メディアグランプリ

10歳のとき、私は十五少年漂流記の一員だった。


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記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
学校では、ずっと「ぼっち」寄りの生徒だった。
仲のいい友達はいたが、その子たちにとって一番仲のいい友達は、私ではなかった。
放課後は学童保育で過ごしていたが、他の子たちと一輪車の練習をしたりするよりも、一人で本を読んでいるほうが好きだった。
下校時は、はじめは同じ学年の女の子たちと一緒に、お喋りをしながら、30分かけてダラダラ歩いて帰っていた。だが、急ぎ足で15分で帰れば、アニメの再放送に間に合うと気づいてからは、ひとりで先に帰るようになった。
 
学童保育に在籍していた小学校一年生から三年生までの間は、そうやって、ひとりの時間を楽しんで過ごしていた。
 
四年生になって、学童保育がなくなると、他のクラスメイトと同じように、放課後はすぐに家に帰って良いようになった。
ちょうどその頃、たまたま、一番の仲良しの友達ができた。彼女にとっても私が一番の友達という、安心して気を許せるような、稀有な存在だった。さらに、彼女を通じて、仲良しグループにも所属することができた。
学校でも一緒で、終礼が終わってからの帰り道も一緒。帰り道では
「このあと、遊べる?」
「今日は習い事がないから大丈夫」
「じゃあ、ランドセル置いたら、公園に集合ね」
と、当然のように遊ぶ約束が交わされた。それも、ほぼ毎日。
 
学童とは違って、本当の放課後は、まさに「自由」だった。
監督する大人もいないし、だれと遊ぶかも、どこまで行くかも、何をするかも、全くの自由。
子どもだけの世界で、話し合い、判断し、実行していく。
さながら、無人島に漂着し、冒険しているようだった。
 
無人島といっても、ロビンソン・クルーソーではない。一人きりではないから、なんでも好き勝手にやるというわけにはいかない。
メンバーの得意なことを活かし、苦手なことをカバーしあい、ときには対立をのりこえて、イメージを実現させていく。十五少年漂流記のような世界に、そのときの私はいた。
 
漂流者と同じように、みんなで拠点となる秘密基地も作った。団地のまわりの植え込みの間、木々の間隔が少しだけ広くなった箇所が入り口だ。そこから入って、地面を踏み固めて、線を引いて、「ここが玄関、ここがリビング、ここがキッチン」と整備していった。その中で、内緒話をしたり、お菓子を持ってきてくつろいだり。拾った立派な枝やどんぐりを貯めておいたり。ちょっと留守にした間に、他の子たちが居座っていたときには、抗議したりもした。
 
秘密基地の前は坂になっていたので、段ボールで草スキーもした。
草スキーという遊びがあることを、このとき初めて知った。
発案した友人が、
「段ボールならマルキョウにあるからさ、今から貰いにいこうよ」
というので、彼女の後ろにくっついて、みんなで歩いて10分のスーパーまで貰いに行った。段ボールがスーパーで貰えるものだというのも、このとき知った。
店員さんと交渉する友人の姿を、「私にはできないなぁ」と感嘆して見ていた。
持ち帰った段ボールをお尻の下にひいて、坂をずるずると滑り降りた。何度もやっていたから、きっと楽しかったのだろう。
 
食料の調達も、好んで行っていた。家からお菓子を持ってくることもあったが、それより野草や木の実に挑戦することのほうが、わくわくした。
きっかけは、グループの一人が教えてくれた、リンゴハーブ。
「この、ハート型の葉っぱがリンゴハーブ。食べると、リンゴの味がするの。ピンクの点々が多いほうが、甘いんだよ」
噛むと、確かに、酸っぱい風味がした。なんとなく、甘い気もした。
別に、おなかの足しにもならないけれど、食事やおやつのように大人から与えられたもの以外で、食べられるものを自分たちで探していくのが面白くて、一時期、雑草をかたっぱしから味見していた。
その中で、ぺんぺん草はすこぶる食感が悪いこと、桜の葉は驚くほど苦いことなどを発見した。また、学校の桜の木になる実は、スーパーの桜桃よりだいぶん小さく、酸味や渋みも強かったが、甘いということもわかった。
 
失敗することも多かったが、それよりも、子どもだけで試行錯誤するということ自体に大きな満足感があった。大人に指図されなくても、自分たちだけで何でもできる、そう思っていた。
 
無人島に漂流した15人の少年たちは、2年間のサバイバルの後、元の世界に帰っていった。
私たちもまた、いつまでも子どもだけの世界にいることはできずに、中学校に入って部活動を始めたりすると、再び大人が支配する世界に戻ることとなった。
 
だが、あの頃の自分は、大人になった今でも心の奥底に眠っているようだ。
今までにないことをやってみたい、と思ったとき。自由を満喫し、仲間を信頼し、自分の力を信じていた10歳の頃の私が、ひょっこり顔を出すのだ。
 
 
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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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