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メディアグランプリ

キレイな自分を否定しなくていい理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Nozomi(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
はあ……。
思わずため息が出る。天神警固神社でバスを降りて、福岡天狼院へと向かう道の足取りはいつになく重かった。
ライティング・ゼミの第1回を受講するときだって、今よりも緊張していたけれども期待も大きかったんだ。
こんな引きずるような歩みではなかったはずだ。
 
明日からお盆休みなのに。
休み前だから、仲の良い同僚たちは焼肉とビールだとはしゃいでいたのに。
いや、それよりも。最近食事に行くようになった彼から、それとなく今日の予定を聞かれていたのに。
なのに、なのに、と口をとんがらせるけど、足は勝手に覚えている道を進んでいく。
 
入り口の前には、貸し切りイベントを告知する黒板が出ていた。
はぁ……。
階段を見上げて、一層深いため息が出る。
行かないと、ダメ……?
お腹痛くなったことにしようかな。それとも、仕事が長引いてしまったと連絡を入れようかな。
 
ほとんど止まりかけていた足だったけど、結局階段を上ったのはドタキャンはよくないという良心が踏ん張っただけだった。急にイベントが魅力的に思えたわけでは、決してない。
階段を上れば、一連の動作で手がガラスの扉を引く。
「こんばんは」
わたしの究極ローテンションを無視して、体が勝手に天狼院の中に入っていった。
あぁ、入ってしまったよ……! もう、仕方ない。
 
秘めフォト部。
このイベントが焼肉よりも、彼からのお誘いよりも有意義な時間なのか確かめようじゃないか!
 
カメラのレンズを見つめる。
そういえば、こんなにはっきりレンズを見たのは初めてだ、なんて思った瞬間、パシャっという音と共に斜め上からフラッシュが光った。
 
どうすればいいの……? という戸惑いを抱いたままわたしの撮影が始まった。
モジモジしながら用意されていたセクシーな衣装を選び、これまた時間をかけて着替え、少しでも身体を隠しながらカメラの前に立った。
恥ずかしがりながらも顔の角度、手の位置を教えてもらった。笑顔を作ろうとしたわたしは、笑わなくていいと言われてレンズを見る。そこでようやく切れたシャッター。
ドキドキするわたしにカメラマンの三浦氏が見せてくれた画面には、今まで見たことがない、影を帯びた自分がいた。
 
これが、わたし……?
なんかちょっと……。いや、けっこう? ううん、とっても! 色っぽい。
 
ポージングを変えながら、ハマった角度があると三浦氏はもちろん、秘めフォトの参加者からもスタッフからもおぉ! という感嘆の声が出る。
 
美しい。
キレイ。
可愛い。
セクシー。
 
それは普段言われない言葉。いや、言われても「そんなことないですよ」と否定しないといけない言葉だ。
キレイに見られたいからメイクを研究し、似合う洋服を探して試着を繰り返し、ボディラインが保てるようにダイエットもする。そんなに努力しているのに、実は日常ではそれを全面に出すことはない。それは女の世界の暗黙のルールだから。
そのいつもは抑えている自分のキレイになりたいという気持ち、可愛く見せたいという願望をここではめいっぱい出すことができる。この場所には、美に対する素直な賞賛が溢れていた。
 
もっとキレイに撮ってほしい。
自分も知らない表情を見つけてほしい。
正直に言えば恥ずかしさが完全に消えることはなかったけど、わたしの美への欲求はこんこんと湧いて出た。
 
自分の撮影が終わって観客席に座ったわたしは、撮影もしてみようとカメラを構えた。しかし、まったくシャッターが切れなかった。
画面越しに見るなんてもったいない、というあの言葉の通り、他の参加者の方々の美しさに目を奪われたのだ。
手の置き方で、視線の方向で、顔の角度で、驚くほど表情が変わっていく。それを見逃さないように追っていくので精一杯だった。かっこよさ、可愛さに色っぽさが加わり、幾重にも重なっていく美しさには果てがなかった。
 
帰り道は、夢見心地だった。
焼肉? お食事? ぐちぐち言っていたのを忘れるくらい、有意義な時間を過ごせたことはもうお分かりだろう。
ふわふわした気分で歩いていたわたしはコンビニを見つけ、ふと空腹を思い出して中に入った。
いつもの習慣で、スイーツコーナーをチェックする。甘いものの誘惑は大きかったが、時計を見てぐっとガマンしたとき、思い当たることがあった。
 
ん……? そうか、秘めフォト部ってスイーツの食べ放題と同じなんだ。
普段はスイーツをお腹いっぱい食べたいという衝動を抑えている。こんな時間に食べるなんてもっての外だ。
でも、スイーツの食べ放題という特定の日にちと場所では、それが一気に解放される。好きなだけ食べていい、という魔法の言葉を自分にかけて、欲望のままに甘いものをほおばる。その場にいる人たち全員で共有する、特別なルールだ。
 
それと同じように、秘めフォト部は美に対する欲求を隠さなくていい場所だった。
いつも閉じ込めている自分の美を惜しみなく出し、そして受け止める。他の参加者の方々の美を見つめ、吸収する。あの時間、あの場所だけは許される特別なイベントだ。
 
あぁ、でも。
スイーツ食べ放題との違いが一つある、と気づいた。
体重の増加を避けられない食べ放題とは違って、美はいくら摂取しても罪悪感なんてこれっぽっちもない。むしろ、もっとキレイな自分になりたい、という気持ちを駆り立ててくれるのだ。
 
 

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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【2023年2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」

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