メディアグランプリ

電車の中で化粧をする若者よりも、新幹線の中のおばあさんの行動に驚愕した。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松下広美(ライティング・ゼミ 日曜コース)

「すいません、そこいいですか?」

新幹線の自由席で、座れる席を探していた。
ほんとうは2人掛けの席に座りたいけど、空いていない。
3人掛けの窓側が空いているのを見つけた。
通路側に座っていた、おばあさんに声をかける。
70か、80くらいかな、というちょっと痩せ型のおばあさん。
おばあさんは返事をするでもなく、荷物をあまりどかすこともなく、ちょっと足を引く。
「すいませーん」
もう一度声をかけて、荷物とともに座らせてもらう。

なんだか失敗したかも。
でも、声をかけた手前、座らないわけにはいかなかった。

名古屋を出て、伊豆の断食施設に行くところだった。
熱海まで新幹線に乗り、そのあと在来線に乗り換える。
自由席券を買っていたので、自由席が多く、名古屋発の「こだま」に乗って行こうと思っていた。しかし読みを間違えていて、乗りたい新幹線には乗れそうもなかった。集合時間や乗り継ぎを考えると、次のこだまでは間に合わない。
幸い、次の「こだま」を待たなくても「ひかり」が来たので、そちらに乗った。

平日だったので、ひかりの自由席は満席ではなかった。
でも、名古屋発ではないので、そこそこは乗っている。
3泊分の荷物は大きくて、上に上げるのはきつそうだったから足元に置いておきたかった。それに、パソコンを広げてやりたいこともある。できるだけ余裕のありそうな席に座りたかった。

どこにしようと考え、結局、おばあさんの横に座った。
横とはいえ、ひとつ席も空いているので、いい席に座ったかなと思い直す。

「おなかすいたー」
断食に行くため、前日の夜ご飯を食べてからは何も食べていなかった。
お昼前だったけれど、周りではお弁当を広げている人もいた。
いい匂いがするけど、我慢我慢。持っていた水を飲み、空腹を紛らわせる。

パソコンを広げて、書きかけの記事の続きを書く。
はかどらない! 言葉が出てこない!
何も食べてないせいで頭に糖分がいっていないのか、はたまた実力のせいなのか……。

あ、いい匂いがする。
お弁当の匂いは、ずっとしていた。
でも、その匂いがより近くなった。
「なんか食べてる!」
左側を見ると、おばあさんが何かを食べていた。
手に持っているのはタッパ。タッパは新書くらいの大きさで、深さも10センチくらいありそうだ。そのおばあさんが持つには、ちょっと不自然な大きさな気がする。

「ジロジロ見ちゃダメだよ!」という優等生の声がした。
ハッと我にかえり、前を向く。
「でも、気になるよね……」ともう一人の声がした。
だよねー、と、もう一度左を向く。
おばあさんを見る感じじゃなく、自然に周りの景色を見るように。

タッパの中身は何だろう?
煮物とか? 昨日の残り物を持ってきた?
え、でも新幹線で食べる?
わざわざ作った?
それにしては量が多いけど……。

いやいや、何を食べようが自由ですよ。
私も今日みたいな断食に行くんじゃなければ、駅で買ったオードブルを食べてワイン飲んで、プチ宴会くらいしてますよ。
うんうん、新幹線の中で何を食べようが自由ですよ。

ひとり納得をして、作業に戻る。

動きが変わった……。
作業をしながら、横のおばあさんがやっぱり気になる。
さっきと同じように、「自然なフリ」を意識して、左側を見る。

あ、おやつですか。
何やら、3つくらいある手提げバッグの1つを抱えて、その中に手を突っ込んで口に運んでいる。大事そうに抱えて、ムシャムシャ食べている。
机を出せばいいのに!
中のもの、出せばいいのに!
気になるじゃん!

関係ないですよね。
何を食べていようと、いいですよね。

きっと、私が何も食べていないから、おなかがすいてるから、気になってるだけだよ。
そうそう、きっとそう。
気になる思いをぐっと押し込んで、再び作業に戻る。

あ、もう浜松か。
ひかりだと、全部の駅に止まるわけじゃないから、やっぱり早い。

浜松を出て、しばらくして、またもや左側の動きを感じた。

ちらっと見ると……。
「えっ!?」
バッと前に向き直る。
見てはいけないものを見たのか?
見間違い? そうだ、きっと見間違いだ。
そんなはずはない。

確認のため、もう一度、左側を見る。
あ、見間違いじゃなかった。

ばあちゃん、歯磨きしてる……。
シャッコシャッコ、と音を立てながら。

シャッコシャッコ、シャッコシャッコ
シャッコシャッコ、シャッコシャッコ

規則的な音を立てて、歯磨きがなされている。
ここ、洗面所じゃないですよー。

シャッコシャッコ、シャッコシャッコ

食べた後に歯磨きをするのは、いいことなんですけど。
場所がちょっと。
ここ、新幹線の座席なんですよね。

電車の中で化粧をする若い子が非難されることあるけど、おばあさんが新幹線の中で歯磨きするのはどうなんだろう?
これ、何かを食べてる横でやられたら、たまらないな……。

歯磨きを始めてしまった、おばあさん。
私は歯磨きに気づいたと同時に、ひとつ気になることがあった。
どうするんだろう?
もう、目の前にあるパソコンの画面なんかに集中できない。
今、私が注目しているのは、左側にいるおばあさんなんだ。
人の歯磨きに集中するのも、いい気分じゃないな。ジロジロ見るのもやっぱり気がひけるし。
あー、でも気になるんだよー。

パソコンに手を置きながら、意識は左側へ。
たぶん、見ているのはバレてるだろうけど、最後を確かめないわけにはいかない。

ああ、やっぱり……。
そうきましたか。

おばあさん、ペットボトルの水を口に含んで、グチュグチュ始めました。
で、そのまま、ごくん。

私が気になっていたこと。
歯磨きの後を、どうするか。
恐れていたことが起きた。
新幹線の中で「あーあー」と声を出しそうになった。

なんだ、なんなんだ。
なぜ、公共の場であんなに自由にできるんだ。

「周りの目なんか、気にしてないよ」
と、私は会社ではそんな態度を取っている。

でも、ほんとうは相手の態度が気になって仕方ない。
そっけない態度を取られると、何か変なことを言ったかなって気になるし、こそこそ話しているところを見ると、自分のことを言われているんじゃないかって気になる。
裏で悪口を言われてるんだろうなって、つい思ってしまう。上司の悪口って言うもの、って思っちゃってるから。
だから、何かを言われないように言葉や態度に気をつかう。
会社だけでなく、友達との関係でも、ついつい考えてしまう。

そこまで、たいして、気にしてなかったりするのに。

今、左側にいるおばあさんほどじゃなくていいから、周りのコトなんかきにせずになりたいなって思ってしまった。
堂々としている姿にちょっと憧れてしまった。

「次は熱海に停車いたします」
降りなくちゃ。
「すいませーん」
おばあさんは、爆睡中。
起こさないように、そーっと。

いい夢、見てくださいね。
でも、歯磨きはできれば、水のあるところで。
新幹線の座席では控えてもらえる方が、嬉しいです。
そして歯磨きした後は、できれば「グチュグチュ、ペッ」ってしてくださいね。

***

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2017-07-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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