メディアグランプリ

「奇跡のパン」は確かに「奇跡」だった


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記事:川井(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
まただ。
また私は騙された。
どうせたいしたことはないと、見た瞬間からわかってはいた。
なのに、どんなに気を付けていても、必ず最後は、その言葉の魅力に取りつかれて買ってしまう自分がいる。
買ったらどうなるか、結果なんて見えていた。
だというのに、予想通りの結果にどうしても落ち込んでしまう。
もう何回、騙されたことだろう、
この「奇跡のパン」とやらに。
 
「奇跡」と名の付くパンが、やたら多い気がする。
たとえば「奇跡のクリームパン」とかいうタイトルがそうである。言っておくが、私が見かけたそのパン屋は、特別有名な店だとか、きわめて目を引く洒落た店だとか、そういうものではない。田舎ならどこにでもありそうな、普通のパン屋さんだ。そんなパン屋で、「奇跡」とかいう神レベルの誉め言葉を使用しているのである。
それを見て私はいつも、「一体何が奇跡なんだろう?」と疑ってしまう。だって、どっからどう見ても、見た目的には他のパン屋のパンと何一つ変わりやしないのだ。「奇跡のパン」の代名詞といえば、アンパンマンだ。それと比べたら、どこが「奇跡」なのか。ときどき、パンの棚のところに説明書きも一緒についているときがある。製法にこだわりましたとか、材料が特別珍しいですよとか。見た目が普通なら、中身が違うのか。「奇跡」なのは見た目なのではなく、食べた触感や中のクリームにこだわりがあるのだろうか。
なんやかんや悩み続け、結局最後は「奇跡」と名の付くパンはみんな買っている。内心、半分は疑心暗鬼になりつつも、もう半分はワクワクしながら。だが、結局いつも思うのだが、そういう「奇跡」と名の付くパンに限って「すごくおいしい!」と驚くことはあまりなかった。むしろ、「思ってたのと違かった!」という期待外れのほうが多かった。やたらいろんな文句を使って誘惑してくるのだが、そのくせ、そういうものに限って味がそこまでたいしたことないのだ。
 
パン屋さんはなぜ「奇跡」なんて言葉を使うのだろうか。「奇跡」なんて使うとむしろ、うさんくささが一層増すではないか。そんなあからさまな罠に、一体誰がひっかかるというのか。……いや、私だ。私がいるではないか。もしかしたら、私のようなひっかかりやすいカモがいることを想定しているのだろうか。食べ物に限らずとも、美容品とかダイエット器具なんかでも、そういう大げさなうたい文句は、テレビや広告でよく飛び交っている。「これを使えば肌が20歳若返る、奇跡のクリーム!」なんて具合に。見ているこっちは「絶対嘘だ~」とは思うのだが、結局乗せられて購入してしまう。「奇跡」なんて使わなくとも、商品は上手いこと紹介はされるのだが、やはり「奇跡」があるとないとでは、その商品の印象が違って見えてくる。お店の面構えは普通なくせして、パン屋さんは実はヤリ手だったのだろうか。だとしたら、恐ろしい。表面上はにこにこしていて、本当は内心思いっきり毒をついているかわいい女の子並みに恐ろしい。
だが、「奇跡」とつくだけで簡単に引っかかる人間は、世界全体の割合から言ったらやはり少ないのではないか。もし多いとしたら、世の中には私のような騙されやすい人間ばかりいることになってしまう。ちなみに、私はこの5年間で、かれこれ宗教関係には2、3回引っかかっている。さすがに世の中は、そんなアホばかりではないことも、パン屋さんはよく理解していることだろう。そんな理由で「奇跡」とつけたのなら、あっけなさすぎる。
あるいは、「奇跡」なんて言葉を使うくらいなのだから、本人からしたらよほどそのパンに自信があったのかもしれない。いやでも、私がパン屋の主人になったとして、パンの名前を考えるときに、正直「奇跡」なんてつけるのは恥ずかしい。パンを評価するのはお客様であって、作った本人ではないからだ。食べてもらってもいない段階でその冠をつけるなど、自意識過剰にも程がある。知り合いが聞いたら笑われること間違いなしだ。ジャムおじさんだって、アンパンマンに「奇跡」とはつけなかった。私ならなおさら「奇跡」なんて言葉は使えない。パン屋さんが実は自意識過剰だったという線はない気がする。
 
では他に一体何の理由があるだろうか。しばらく物思いにふけってみて、もう一つ、ありそうな理由をたたき出してみた。
おそらく、パンに込められた「奇跡」というのは、パン屋さん自身が目に血が走りながらも、日夜研究に研究を重ねて頑張って作ったら、偶然生まれた産物という意味なのではないだろうか。新しく商品開発に取り組んでみるも、研究段階ではなかなかうまくいかなかった。うまくいかなかったからこそ、生まれたあの商品は、奇跡的にうまくいったパンなのかもしれない。基本はもっと微妙な味なのだが、たまたま奇跡的に、奇跡的なバランスで、食べられるくらいにはうまくいったのだ。だから、たとえこの商品絶対名前負けしてるなと思っても、製作者本人にとってはある意味「奇跡」なのである。でなければ、明らかにそこまで感動する味でもないのに、「奇跡」なんて言葉は使えないだろう。おいしいパンなら他にももっとあるわけだし。
 
もし理由がこれだとしたら、なんだかタイトルについた「奇跡」を悪く言うのが申し訳なくなってくる。
「奇跡」と名の付くパンを見かけたら、たとえ中身の味に満足がいかなかったとしても、これからは文句は言わず、パン屋さんの頑張りに心の中で「お疲れ様」、と一言かけてあげるべきなのかもしれない。
 
 
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2017-05-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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