人生の宝物を、僕はゴミ箱に捨ててしまったかもしれない。
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記事:とおる(ライティング・ゼミ 日曜コース)
気が付いたら、僕の財布から「それ」は無くなっていた。
いつもの御札入れには入っていない。レシートの束からも出てこない。嫌な予感がして、机の引き出しを開けた。ノートをバサバサと揺さぶり、カバンをひっくり返した。
それでも、ない。
見つからない。
青ざめながら、ゴミ箱を漁り、机の下に潜った。最終的にはベッドをどけた。
それでも、僕の部屋のどこにも「それ」は無い。
まさか、と思いながら、記憶を辿る。
ゴミを出したのは、もう2日も前の話だ。その中に、レシートの束を突っ込んだことは憶えている。僕の頭の中で、嫌な予感が確信に変わっていく。
特に何も考えずに捨てたレシートの束に、「それ」が挟まっていて。
「それ」を入れたゴミ袋は、とっくにゴミ処理場まで運ばれて。
僕の宝物は、――真っ赤に燃える炉の中へ放り込まれてしまったのだ。
理解した途端に、なんのやる気も出なくなった。ベッドでふて寝しながら、自分を呪う。呆れてしまって、涙も出なかった。
あんなに、大切にしていたのに。
大切だからこそ、肌身離さず持ちたくて、財布に入れていた筈なのに。
宝物の「チケット」を、僕はゴミ箱に捨ててしまったのだ。
この記事を書くにあたって改めて調べてみると、そのライブがあったのは、2014年10月11日(土)だったらしい。2年半もの間、そのライブチケットは僕の財布の中に入っていたことになる。途中で財布を買い替えたにも関わらず、だ。
冷静に考えると、ちょっと異常だったと思う。
ただ、少しだけ言い訳をすると、そのライブは、僕にとって何もかもが「記念日」だったのだ。
まず、人生初ライブ記念日。
本ばかりに夢中で、音楽はあまり聞いてこなかった。そんな僕にとって、ライブは遠い世界のイベントだった。
だからこそ、期待と不安でライブが待ち遠しかったのを今でも覚えている。
そして、超ラッキー記念日。
「当たるわけない」なんて言いながら、友達3人でチケットを申し込み、僕だけが一発当選。しかも、前から2列目の特等席!!
まるで、おみくじの大吉。
僕にとってチケットは、「持っていれば運気が上がる」ラッキーアイテムになっていた。
そして、このライブが、歌手・和田光司さんのラストライブとなってしまったこと。
2011年に再発したガンを乗り越えた末の、待ちに待った再復活ライブ。
「疲れるから休み休みやらせてね」とペットボトルで水を飲みながら、申し訳なさそうに話す和田光司さんの姿が印象的だった。そして、ライブが出来る歓びを嚙みしめながら、魂を込めて歌う迫力を忘れられない。
そんなライブチケットを、僕はゴミ箱に捨ててしまった。
初ライブで、人生最大のラッキーで手に入って、そして――もう2度と出会えないのに。
まるで、思い出そのものをゴミ箱に捨ててしまった気分。
過去のものとして割り切って。もう、用済みだからと、ゴミ箱にポイ。
人間関係も、ポイ。
東京の友達なんて、ポイ。
友達を、大親友を捨ててしまった様な気がしてしまったのだ。
そうだ。
そうなのだ。
僕にとって、あのチケットが何よりも大切だった理由。それは、ライブに行った2人の友達と、グッと仲良くなったからだった。
ライブが待ちきれなくて、何度も一緒に音楽を聞いた。
興奮が冷めきらなくて、ライブの曲順にカラオケ三昧。
その後も、ずっと一緒に喋って、遊んで、笑った。
実家暮らしだったのに親より一緒に居て、卒業までずっと一緒だった。
僕にとって、人生初の大親友が出来た記念日。
「代わりはいない」って断言できる一生の友達が出来た記念日。
それを、思い出させてくれる。そのキッカケのチケットだった。
ひとしきり落ち込んでから、僕はスマホを手に取った。
もう、ライブのチケットは戻ってこないだろう。灰になってしまって、この世にはもう存在しないだろうから。
だけど、友達は、ゴミ箱に捨てたわけではない。
ポイなんて、していない。
絶対にゴメンだ。
思えば、仕事の忙しさや、大阪での新生活で、満足に会話できていなかった。
このままだと、大切な宝物に気がつかなくなって、いつの間にか失くしてしまうだろう。
思い立ったが吉日。
ひとまず、2人に連絡をとってみようと思う。
この最悪の記念日に。
そして、「大切な友達」を思い出させてくれた記念日に。
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