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英語上達のカギは行ったり来たり


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記事:中村響(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
この物語はフィクションです。

「ああああああああ! なんで点数上がらねえんだよおお!!」
TOEIC 790点。
私が最後にTOEICを受験した時の点数である。
しかし、それ以来、実力の伸びがピタリと止まってしまった。
「振り子のように行ったり来たりすることが、英語上達のカギですよ」
私に語学を教えてくれた人はそう言った。
私は項垂れながら、
語学学校の講師に相談した。
「最近、何をやっても実力が上がらないんです」
この学校には社会人になって以来ずっと通っている。
「洋書を読む」ことをカリキュラムの中心に据え、
TOEICの点数だけでなく、
英語の実力そのものを上げることを志向する学校だった。
いつも私の授業を担当している講師のTさんは
「うーん。中村さん、かなり頑張っているのになあ」と言った。
「通常のクラスでは普通に話せていますし、
本を読むスピードも極端に問題があるわけでもないですしねぇ」
私も「本当に何故なのか分からないです」と投げやりに言った。
「もしかしたら」と急にTさんが考えこむ。
Tさんはこう言った。
「中村さん、She sells seashell by seashore.って発音してみてください」
私が「She sells seashell by seashore.」と返すとTさんは
「あーなるほど」と納得して解説してくれた。
「人間にとって、語学が一番上達する時っていつだと思います?」
私は「ある程度、経験を積んだ時では?」と答えた。
すると「違います」とTさんに一蹴された。
「実は、行ったり来たりの考え方が重要なんです。
人間というのは不思議なもので、
全体像が見えなくなっても、
細かい部分の分析がおろそかになっても、
語学の実力が延びないのです。
全体像の理解と細かい部分の分析が両方必要なんです。車の両輪なのです」

「中村さんは、入学当初から全体像の理解が早い方でした。
文章や会話の論旨を理解するのが人一倍早い。
しかし、その反面、細かい部分が疎かになっている。
先ほどの発音。
本来は違う音になるべき部分が、全部同じ音でしたよ」と
Tさんは教えてくれた。
しかし、納得できない私は
「そんな細かいことをいちいち気にしていたら、
スピードについていけないのでは?」と反論する。
するとTさんは、
「逆です。細かい所からも類推できるようになるので、
スピードは上がります。
そして、何より理解の安定感が違ってきます。
それは別次元のものですが、やってみなければわかりません。
これが中級者と上級者を分かつ壁のようなものです。
だまされたと思ってこの本をやってみてください」
私は、Tさんに勧められた本を帰りに買った。
その日から参考書に向き合う日々が続いた。
しかも内容は正直つまらない。
なんせ単調な文章を、
発音に細心の注意を払って繰り返し音読するのだ。
1週間もすると飽きてきた。
気分転換にYouTubeを見てみるかと、
好きな本の著者のスピーチを聞き始める。
「ん? 変だな」
不思議なことが起きた。
明らかに今までよりも深く理解できるのだ。
より直感的に内容がイメージできる。
回数をこなすのとはまた別の次元で、
深く理解できるようになっていた。
論理的に頭を使う段階さえ、
すっ飛ばしているような不思議な感覚だった。
論理的に考えていないのに、
話者の言いたいことはすとんと腹落ちする。
Tさんの言っていることが初めて理解できた。

まずは参考書で細かい部分の音を認識する練習を積む。
その次にYouTubeである程度のまとまった量を聞いて論旨を理解する。
この要領で何度も部分⇔全体と振り子のように、
行ったり来たりすることが最も力が伸びるのだ。
そしてこの「いったり来たり」は、
リーディングにも良い影響が出た。
文法の復習をして、
一文毎により細かく意味を考えるようになった。
今迄、全体像の理解に偏っていた学習を部分の理解に充ていった。
その結果バランスよく力が伸びていったのだ。
そして1か月後。
私は再びTOEICを受検した。
テスト中も以前よりもはるかに深い理解で
問題を解くことが出来た。
手ごたえに満足しつつ、私はTOEICを終えた。
さらに1か月後、結果が返却された。
「おおおおおおおおおおお!!」
840点。
初の800点代である。
ようやく中級者の壁を突破出来た。
滅茶苦茶長かった。
Tさんに結果を報告する。
「いやあ、良かったですねえ。
この行ったり来たり、躓いてしまう方が多いんですよ。
何せ自分の得意なことばかりやって、
自分を正当化してしまう。
苦手に向き合って基礎を直すことを、
プライドが許さないという状態になる方が本当に多い。
語学を教える人間にとって、
これ程もどかしいことはないです。
そこさえ直せば、
一気に伸びることが分かり切っているわけですから。
私も外大時代にはこの行ったり来たりで悩みました。
死ぬほど恥ずかしかったですよ。
曲がりなりにも英語を専門にしている人間が、
基礎的な発音をやり直しているというのは」
そうか、あのTさんも悩んだのか。
最後はプライドの問題なのだな。
振り子のように行ったり来たりを繰り返していけば、
きちんと力は付いていくのだ。
プライドはとりあえず傍に置いておいて、
恥を忍んで苦手に立ち向かおう。
また得意な分野に戻ってきたとき、
新たな地平が開けているはずである。

 
 
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2017-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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