雨の日は絶好のカメラ日和
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記事:松本茜(ライティング・ゼミ日曜コース)
「明日は一日中ぐずついた天気になりそうです」
テレビから聞こえてくる、少しトーンの落ちた声。
あしたは雨。
いつもなら、夕日を浴び、シルエットにオレンジのきらめきを纏う窓際のエバーフレッシュも、雲が厚いせいで夜だと勘違いし、すっかり葉を閉じてしまっている。
雨と言えば、多くの人は
「出掛けるのが憂鬱」
「洋服が汚れる」
「洗濯物が干せない」
などのネガティヴな感情を抱くだろう。
ところが私はというと、そんな雨が好きだ。
大人になるまでは雨なんて大嫌いだった。
人よりも強いくせ毛の私は雨の日収拾がつかなくなる。今ではオシャレアイテムのひとつとして可愛い長靴やカラフルな柄のカッパなどが出回っているが、昔はそんなものを着用すればいじめの対象になっただろう。学校指定の白い靴下に泥がはねたらかっこ悪い。
雨なんて降らなければいいのに。
ではもし雨が降らなければどうなってしまうのか考えてみる。
まず、地球は今の姿をしていないだろう。
雨が降らないイコール、
寒すぎて水がすべて氷の状態になる
熱すぎて水がすべて水蒸気になる
前者が火星で後者が金星だ。
人間は絶滅するどころか、雨が降らない環境なら誕生すらしていない。
私には、雨の意味を深く知ることになったきっかけがあった。
日本最南端の島、波照間島へ旅した時だ。目的は南十字星。本島の夜空では地平線の下に隠れて見えない十字架の形をした星座が、日本の一番南にある島へ行けば見ることができる。石垣島から高速船で向かうが、一度外洋に出なければならないため、船の欠航が多く、タイミングが合わないと行くことも帰ることも難しい。そのため、島に招かれた者しか入れないと言われている。島の滞在は6日間。有名な名物のおばぁがいる民宿にお世話になった。昼間、全力で駆け回り、くたくたになって宿に帰ると、無事帰って来たことに安心して家族のように喜んでくれる、人情味のある優しいおばぁだ。
滞在中、1日だけ雨の日があった。朝、宿の軒下の廊下で雨が降り続けるのを呆然と見ていた。そこにおばぁが通りかかる。「こんな天気じゃどこにも行けないよ。せっかくの旅がもったいない」そう告げた私の隣に座っておばぁがゆっくりと静かに話し始めた。
「雨は島にとって、とても大切なもの。雨が降らないとおばぁ達は生きていけない。サトウキビ畑は元気になるし、島中の生き物たちにとって恵みの雨なんだよ」
東京は人と建物と情報で溢れている。皆、自分のことに精一杯で他人にかまっている暇はない。分単位で時間は刻まれ、前を向くことに精一杯だ。
それに比べて島にはなにもない。なんにもない。ビルも、電車も、信号も、コンビニも、なにもない。あるのは自然とその中で心豊かに暮らす人々。島ではすれ違う人皆に声をかけられる。東京で近所の人に挨拶されたことなんてあっただろうか。目も合わせてもらえない光景が思い出される。都会で後ろを振り向いている暇はない。目の回るような早さの流れにしがみつくのがやっとだ。
軒下に座ってそこから見える景色は嘘のように青い海だけ。東京の海とどちらが本物の海なのかそんなことを考えてしまう。本物も偽物もないことは認めないといけない真実だ。からっぽな頭でこっちが本物と言ってしまう、昨日の意味の無い会話を思い出す。
なにもないこの場所では感性が研ぎ澄まされ、目では見えないものや、耳では聴くことのできないものを感じることができる。
そこに身を置かれてはじめて気付く、雨の美しさ。
その時ある友人の言葉を思い出した。
「ザーッていう雨の音って、
雨が降ってきてる音じゃなくて、
雨が落ちて何かにあたってる音。
傘だったり 屋根だったり 木の葉っぱだったり 海だったり……
自分が居る場所、環境で、
雨の音も全く違って聴こえてくる。
雨音を楽しんで」
東京にいると、目に入ってくる情報が多過ぎて、本来人間の持つ小さなものに目を向けることのできる豊かな心で物事を感じることができない。それに比べて島の人は、日々の中にある自然の変化や、小さな小さな地球の鼓動を感じ、宇宙に浮かぶ星々の連なりに意味を持たせた昔の人々のロマンも、当たり前に生活の中で受け継ぎ語り継がれている。
雨はすべての命の源だ。あの場所だからこそおばぁの言葉を素直に受けとめられたのだと思う。
天気予報では、良い天気、悪い天気という表現の仕方はしないということを最近知った。一般的に、雨のイメージは悪いものだが、農家の方や、傘屋さんにとって雨はまさに恵みの雨となるからである。ぐずつくといった難しい言い回しに違和感があったが、それを知ってからは優しい心があってその言葉が使われていることを感じ、あたたかい気持ちになる。
カメラマンの私にとって、雨の日にしか撮れない特別な景色を探すのもまた、楽しみのひとつである。
葉にしたたる雨の雫 一粒の中に広がる景色を、
あなたにも見てもらいたい。
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