活かすも殺すも調味料次第
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記事:森山寛昭(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「男子ごはん!」
威勢のよいタイトルコールだが、私はこの番組を見るたびに、
「太一君、いいかげん包丁の扱い慣れろよ」
いつもやきもきする。
私は料理番組を見るのが大好きである。
でその日も、テレビ東京系で放送中の、栗原心平と国分太一が出演する料理番組「男子ごはん」を見ていた。
料理研究家の心平ちゃんはさすがに手際がよい。太一君が下手な分、技もはえる。
実はひとり暮らしが長いので、簡単な料理なら私もよく作る。おそらく好きなほうなのだろう(洗い物さえなければ)。
「俺もあんな風にちゃっちゃと作りたいな」
いつも思うのだが、なかなか思うようにいかない。
特にいつも加減を間違ってしまうのが調味料。
料理の味を決めてしまうものだから、きちんと分量を量っているはずなのに、いつも納得のいく味付けができずイラッとしてしまう。もしかして、使っている調味料そのものが悪いのか? と考え込むのである。
最悪なのは、塩を入れるはずのところを、なぜか砂糖を入れてしまっていて、後から気づいたとき。置き場所のせいでたまにやってしまう。
まあ、料理は失敗したら我慢してひとりで食べるか、まずければ捨てればよい。
だが、自分という食材を使って作る「人生」という料理はそうもいかない。
私には20年来の付き合いになる友達がひとりいる。
彼と出会ったのは大学4年生のとき。最初の就職先だった証券会社の地方面接で二人とも採用されて、私が退職する1年間は会社の同僚でもあった。
口数は多くなくいつも冷静で、信念があり、曲がったことは大嫌い。上司や先輩の言動がおかしいと思ったら、とことん彼らとやり合う男だった。
大学時代、ゼミ仲間以外ほとんど友達がいなかった私には、彼の存在は新鮮だった。
大学の同期生はエリート意識ばかり高く、2浪の私を事あるごとに見下したが、出身大学のちがう彼にはそんなところは一切なかった。同じ2浪で、同学年だったこともあって心を許せた部分もあったろう。
同じ九州圏内の大学出身というのも仲間意識を高めたかもしれない。
私は、心を許した相手にはまず自分を知ってもらおうと、自らなんでも話すたちである。
会社にいた頃は、上司の悪口やら先輩のこと、総務の女の子のこと、営業先のお客様のことはなんでも彼に話した。
相談ごとも、おそらくいの一番に彼にしていたと思う。
私の退職後も、将来や新しい就職先、好きになった女性の話など、おそらくこの20年で、私の秘密は、家計のこと以外ほぼすべて話しているはずである。
だが、こんな長い付き合いなのに私とその友達には疎遠な時期があった。
たった1通の携帯メールの、私の言葉遣いのあやまりからケンカになり、約1年間、私は彼との音信を絶やしたのである。
不思議なもので、大事な友達と連絡しなくなったとほぼ同時期に、今思えば自分には悪魔のような人物が近づいてきた。
5歳年上の魚屋の店主で、私には兄貴分のような存在だった。
彼は別な意味で新鮮だった。
女の口説き方や風俗の使い方、果てはギャンブル。
今までほとんど踏み込んだことのない世界を私にインプットしたのは彼だ。
享楽的な生活を覚えたせいで、意志の弱い私は、自堕落な生活にはまり込んでしまった。
それだけならまだしも、折からのリーマンショックで、私は400万円の財産を吹き飛ばすことになる。
さらに、私の旗色が悪いとみたのか、魚屋の店主は、私が信用貸ししていた10万円を持ち逃げして行方をくらました。
こんな災難続きで困り果てた私を見捨てずに助けてくれたのが、1年近く疎遠になっていた友達なのである。
誰にも相談できず、私が恥をしのんで、10万円貸してくれ、と泣きついたとき、渋々ながらも貸してくれたのは彼である。
そのとき借りた10万円が、いや、それを貸してくれた友達の情けは私の生活の転機になり、今に至っている。
「人生」というフライパンで、自分という食材を料理するときに最も大事なものは何か?
私は「友達」という名の調味料だと思っている。
素材がよければ調味料など必要ないのだろうが、あいにく私は大した食材ではない。
ならば必然的に調味料を選ばなければならない。
私にとってのよい調味料の条件は、知恵と知識と豊富な経験のいずれかさえあればよい。
性別やら年齢やら、ましてや出身大学などまったく関係ない。
私という食材との相性がよければそれでよいのである。
幸い私は影響を受けやすい、つまり、素直に調味料の味を吸い込む食材でもある。
調味料さえ間違わなければ、それなりに私だって食べられる。
だが、間違えれば……。
振り返ってみれば、あのときの魚屋の主人は、食べられるはずの料理に思いっきりぶち込まれた砂糖のようなものだろう。
20年来の友達は、それをうまい具合に中和してくれた。
そして、今も私の「人生」の味付けをおおまかに決めてくれている。
実は、私が天狼院という不思議な名前の書店に足しげく通うようになってから、この調味料の種類が格段に増えた。
自分がどんな味付けに仕上がっていくのかまだわからないが、これまでより味に深みやまろやかさが加わって、おいしくなっていると内心思っている。
そのことを当然20年来の友達には話していて、彼は私に、
「よかったやないか」
そう喜んでくれているのである。
実はこれが一番うれしいことだったりする。
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