反省するほかない。
満員電車という多くの人がいる場ではあるが、一人の与える影響というものは計り知れない。
そんなことを考えながら、満員電車に揺られる私は、ある場面を思い返していた。
「ちょっと男子、ちゃんと歌ってよ」
中学校時代のある一コマ。
きっと誰もが経験したことがあるのではないだろうか。
合唱コンクールの練習の時の記憶だ。
このセリフ、もちろん私も実際に耳にしたセリフなのだが、
全国の中学校で最も発せられているセリフの一つなのではないかと思う。
それぐらい中学生男子は合唱コンクールで歌わない。
単純に面倒くさい。
歌うのが嫌い。
周りが歌わないからなんとなく。
ワルぶってるのがかっこいい年頃。
いろいろな理由があると思うが、とにかく歌わない。
自分は、単純に面倒くさがって歌わないタイプだった。
懐かしい思い出ではあるが、改めて振り返るとアホなことをしてしまったなと思う。
クラス一丸となって優勝を目指そうとしている中、一人でもやる気のない奴がいるだけで、そのクラスはまとまりがないように見えてしまう。
合唱としての完成度も落ちてしまう。
自分一人ぐらい、という考えによって、大きなをものを失ってしまうのだ。
ああ、昔も今も、変わってない。
周りの気持ちを考えず、自分のやりたいように振る舞い、その結果として全体に及ぼす影響に気付いていなかった。
合唱コンクールも、自分がもっと本気で取り組んでいたら、本気で歌っていたら、あの時とは違う結果だったかもしれない。
もっと有意義な場になっていたかもしれない。
満員電車も、自分がもっと周りの人のことを考えた振る舞いを行うことを心がければ、自分が思っているよりも憂鬱な場所ではなくなるのかもしれない。
合唱コンクールを、満員電車を、嫌なものにしてしまっていたのは自分自身なのかもしれない。
少し歌うだけで、すこし身を引くだけで、今までとは違った世界になるのかもしれない。
いつもと同じ満員電車。
中学校時代の記憶に思いを馳せながら、そんなことを考えていた僕は、そっと本を閉じ、さっと身を引いた。
合唱コンクールからは大きな遅れをとってしまったが、あの時歌えなかった歌を今から歌い始めようと思う。
満員電車というステージで。
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