オジサンと結婚
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記事:ちくわ(ライティングゼミ 日曜コース)
「ちょっと聞いてよ!」
席につくや否や、この剣幕。せっかく久しぶりに会えたのに。
「あー腹立つー!」
艶やかなロングの髪をかきあげた彼女は、私の長年の友人で、ユリという。
29歳独身。容姿端麗。
今日は、彼女の転職祝いとして、数ヶ月ぶりに夜、食事をする約束だった。
「ちょっとユリ、突然どうしたの」
「ごめんね、久しぶりなのに。いや昨日ね、以前の会社のチームで、私の送別会を開いてくれたんだけど」
「うん、それで?」
「最初はね、楽しく会話していたの。でも、オジサンたちの酔いがまわりはじめたら」
「はじめたら?」
「彼氏はいるのか。結婚はしないのか。家族は絶対にいい。女は早めに子ども産んだほうが絶対いい、って決めつけて、押し付けてきたの」
どうやら、彼女は単純に、セクハラだ! パワハラだ! と、騒ぎ立てたいわけではなく、結婚観や家族観を決めつけられたことに腹が立ったらしい。
ユリは続ける。
「芸能界もゲス不倫ばっかりだし、家族を堂々と大切に想う気持ちは、素敵だと思うよ。でもね、決めつけるのは、違うと思う」
年頃の独身者であれば、「結婚しないのか?」という質問は、年代・性別・土地柄は問わず、よく浴びるのではないだろうか。
ふと、私は疑問を口にした。
「でもさ、なんでオジサンたちって、結婚や家庭の話が好きなのかな」
ユリがワインをククッと一気飲みして言う。
「そう。だからもう私もカッとなって、転職したし、言ってやったの」
「えっ、何を?」
「どうして、オジサン達って、結婚したほうがいいって、勝手に決めつけるんですかって」
「えーっ!」
「空気。一瞬でかたまったよね」
遠い目をするユリ。
そりゃそうだろう。ユリは普段、ほんわかニコニコしている、物腰やわらかなお嬢様タイプ。まさか、そんな鋭利な質問が飛んでくるとは思わない。頭の中で、凍り付くオジサンたちを想像する。
「でもさ、そこにいたオジサンたち、なんていったと思う?」
「えっ、なになに?」
「やっぱり、若い人は結婚したいのかなと思ったから、だって!」
私は、そこまで聞いて「そうか」と妙に納得した。
その場にいたオジサンたちの論理からすると、「結婚」や「子育て」は、周りの誰もが経験することに違いない“普通”の概念。だとすると、自分の家庭の話をすることで、次の世代の参考になるはず、と思う。また、単に私たちの度量が狭いだけとお叱りもあるだろう。
確かに、一昔前まで、年頃になれば結婚が“普通”という考えが支配していた時代があった。「結婚」も「子育て」も(どれくらい関わったか別にして)経験しているオジサンたちの世代は、若手にアドバイスできることがあるはず、と善意を尽くしたに過ぎなかったのだ。
ただ、こと現代のニッポンにおいて、「結婚」は当たり前ではなくなっていることも事実。いや、今までも違和感を抱えていた人はいたはずだ。昨今、何でもハラスメントとつけることが横行し、顕在化してきただけともいえる。
現に、政府が発表する生涯未婚率は、年々グングン上昇している。昔に比べ、結婚する人は確実に減った。結婚したくともできない人も、中にはいるだろうが、少なくとも結婚が“普通”では、なくなった。
少子化も着々と進んでいる。出生率が劇的に増える兆しは、今のところ特に無い。
このように、世代によって、「結婚」や「子育て」に対し、考え方に大きなズレが生じている。
たとえるなら、オジサンたちにとっての「結婚」とは「プロ野球」のように、昔は誰もがする当たり前の話題だった。プロ野球は、ほぼ毎日地上波のゴールデンタイムに放送され、軒並み、よい視聴率をとっていたことが証明している。それだけ皆、“普通に”プロ野球に試合や選手など絡む事柄が、共通言語として会話していた。選択肢がほぼ無かった。
でも、今は違う。「結婚」、「子育て」に対する考え方が多様化したように、スポーツの好みも多様化した。
プロ野球中継が以前より少なくなっていくのに対し、サッカーやフィギュアスケートなど、テレビ中継が増えたジャンルもある。テニスや自転車競技、もっとニッチな海外スポーツの有料専門チャンネルも、珍しくない。加えてインターネットや、スマホのおかげで、好きなスポーツを自分の好きなスタイルで、とことん突き詰め、楽しむこともできる。
このように選択肢が広がれば、興味関心も恐ろしく細分化され、価値観がひとくくりではなくなる。
結婚に憧れるカップルがいるように、もちろんプロ野球に対する人気も、なくなったわけではない。時代とともに、日本人とプロ野球の付き合い方が変化しただけだ。
だから私たちは、上の世代の人が悪い考え方だったとは思わない。それに「結婚」や「子育て」の付き合い方も時代とともに変化していることに、理解を示すオジサンもいる。
私たちにもきっと、凝り固まった「当たり前」があって、モヤモヤを人に押し付けているかもしれない。ユリが凍らせたオジサンたちを、私は決して非難できないなぁと自戒せずにはいられない、そんな夜の出来事だった。
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