メディアグランプリ

今度こそ、書き続けたい


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記事:べるる(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

「もう一度書き直し。何が言いたいのかよくわからない」

突き返された原稿用紙を、受け取りながら、「先生が丸をくれそうな作文はどんなのか、分かる。でも、自分の頭の中を書きたい。書いてもピカソの抽象画みたいで、先生に伝わらないのは、私だって分かっている。でも、どう書けばいいか分からない」と、中学生の私は心の中で泣いた。

昨日のテレビで、シェフが言っていた。「今日はね、取れたてのズッキーニをもらったんですよ。こうしたら美味しい! と思って、作ったのがこのパスタなんです」と。パスタを出された芸能人は、「美味しい~!」とかなんたら言いながら、食べていた。

シェフはいいな。自分が美味しい! と思うものを作れて、食べた人が「美味しい」と言ってくれて。14歳の頃から、私は書けない子だった。

 

書くということは、なぜこんなにも、ついてまわるのだろうか。高校に入っても、また作文を書け、と言われる。自分の中の思いはある。でも私は、書けない。まぁいいや。誰もまじめになんて、書いてないのだから適当に書こう。大好きなバンドのボーカルが書いたコラムに、衝撃を受けたばかりだったので、彼の真似をして書いた。彼にしか書けない、ユーモアとロックな言葉で埋め尽くされたコラムは、最強におもしろかった。「しいたけと、唐辛子と、鯨の肉と、トリュフを、生クリームを使ったクリームソースに絡めたら、美味しいパスタが出来たぜ!」って感じの文章だった。意味が分からない。こんなんありですか!? でも、おもしろい! みたいな。

 

「作文、すっごいおもしろかった!」と、担任の国語教師は言った。

え、あのパスタが美味しいの? 先生って、「ミートソース」とか「ナポリタン」とかしか受付けないのではないの? 一番好きなのは、既製品のレトルトソースがかかったパスタでしょう? 同時に、ただのパクリなんです。ごめんなさい、という罪悪感にさいなまれた。私じゃないんです。彼がすごいんですと。私はどんなパスタも作れません。頭の中に思いはあるけど、作れないんです。

でも、ほめてくれたのは嬉しかった。というか、こんな変なパスタが受け入れられるなら、私が作ったパスタだって、先生はだめなんて、言わないのではないか。

そう思ったら、気が楽だった。授業の作文を毎回頑張って書いた。予想通り、先生は私が書いたものを、まるごと認めてくれた。「おもしろいね」「いいね」と言ってくれた。自分が思ったこと、感じたことを少しは書けるようになった気がした。

でも、先生以外の人には相変わらず、伝わらないと感じていた。「おもしろい」とも言ってくれないし、「もっとこうしたら?」「何か違うんじゃない?」ということばかり言われた。

やっぱり、私が作るパスタは、どこかおかしいのだ。味覚ではなく、感性でもなく、作り方の問題なのだろうと思った。いや、思いたかったのかもしれない。先生が「おもしろい」と言ってくれた、自分の感性だけは否定したくなかった。先生は「書き続けたら、うまくなるよ」という。でも、私には、書き続ける程の情熱が、わいてこなかった。結局、私は書けないままだった。

 

書けないと思っても、社会人になっても、主婦になっても、子育てをしていても、いつだって、書かなければいけないことは存在する。レポート、稟議決済、研修報告、メール、保育園の連絡帳、Line……。作文ほど、自分の頭の中を書くという作業ではなかった。自分の頭の中を書かなくても、なんとなく書いて、なんとなく通じた。『仕事で使えるメール術』という本を読めば、それなりに相手に失礼のないメールは書けた。先輩の稟議書を読んで真似して書いたら、すぐに決済をもらえた。既製品のレトルトソースは美味しいし、問題なく、誰にだって受け入れられる。

 

ただ、思ったことを書けないと言うのは、パスタをゆでているだけみたいに、味気なかった。既定の時間ゆでたら、完成。既定のことだけ書いたら、完成。

私はいつまで、パスタをゆでるだけの時間を過ごすのだろう。「上手く書けない」と思いながら、いつまで書かなければいけないのだろう。そう思うと、すごく憂鬱だった。

私は、Lineの文章でも、助成金の申請でも、保育園の連絡帳であっても、自分の思っているように書きたい。そして、それは人に出せるクォリティでなければ、だめ。そんな文章を常に書きたい。目指すは、あの日のズッキーニのパスタだ。

とりあえず、文章を書くことを習ってみようと思った。

 

1回目の講義で「この方法で書くと、自分の頭の中とのラグを少なくして、書けます。コンテンツとして成立する文章が書けます」と三浦さんは言った。「そして、誰でも書けるんです」と。

……いた。

私がずっと教えて欲しかったことを、教えてくれる人が、いた。

三浦さん、出来れば14歳の頃に出会いたかったです。私の抽象画みたいなパスタを、シェフが作るパスタに作り直して、私を驚愕させて欲しかったです。

 

1回講義を受けて、課題を書いてみた。自分が感じたことを言葉に出来たという感覚があって、嬉しかった。

でも、それより嬉しかったのは、保育園の連絡帳に、少し躍動感ある文章が書けたことだった。「いいね~! パスタに自分の感性が出せるようになったんじゃない?」と自分で自分を誉めたい気分だ。

たった1回講義を受け、課題を出しただけで……と、自分の変化に驚いた。

 

三浦さんは、「誰でも書けるけど、書かなければ、書けるようにならない」と言った。だから書いてますけど、正直この課題を書き上げるのに、30時間以上かかっている。もうまぶただって閉じそうだし、家の中はめちゃくちゃだし、それでもあの日のズッキーニパスタは遥か彼方に見えるだけで、道のりは果てしなく遠い。書き続けられるのかなとも思う。

でも、ようやく、自分の納得のいく文章がかける方法を知ったのだ。このチャンスを逃したくない。

今度こそ、書くことを自分のものにするまで、私は書き続けたい。

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2017-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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