メディアグランプリ

僕が「上司は笑って見てりゃいい」と思う理由


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記事:宮代勇樹(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「まあ、いいんじゃない?」
部長の野上さんは、いつも僕の話を聞くとそんな風に返してくる。
つかみどころのないキレ者。二ヶ月弱の付き合いの中で感じた、僕の部長への印象だ。
いつも飄々としていて、そのくせ変な迫力がある。
野上さんに「できるっしょ!」と言われると、なんとなくできる気がしてきてしまうような、不思議な力がある人だ。

僕がとても感心してしまうのは、その面倒見の良さだ。
資料のレビューをお願いすれば、的確なアドバイスと一緒に投げ返してくれる。
「こりゃ、提案の日までに完璧に仕上げるのは難しいかもしれない」
なんて弱気になってしまうようなボリュームの資料も、不思議なことに野上さんに確認をお願いしながら進めていくとそれなりの完成度になって出来上がっているのだ。
こんな不出来で甘ちゃんな新人からしてみるとまさに理想の上司といった感じで、毎日驚きと喜びの連続である。
伊達に若くして部長職についてないな、と、面白くなってつい観察してしまう。

それでわかったのが、野上さんは笑顔がとても上手だということ。
一人でパソコンに向かっているときは死んだ魚のような顔をしているくせに、誰かと話しているときは大体、笑顔なのだ。
会議でも冗談を飛ばしたりなんかして、場の空気を調節するのがとても上手なのである。
きっとあのニコニコとした笑顔が、なんとなく自分の中で抱えている不安をすっかり溶かしてなくしてしまうのだ。
見れば見るほど大した人だなと惚れ込んでしまう、とても良い上司に恵まれたと思う。
こんな上司が日常生活にもいてくれれば、きっともう少し僕の人生は上手くいくはずだ。

このライティングゼミに通い出して二ヶ月と半月ほど経った。
ときどき書き進めることができなくなることもありつつ、毎週のように2,000字の文章と向き合うようになって、文章を書くこともそろそろ日常の中に入り込んできたころである。
「これじゃダメだ」
「こっちの題材の方がいい」
「こうやって書いたらどうだ」
なんて僕の後ろから茶々を入れてくる声があることに気付いた。
こいつこそが、僕の日常にいる「上司」だ。
こいつはかなり嫌なやつで、僕が何かしようとしてくるたびに否定的な言葉を投げかける。
「風呂に入ろうか」と思えば「もう少し休んでからにしろ」と言い、「それじゃあお言葉の通り、ゆっくり動画でも見てやろうか」と思えば「おい、洗濯はどうした」なんて言ってくるようなやつだ。
家に帰ってきてからこいつの言うこと全部に従っていると、結局何もできないまま眠りに落ちることになったりして、非常に迷惑極まりない野郎なのである。
きっとニコニコ笑顔どころか、いつも眉間に皺のよった嫌な顔をしているに違いない。

そんな奴だから、間違ったって「できるっしょ!」なんて言ってはくれない。
僕が2,000字を書き上げられるときというのは、この嫌な上司がたまたま何か別のことに気を取られている間だけだったのだ。

僕は小さい頃から、この「上司」に色んな興味を潰されてきたような気がする。
何かをやってみようとするたびに「そんなことを始めるより……」と、くどくど長話をされ、話が終わったころにはすっかり新しいことに取り組む気力は根こそぎ奪われていった。お絵かき、歌、ダンス。他にもいくつも「じゃあもういいです」といって、投げやりになってしまった。
でも、もういいだろう。二十三年間も頑張ったのだから、そろそろ引退してくれても。

なんとか奪われずに済んだ気力を振り絞って、僕はいくつか新しいことをはじめることができた。
こうして文章を書いているのも、その一つだ。
二十三年間下積みで頑張りながら、「文章を書きましょう!」という提案を通したわけである。そんな功績を讃えて、そんなエネルギッシュでポジティブな僕が昇進するときがきた。
これからは色んな興味がある自分の中の新芽達を大事に育てたいと思う。

やりたいことはたくさんある。
このまま文章は書き続けたいし、油絵を描くのもいい。なにかスポーツを初めてみるのもいいかもしれない。
野上さんのように上手にはいかないかもしれないけれど、笑顔で「いいんじゃない?」と答えてあげられるようになれば、まずはそれでいいんじゃないかなと思うのだ。

 
 
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2017-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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