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いつでも思い出せる場所にしまっておく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森永桃子(ライティング・ゼミ平日コース)

最近とても暑い。夜は痒くて眠れない。いつの間にか疲れて寝てしまってたんだ、と起きて気が付くと肌が乾燥してピリピリする。起き上がれない。一体いつになったら治るんだろう……このまままた寝てしまおうか……。
などとぼうっと考えているうちに寝てしまっていて、もう授業が始まっている、ということが何度かあった。
今日こそはちゃんとしなければと自分を奮い立たせ、余裕をもって地下鉄に乗れたはいいが、暑くて暑くて、学校に行き着くだけで力が尽きてしまう。
4号館の窓から、校庭で元気いっぱいに遊ぶ隣の小学校の子供たちの姿が見える。私も昔はあんな風にできていたのにな。

すべてが病気のせいでないことはわかっている。頑張れない私が悪い。
今学期は自分に負けて、何度か欠席してしまった。

講義はとても楽しい。この大学のこの学部学科に来て、本当に良かったと心から思っている。

小さい頃、「将来の夢は?」という質問を幾度となく浴びせられてきたが、大学生にもなると「将来の夢は?」は「就職どうするの?」に変わる。
そう聞かれる度に「大学院に進学してもっと心理学を勉強したいです。ゆくゆくは、心療内科か精神科で働きたいので資格を取るつもりです。」と答える。
最近新たなコミュニティに入り、またその質問を受けた。答えながら、授業を欠席したことにどうしようもない罪悪感を感じた。と同時に、そうだ、私は心理学がやりたくてここにいるんだ、と改めて思った。
去年の今頃は学校に来たくてもとても来られない状態で、その頃からしたら今は学校に通えているのだから、十分幸せなはずだ。

私は、入学して一カ月も経たないうちに治療のために大学を休んだ。
それまでずっと副作用の強い薬を使っていたせいで、治療を始めてすぐに全身火傷のような状態になり、体が石化したようになって動くこともままならなかった。
両親が不在で、ベッドから起き上がれないため、何も口にせず一日中ベッドに横たわって泣きながら過ごした日もあった。
昼過ぎに起きて治療を受けに行き、家に帰って布団に入っても六時間くらい眠れないまま過ごした後、明け方にやっと疲れて眠るという生活が三カ月ほど続いた。
その間、家族と治療をしてくれる方以外には会えなかったため、社会から断絶されたような気持ちでとても寂しかった。少し回復してからも外出は控えなければいけなかったため、退屈しのぎによく家でピアノを弾いたり本を読んだりしていた。

本といっても小説ではなくて、エッセイや心理学関連のものばかりだ。もともと考え事をするのは好きだったが、体が動かない分エネルギーが頭に回っていたのか、普段の何倍も様々なことに思いを巡らせていた。そんなふうに時間を過ごしていく中で考えたことを思い出した。

私は、中学生くらいまでは至って健康で、毎日学校に行くのは当たり前、病気がちな子の気持ちなんて想像したこともなかった。体や心が弱っていてあまり学校に来ていない子がいても、「あの子あんまり来てないけど大丈夫かな~」と思う程度でたいして気にも留めていなかった。自分がそのような状況になって初めて、その苦しさを知った。病気は体を蝕むだけでなく、心まで侵されてしまうのだと、こんなにつらいのだと初めて思い知った。

今の世の中には病気にかかって体も心も苦しくてつらい人、なぜだかわからないけど毎日息苦しい人、元気にふるまっているけど陰ではひとりでつらい気持ちを抱えたまま生きている人もたくさんいるのだろう。家に籠って本を読み考え事をしているうちに、少しでもそんな人たちの救いになるような仕事がしたいと思うようになった。

高校生の頃は進路の話をされる度、どこにいきたいのか、どうなりたいのかが全く思い浮かばずに頭を悩ませていたのだ。そのときやっと、私にも見つかった。

大学を数カ月休んで治療をした経験自体はとてもつらく苦しく、もう一生あんな思いはしたくないけれど、それがあったからこそいろんなことを考え、将来の道筋が見えた。

「近い将来の目標は、〇〇大学に留学することと、大学院に進学することです。そして臨床心理士になって、公認心理師の資格もとって精神科か心療内科で働くのが夢です。それを実現するために、後期からはコツコツ勉強に励んだり、自分の体と心の健康のために好きなことをたくさんしようと思います。」

ちょうど一年前の同じ時期に、考えていたことだ。
今でもその志は変わっていない。

今の自分の行動ひとつひとつが将来に繋がっているということを、目まぐるしい日々のなかでは忘れてしまうことがある。
時には息抜きをするのも大事だけれど、あの時考えたことをいつでも思い出せる場所にしまって、その度に思い出せるようにしておきたい。

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