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デブから抜け出す方法


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記事:ちくわ(ライティングゼミ 日曜コース)

 
 
夜の21時をまわった。
このフロアに残っているのは、私と加藤先輩の2人しかいない。
「よし」
私は覚悟を決め、ある程度自信を持った上で、加藤先輩のデスクの前に立つ。
「確認してください、お願いします」
先輩は、私から差し出された、それを見つめる。緊張して待つこと数分。
ため息をついて、口を開く。
 
「残念。おデブさんです。はい、やり直し」
私はがっくりとうなだれ、席に戻る。
はぁ。あとどれだけ「痩せたら」帰れるのだろう。
気が遠くなりそうになりながら、でも負けないと自分に言い聞かせて、私はパソコンへ向かう。
 
同性から、面と向かって「デブ」と言われることほど、悲しいことはない。結構傷つくし、心が折れそうになる。もっと他の言い方をしてもらえないのか、とも思う。でも、言われてみれば、確かに「デブ」なのだ。自分でも、頭では分かっている。でも、私の技量では、どうしてもうまく「痩せる」ことができない。
 
対して、私に「デブ、デブ」と連呼する加藤先輩は、基本的にいつもスラッとしている。かっこいい、と部内のみならず、他部署からも、クライアント先からも評判だ。全体的にバランスがとれていて、メリハリもある。無駄がなく、引き締まっており、美しい。同じ女として羨ましい。
 
どうしてこんなにも差が出るのだろう。確かに加藤先輩は素敵だ。
だからといって私も、ただ先輩を見ていただけ、ではない。同じような格好でマネをしてみたし、同じアイテムも使ってみた。先輩の使っているテキストも、わざわざ貸してもらって、勉強した。しかもマンツーマン指導までしてもらい、アドバイスももらった。
 
それなのに。
私は、なんだか野暮ったくて、ダサくて、全然スタイリッシュじゃない。あーあ。自分が本当に嫌になるくらいの、根本的なデブ体質。悲しい。
 
当初「加藤先輩は、センスがあるから」と逃避していたが、そうは言い続けてもいられない。後輩も入ってきた。私だって、先輩みたいに憧れられたい。
何より、これは仕事だ。目的を達成しなければならない。
 
そう。プレゼンを通さなければ意味がない。
 
私は、マーケティングの仕事をしている。クライアントへプレゼンする資料を作成するのが仕事の一つだが、超絶苦手の部類に入る。
 
入社して間もなかった頃、私は、パソコンに向かって思うがまま、データを集め、資料として、まとめていた。あっちこっちを調べすぎることも多く、データや内容が盛りだくさんになっていった。
加藤先輩にアドバイスをもらおうと、作った資料を見せる。
そして、まずこう言い放たれた。
「何を伝えたいのか、こんな贅肉ばっかりじゃ、わからない」
 
ぜ、ぜいにく?
「余計な言葉やデータが多いってこと。わかった?」
「は、はい」
 
趣味はボルダリングで、筋トレ大好きな加藤先輩。
細マッチョで、体脂肪率が異常に低いとの噂は、耳にしたことがある。
サラサラの黒髪で、背も高く、スタイルも良く、黒い服を異様に着こなす。
この加藤先輩が、資料の修正アドバイスを「人体」にたとえるとは、そのとき初めて知った。
確かに、わかりやすい例えではある。
 
「この資料最初から最後まで、体幹鍛えられてない」とは、ストーリーの芯が通っていないこと。
「途中、腹筋弱すぎ」とは、資料に中だるみがあること。
「もっと、脂肪や筋肉つけて」といわれたら、内容が薄っぺらいこと。
 
そして、加藤先輩が、ここ最近、私によく使う言葉が「デブ」という強烈な2文字。
 
ここで先輩の指す「デブ」とは、
・ 資料に気合いが入っていない
・ そもそも資料が長い
・ 余計な装飾が多い
・ 邪魔なデータによってアイディアを邪魔している
などというように、複数の意味が含まれる。
 
私自身、資料だけでなく、容姿もガリガリで痩せているとは言いがたい。加藤先輩のようにマッチョでもない。だから初めて「デブ」と言われたとき、結構なショックだったが、もう何度も言われ続けてきて、慣れてきた。
 
また、以前は落ち込んでいたが、最近は闘志をたぎらせるようになった。
「よーし。絶対に痩せてやる! スタイルよくなってやる!」
気分だけは、スーパーモデルを目指す勢いで、言葉を置き換え、全体を見直し、ブラッシュアップさせていく。
 
先輩の作る資料は、筋肉質で姿勢がよく、なんならアイディアという顔まで美しい。だから、プレゼンで映えて、クライアントから納得してもらい、継続した契約を指名されている。そのために、先輩は私たちの見えない場所で、努力という筋トレをしていることは知っている。
 
「先輩、できました。見てください!」
再度、私は、先輩に資料を渡す。
「うん、うん」
緊張の一瞬。
「よし。ダイエット成功だね!」
「やったー! ありがとうございます」
「お疲れさまでした。でもね、クライアントに納得してもらわないと、成功とまではいかないからね」
先輩におどされても、私はもう動じなくなっていた。
痩せると、自信がつくのは、体型も資料作りも、同じなのかもしれない。
 
 
***

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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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