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視力0.01の私がメガネをかけずに池袋の雑踏を歩く理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永谷 陽介(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「うっ、嫌な予感が……」
10年以上親しんできた池袋の街中を歩く私の足元で、踏み慣れない「グニッ」とした感触がした。
お気に入りのメガネをケースから取り出して、眼のピントを合わせてから足元を確認すると、そこには雑司ヶ谷辺りの住宅街に住んでいるであろう誰かの愛犬の排泄物がべったりと付着していた。
まるで、晴空の下を歩いている気分の良いタイミングで、電線にとまっている鳩に糞を落とされたような気分になった。
 
他にも似たような経験として、スマホとキスをすることがある。
周りの人と同じように電車の中でスマホを触っているだけなのだが、視力0.01の私は自分の顔とスマホとの距離を5センチまで縮めないと文字が読めない。
周囲の乗客には、
「そんなに顔を近づけなくても良いのに……」
と思われているかも知れないが、5センチまで距離を詰めなければ、ディスプレイに映し出される言葉や画像にモザイクがかかってしまうのだからしょうがない。
そんな状況で電車の運転手が急ブレーキをかけたら、唇とスマホがくっ付いてしまうことは必然なのである。
私たちが普段から使い込むスマホには、トイレの便座と同じくらいの雑菌がついているそうなので、便座と口付けしたと言っても過言ではない。
 
そう。
裸眼の視力が0.01の私にとっては、メガネをかけるきっかけになりがちな「学校の黒板が見えるか見えないか」という問題に留まらず、街中を歩くことや裸眼でスマホをチェックすることにすら不自由している。
 
それでも私はメガネをかけずに裸眼で池袋の雑踏を歩くし、今にも唇を奪われそうな距離でスマホと向き合うのである。
 
その理由とは、お手軽に「旅行」に行くためだ。
日常の生活圏から離れた遠い場所で、ゆったりとした時間を過ごし、気分をリフレッシュすることで、普段の生活や仕事の中に新たな気づきをもたらすとされている、皆様がご存知の「旅行」である。
 
私は普段、視力0.01の裸眼で過ごす時間を使って、みんなが行きたがる「旅行」に行っている。
 
「メガネやコンタクトレンズを外して過ごすだけで旅行に行けるなんて、嘘に決まっている」と思われるかも知れない。
 
でも、本当なのである。
 
視力が弱い人の裸眼には一般的に、水中で目を開けたときのようなボヤけた世界が広がっている。なんとなく数メートル先に人がいることは分かるけれども、誰がいるのかは分からないといった具合に見えている。
この視界がボヤけた状態で過ごす時間は、旅行中の時間と同じように非常にゆったりとしている。なぜなら、視界がボヤけているせいで、何も見えないからである。
始めは自分の足元すらハッキリ見えないことへの恐怖心が勝るのだが、普段なら気が散る原因となる「他人の視線」や「周囲の行動」といったことに気が向かず、自分の世界でゆったりできていることに、次第に気づくのである。水の中で目を開けても何も見えないように、裸眼の世界では周りから得られる情報が少ないことがその要因なのだろう。その一方、歩く上で最低限必要な歩行者とのすれ違いなどは、人影が見えているので問題は無い。おかげで気分をリフレッシュしたり、気持ちを落ち着かせたりするのに一役買ってくれている。
旅行中も、都会の喧騒や仕事から解放されていたり、周りに自分の知っている人がいないということが分かっているせいか、妙に時間の経過がゆったりとしていて、気分をリフレッシュすることができる。
 
さて、一般的な旅行から日常世界に帰ってくるためには、飛行機や車、新幹線に乗ることが多いが、ボヤけた世界への「旅行」ではメガネやコンタクトといった、ピントを合わせるレンズが登場する。
世界がボヤけているところにメガネをかけると、目の前に広がる世界の細かなところにまでピントが合い、視界が鮮明になることで、急速に現実に引き戻されるのである。そして、新鮮さを取り戻した目の前の世界で、今までにない新たな気づきを得られるようになる。それまで目にも留まらなかったビルの看板や、すれ違う人々の表情に目が向くようになっているのである。
 
些細なことではあるが、先日はコンタクトレンズをつけて池袋を歩いていたら、久々に見る新鮮な街並を見て幾つかの新しい気づきに出会えた。例えば、池袋にはいつも行列ができているラーメン屋さんがあるのだが、列に並んでいる人の顔立ちや荷物に目が向いたことがあった。以前まではただ「行列ができている」だけのラーメン屋さんだったのだが、久しぶりにレンズを通して見てみると、お客さんは外国人旅行者ばかりで、ひょっとしたら海外のガイドブックに載っていたり、外国の方好みの味付けだったりするのかな、ということに気がついていた。
 
毎日レンズを通しっぱなしで「代わり映えしないなぁ」と思いながら歩いている人に比べて、「旅行」から帰ってきて、久しぶりに街並に触れる人の方が新たな発見は多いのではないだろうか。
 
毎日コンタクトレンズばかりつけている、そこのあなた。
仕事で良いアイディアが出なくて困っている、そこのあなた。
休みが取れなくて旅行に行けないと嘆いている、そこのあなた。
 
いきなり裸眼で外を歩くのは危ないのでオススメできないけれども、一度騙されたと思って、カフェでの時間潰しや仕事の休憩中にメガネを外して「旅行」に出れば、身近な世界に新しい発見があるかも知れないですよ。
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2017-08-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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