私たちは真っ白い画用紙だから
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:一条英里(ライティング・ゼミ日曜コース)
ただただ怖かった。昔、女性の価値を表現する言葉として「クリスマスケーキ」があったけれど、今は「除夜の鐘」なんて言うらしい。「クリスマスケーキ」は25日を過ぎると売れなくなってしまうことを言い、「除夜の鐘」は31日に鳴り響いてその年の終わりを告げる。女性は25歳で市場価値が下がり、31歳を過ぎると価値がなくなる、そんな風に感じていた。
25歳をとっくに過ぎ、まもなく鐘が鳴り響こうとしている。30代独身、彼氏なし、キャリアなし、将来の夢なし。どれか1つでもあれば、なんて思ってしまうのは今の自分に満足していないからだろう。せめて仕事に生き甲斐を感じて邁進していればキャリアアップできるのに。結局言い訳を探しているだけの話だが、こんな「3なし」の私は、ついに女性としての市場価値もなくなるのかもしれない。だとしたら、私には一体何があるというの?
そう、焦っていた。周りの友人たちは結婚ラッシュをとっくに過ぎ、出産を経て今は子育てをしながら職場に復帰しつつある。話題は子供たちのことでいっぱいになり、相槌は打てても、残念ながら共感はできない。人生ゲームに例えるなら、駒が先に進み過ぎて後姿が見えなくなり、ステージが変わってしまったように思えた。私だけが駒を進められず、いつの間にか、どこへ向かっているのかさえわからなくなっている。
ただ、そんな今の状態から抜け出したい。そんな気持ちだけは人一倍強くなっていった。抜け出して、どこへ行くのかなんて決まっていなくて、ただ抜け出したいと思う。この気持に名前を付けるなら、きっと現実逃避というのだろう。今の何もない自分に向き合う恐怖から、旅行という非日常に身を任せることで一瞬の楽しみを得るようになった。正社員として働き、一人暮らしで家賃や生活費を払いながら、年に7ヶ国のペースで海外旅行をするようになる。国や言語を選ばず、まだ見ぬ土地に思いを馳せて大空を羽ばたくように旅を楽しんだ。
そんな旅行三昧の生活にも終わりが訪れる。フィンランドにオーロラを見に行った時のこと、空き時間にナパピリという街へ出かけた。ナパピリとはフィンランド語で「北極圏」。ついに北極圏まで到達してしまった。興奮した私は夢中になって写真を撮っていたが、ふと我に返る。旅三昧な生活に、もう十分満足したよね。女一人で北極圏まで到達し、これ以上どこに行くというのか。大きな空を飛んで見知らぬ土地へ行くことよりも、地に足を付けて現実を見つめ直す時が来た。
30年程生きてきたそれまでの道のりを振り返り、次のゴールを設定する。時には過去の痛みに触れることもあり、決して平坦ではなかったけれど、自分なりに必死に生きてきたことを知る。何もないと思っていた自分の人生は、何も見えていなかっただけ。考えることを止めて、頭の中が真っ白になっていただけ。これから考えればいいじゃない。私は真っ白い画用紙だ。
真っ白い画用紙を見て、何も描かれていないことを嘆く人はいない。赤や青の色鮮やかな画用紙と比べて、誰が落ち込むだろうか。むしろ、これからどんな絵を描こうか、ワクワクしながら考えるはず。私だって同じじゃない? 嘆く必要は何もない。この真っ白い画用紙に、今まで何も描いてこなかったのは私。本当は描きたかったけどできなかった、描く勇気が出なかった、描いていたけれど上手くいかなかった。どんな理由でも、自分の望むものが描かれていない時点で、現実は一緒。
でも、その真っ白い画用紙に絵を描いていける人も私だけ。せっかく何もないなら、自分の好きなものだけを描いてみたらどうだろう。やりたいこと、欲しいもの、なりたいもの、何にも縛られず、自由に描いてみたらいい。もしかしたら、昔諦めてしまった夢かもしれない。小さい頃に好きだったものかもしれない。私の思いを知っているのは、他の誰でもない私だから。
そんなことできる訳ないって、ひねくれるのは自由だけど、そうやってひねくれて何もしなかったら、何が起こるのか、もう想像できるよね。何もないことに苦い思いを味わったはず。本当に今のままでいいのか、自分の胸に手を当てて聞いてみてほしい。時間は待ってくれない。
これは私の画用紙だから、他の人に筆を委ねずに、自分で自分の理想の絵を描こう。他の人が描いた絵が、自分の思い通りにならなかった時、その人のせいにしてしまうから。他の人に任せたのは自分なのにね。そうやって楽ばかりして、上手くいかなかったら他の人のせいにしていたら、きっと後悔してします。そんな私とはもうお別れをしよう。
もうここまで来たら、筆を取らずにはいられないはず。笑われたっていい。馬鹿にされたっていい。描いた絵に共感してくれる人はきっといる。自分の想像する理想の自分を、思い切り描いてみよう。真っ白い画用紙だからこそ描ける、ひとりひとりの美しいアートを、心の底から楽しみにしている。
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