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メディアグランプリ

女が無敵になる方法。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:まつしたひろみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

「最近、飲み会は行ってる?」
「行ってないなー」

本当に行ってないな、と心の中で繰り返す。

ただの飲み会は、ある。
忘年会や新年会、送別会や歓迎会は、ある。
週末に、同年代の見知らぬ男性と女性とが、同じ人数で居酒屋に集まる飲み会が、ない。
コンパと呼ばれる飲み会が、ない。

20代の頃は、今月の土曜日は飲み会で埋まってる、なんてこともあった。「飲み会しない?」という誘いも少なくはなかった。週末がくるたびに、携帯の連絡先の件数は増えていった。メールがきても「これ誰だったっけ?」と思い出せないこともあった。

「行けばいいのに。出会いは多いほうがいいじゃん」
「そうだよ、繋げていかなきゃ」
「確かに、そうなんだけど……」

確かにそうなんだけど、誘ってくれる相手もいないし、一緒に行こうと誘える友達も少なくなった。実際、今、目の前にいて、飲み会に行けばいいのにと言っている友人も結婚してしまって、一緒には行けない。
毎週のように飲み会に行っていたのは10年も前の話だ。
いつから、行かなくなったんだっけ?

飲み会という名のコンパに参加する時は、やっぱり気合いが入る。
普段よりはちょっと女らしい服装をしてみる。メイクもちょっと、かわいくしてみる。いざ、集合場所に行くと、さらに気合いの入った友達がいる。友達の「いつもと同じだよ」という発言は、テスト前に「勉強してないよ」という発言と同じくらい当てにならない。そんな友達を見ると、どうしても、自分のほうが劣っていると思ってしまう。
いざ飲み会の場になっても、劣等感は変わらないまま、ついてくる。影がいつまでも自分の後ろをついてくるように、いつまでも追ってくる。
作り笑顔の仮面をつけながら、楽しそうに会話をしている人たちに混ざろうとするが、入れたところで、話の中心になることはない。話の中心になっているのは、見た目がかわいくて、話が面白くて、女らしくて……。

飲み会の数時間なら、お酒の力もあり、劣等感を抱きながらも楽しく過ごせる。
その後どうなっているかの話をするのが、あまり好きではなかった。

「誰かいい人いた?」
「ま、いいかなって人はいたよ」
「いいじゃん。とりあえず、ご飯行きなよ!」
いや、ご飯行くって。
なんのためらいもなく言ってるけど……。

このハードルが、私にはとてつもなく高かった。一生懸命ジャンプをしてみるけれど、越えることができなかった。私は越えることのできないものが、友達はいとも簡単にクリアしていた。
どうやったら、ハードルは飛べるようになるんだろう? いいなと思う人を、ご飯に誘えるんだろう?
「ご飯行きなよ」って言った友達も、この方法は教えてはくれなかった。なんで教えてくれないんだろうと思っていた。でも、いじわるして教えてくれないわけじゃなかった。だって私はハードルだと思っていたことは、友達にとっては障害でもなんでもなかった。普通に歩いていて、通り過ぎることのできるものだった。
私にとって「ご飯に行く」ってことは、自分から誘わなければならないこと。でも、かわいい友達は自分から誘わなくても、誘ってくれる相手がいるのだ。仮に、友達から誘っていたとしても、たぶん男性は喜んで誘いに乗っただろう。
「この前の飲み会にいた、ヨッシーとご飯に行ってきたんだけどさー」
誰だよ? と心で毒吐きながらも、羨ましく思った。

改めて考えると、この差は仕方のないものだと思う。年を重ねた今だから、当時を客観的に振り返ることができる。

そりゃ、そうだ。
コンパなんて、スーパーで野菜を選んでいるようなものなんだから。
同じ値段で売られている野菜なら、形が良くておいしそうなものを選ぶ。泥付きがいいと言う人もいるだろうけど、きれいに洗われた野菜と、ちょっと汚い泥付きと、同じ値段で並んでいたら、きれいにしてある方を手に取るのは、本能として身についている気がする。
見た目じゃなくて、中身が大切とはいうけれど、まずは手に取ってもらえなければ中身を知ることもできない。中身を知ってほしくても、まずは見た目を整えることは大切だ。

見た目が少し劣るので、安売りしますか。
そんな時期もあった。流れで、この人でもいいかな……と。
でも、安売りされた野菜には、それなりの行く末がある。
安かったからと、ついつい雑に扱ってしまう。高い野菜は皮までなんとか使えないかと頑張るけど、安かったものは、ザクザクと切られ、これくらいいいかと捨てられ。安かったからと、欲しいわけじゃないけど買ってしまって、使わないまま冷蔵庫で……。

どんな野菜だって、手間暇かけて出荷されている。
女の子だって、周りに愛されて大切にされて、育てられている。
安売りはしない方がいい。

とはいえ、男性の皆様が若い女の子が好きなのもわかる。やっぱり新鮮なものを手に取りたくなる。
「若いっていいよね」
って、ハタチの頃にアラサーのお姉さま方によく言われていた。当時は、そんなよくもないし、早く大人になりたいと思っていた。
でも、若さは無敵だ。
新鮮さに勝るものはない。

新鮮さがウリではなくなり、アラサーどころか、アラフォーになった今、身に染みて感じる。

久しぶりに参加した飲み会でのこと。
「話が面白い人たちだから」「サッカーやってる子もいるから」と前情報をいろいろ聞いて、ウキウキしながら行った。集合した時点で、身に染みるどころか、後ろから切りつけられたくらいの衝撃があった。
……おじさんしかいない。
私もおばさんと呼ばれるような歳にはなってきたが、見た目もかなりな、おじさんたち。さすがに、アラフィフの、しかも既婚者ばかりの人たちと。
マハラジャの話なんか、わかんないよ!

「こんな飲み会しか、呼んでもらえなくなったのか……」
タバコ臭くなった上着に、バッグに、消臭スプレーをかけて臭いは消したが、心に受けたダメージはしばらく消えなかった。
普段なら、参加した飲み会のことを面白おかしく話せるが、その元気も残っていなかった。

取り戻せない「新鮮さ」を嘆いても仕方がない。

新鮮さに勝てるように手を加えれば、いい。

北国には、野菜を雪の下に保存する方法が、ある。
野菜の取れない冬の間の保存方法だけど、雪の下で保存することによって野菜は甘くなる。そして、とても貴重な野菜として扱われる。

干し野菜という加工方法も、ある。
野菜を干すことによって、長期の保存ができる。干すことによって、高くなる栄養価もあるらしい。

野菜は、鑑賞するためじゃなく、食べることが目的なんだから、美味しく食べられれば、いい。
見た目が大事だが、その見た目をカバーできるようにアピールすればいい。その力もしっかり身につけてきた。
スーパーで売らなくても、直接売り込めばいいし、美味しければ買ってくれる人はいる。

私は、もう、コンパという飲み会を求めてはいない。
もちろん、出会いの延長線上に「何か」があればいいけれど、男性と出会って結婚することが目的ではなく、人生を楽しむことが目的だ。つまらないコンパに時間を取られるのは、バカらしい。

野菜が加工して美味しくなるように、女だって熟成された魅力が、ある。
そこに人間力が加われば、無敵になれるはずだ。

あ、でも、やっぱり、飲み会、誘ってくださいね。

***

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2017-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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