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メディアグランプリ

見えない未来は、びりびりの本から作られる


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記事:森中あみ(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「あ! なにこれ!」

仕事から帰ってきた夫の目の前にあったのは、ぼろぼろになった私の文庫本だった。モノを大切にする夫には、信じられない光景……であることはわかっていた。だからあえて私はすぐ目に付くカウンターキッチンの上にそれを置いていた。予想どおりの反応に、予定どおりの答えをかえす。

「うん、ともちんがすきでね、それ」

もうすぐ9ヶ月になる娘のともちん。近ごろ、私が手に持っているものが大好き。ともちんを横にころがせて、自分もベッドに横になって好きな本を読んで、眠たくなってきたらいっしょに昼寝をするのが至福のとき。だけど、最近のともちんは自分のおもちゃよりも、わたしが手に持っている本に向かって必死でおおいかぶさってくるようになった。はじめのうちは、ダメよと言って見えないところにしまっていたが、今日は、それがかわいそうになって、表紙だけを渡してみたところ、ハイエナのように飛びつき、むしゃむしゃかぶりついた。一瞬、あーぁと思ったけれど、中身さえ読めればよかったから、しめしめと思い直してつづきを読んだ。

いよいよ表紙の端が切れそうになった頃、ともちんからそれを取り上げた。きょとんとしていたけれど、獲物に少しでもありつけたことで、満足そうにも見えた。そして、次はこれだ! と本に飛びかかってきた。表紙がぼろぼろになったことで、何かがふっきれていた私は、読みかけのページにしおりをはさむこともせず、まるごと渡してみた。むしゃむしゃ。抵抗する気もない文庫本は、付けたくないところに折り目がつけられ、端のほうはよだれでしわしわになった。むざんな姿になったわたしの本。でも、心はなぜか爽快だった。部屋の窓は閉めていたのに、風が吹いた気がした。遊び疲れた娘と私は、そのあと2時間爆睡した。

夫は本当にものを大事にする人。もともと私は本の表紙は読むのにジャマだから、買ってまもなく無くしてしまう派だった。夫は「もったいない。いつか古本屋に売るかもしれない」といって、帯まで取っておく派。表紙のない本を見つけるたびに、「あー、またない」と言われるのがイヤで取っておくようになった。だけど、古本屋に売るつもりのない本を帯までつけてキレイにキレイにとっておく必要はないと心の中で思っていた。

大事にするってなに? びりびりになった文庫本をみて、私の中でひとつの疑問がわいた。娘は本を大事にしていないわけじゃない。ただ、興味があるだけ。はじめてみるもの。光にあたると光る表紙。赤ちゃんが単純に、「なに、それ!」と手を伸ばしたものを、大人の「大事」で取り上げてしまうとどうなるのだろう。娘は、あたらしいものへの反応は何一つ得られず、もう遊び方のわかってしまったおもちゃで同じように遊ぶしかない。娘の成長は一つもない代わりに、大人は一冊の本を大事に本棚にしまう。本と娘、どっちが大事なの? そんなバカらしい質問はだれもしてくれないから、自分でするしかない。もちろん娘に決まっている。それなのに私はついさっきまで、これから限りない可能性を秘めた子の興味を、たった600円かそこらの文庫本を守るために奪おうとした。

「すごいねぇ、ぼくにはそんなことできないわ」

無残な姿になった本を見て、夫が言った。そう、そう言って欲しかった。私はすごいことをした。本を手に取ったときの娘の目の輝き、体の動き。あれはぜったいに今しかないし、大人の勝手でなくしてしまってはぜったいにいけないもの。夫がモノを大事にするのと同じくらい、私は娘がやりたいことを大事にしたい。

「ともちんには好きなことをして生きて欲しいなぁ」娘が生まれてから、夫がこれまで5回は口にしていたと思う。それなら、と思う。興味のある本くらい、びりびりにさせてやろうよ、たいしたことないって。「好きなことをして生きて欲しい」子どもにそう願うのは私も同じ。それなら、まずは自分がそう生きようよ。本がびりびりになることを恐れてるくらいじゃ、何も進まない。「あれダメ、これダメ」を子どもに言うたびに、自分の可能性を小さくしている気がする。子どもといっしょに飛び立とうよ。好きなことしようよ。本なんて、表紙も、帯もいらない。中身だって、読んでしまえば、心の中にある。目に見えるもので安心する生き方よりも、見えない未来を大切にしようよ。わたしは夫にそう言いたかったのだと気づいた。娘のはじめての獲物になった文庫本には申し訳ないけれど、もしかするとあなたは自らその役を買って出てくれたのかもしれませんね。

その本の名は、アルケミスト ~夢を旅した少年~

 
 
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2017-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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