勘違い勇者よ、目を覚ませ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:細谷佳子(ライティング・ゼミ日曜コース)
さぁこどもたち、寝る前のお話をはじめるよ。
昔々あるところに、おとうさんとおかあさんと三人の子どもたちが住んでいました。毎日おとうさんはお仕事に出かけ、おかあさんは家の中のことと子どもたちの世話をしています。けれども毎晩子どもたちが寝静まると、勇者になって冒険に出発するのです。
え? おかあさんたちがゲームで遊んでいるだけでしょうって? うん、その通りです。
でもおかあさんは大事なことに気が付いたんだよ。どこから話したらいいかなぁ……。
まず、ゲームの中の勇者は世界を救うために冒険をしています。でも勇者一人では強い敵には勝てないし、遠くの町へ行くのだって大変です。
だから自分とは違うことが得意な仲間と一緒に旅をしています。そうすれば自分が倒れた時も助けてもらえるし、協力することで強い敵にも勝てるようになります。敵に囲まれても勝てるから安心して色々なところを冒険できるようになって、宝箱を見つけたり、道具作りの材料を集めたり、ちいさなメダルを探したりすることもできます。とても楽しい。
だけどね、せっかく仲間と一緒に冒険しているのに、勇者が自分のことしか考えていなかったらどうなるでしょう。自分は丈夫な鎧を着て、強い武器を持って、元気いっぱい。だけど仲間は前の戦いでケガしたままで死にそうだ、とか。戦うための道具を持っていなかった、とか。そういうことがあったら、いくら仲間が勇者を応援したいと思っていても、助けられません。
そして死にそうな仲間たちがいるのに、勇者が自分は元気だからと「世界を救うため」に休みも取らず、無理やり冒険を続けていたらどうなるでしょう。自分一人で戦っていると勘違いしている勇者とは、もう一緒にいられないと思う仲間も出てくるかもしれません。そうでなくても強い敵と出会ったが最後、大事な仲間たちは息絶え、勇者自身も倒れてしまうことでしょう。
ちなみに、この勘違いした勇者はおかあさんのことです。
最近のおかあさんは自分のしたいことは何だろう、ってずっと考えていました。そしてやっと答えが見えてきたようで、嬉しくて舞い上がっていました。「世界を救う!」って燃えている勇者と一緒です。
別にそれ自体はいいことなのだけど、問題は周りが見えなくなっていたこと。お母さんの場合では、おとうさんが疲れ切ってしまいました。
おとうさんはお仕事から帰ってきてからも、家の中のことをたくさん手伝ってくれます。例えばたたみきれなかった洗濯物をしまってくれたり、あなた達をお風呂に入れてくれたり。おかあさんがあなた達を寝かしつけている間に、夜ご飯で使ったお皿を片づけてくれるのもおとうさんです。おかあさんは寝かしつけで布団に入ったまま、眠ってしまうことも多く、おとうさんとおかあさんが二人で話す時間もありません。「ありがとう」とは言っていても、いつの間にか当たり前のように思っていました。
それにおかあさんが一人で出かけたいと思ったときに、あなた達の世話をしてくれるのもおとうさんです。おとうさんのお休みは週に一日しかないのに、嫌な顔をせずに送り出してくれます。けれどもおかあさんは、おとうさんが貴重な時間を使って送り出してくれていることも、当たり前だと思い始めていました。
おとうさんはいつも優しいけれど、このところ溜息も多かったし苛々していましたね。お仕事から早く帰ってくる日が多かったのは、疲れすぎてお仕事に集中できなかったからのようです。
毎日家族のために一生懸命働いているのに、帰ってきてからも家の中のことを手伝って、それを当然だと思われていたら、どうして自分ばかり頑張っているのだろうという気持ちになります。そのうえ、おかあさんが「やりたいことがあるから」と自分の要求ばかり押し付けてきたら、嫌な気持ちになるのも無理はありません。
そのことに気が付いたおかあさんは、おとうさんに謝りました。そして黙って押し付けてしまっていた家の中のお仕事を、おとうさんがやらなくて済むように段取りを考え直しました。寝かしつけた後も、おとうさんとお話しができるように起きるようにしました。
「やってもらうのを当たり前だと思っていないよ」ということが行動から伝わって、今は、おとうさんの苛々も落ち着いてきています。
ゲームの中の勇者ってね、すごいんだよ。最初は隣の町まで行くのも命がけだったのに、仲間が増えて、みんなに協力してもらっているうちに強くなって、出発した時には無理そうに思えた「世界を救う」ことだってできちゃいます。
おかあさんも、おとうさんも、あなた達も、みんな同じ。家族や友達や、そういう自分を応援してくれる仲間がいれば、途方もない「やりたいこと」を叶えられる可能性が、ぐんと高まります。でも、仲間のことを忘れたらそこでお終い。だからおかあさんがまた、勘違い勇者になっていたら「目を覚ませ!」って教えてください。
まぁそんなわけで、おかあさんは今日もおとうさんとのお話しを楽しみながら冒険に出かけます。だからあなた達は、早く寝てください。それじゃあ、おやすみ!
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