あの頃に戻りたいと思うことは、プライドが許さない
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記事:前岡舞呂花(ライティング・ゼミ 平日コース)
あの頃はよかったとか、あの頃に戻りたいと思うことは
今の自分が過去の自分より満たされていないと認めたことになる。
それは、私の中のプライドが許さないのだ。
長い人生経験があると、過去を懐かしむことは、ことさら増える傾向にあるのだろうと想像できるが、まだ20歳を少し超えたぐらいの私たちの間でも、今を憂いながら「あの時に戻りたい」という話題になることが時々ある。
しかし先に述べた理由で、それに同意したくない自分がいる。
たとえ気持ちは理解できるにしても、である。
この思いが確立されたきっかけは明確に覚えている。
新生活をつかみ始めたころだったので、高校1年生の6月ごろか。
地元のファミリーレストランに中学時代の友人4人で集まることになった。成人し、就職や大学進学で住む場所が散り散りになった現在でも定期的に集まる、気の置けない友人たちだ。
あの頃から、集まるとマシンガントークが始まるのは変わらない。
外では少し声のコーン落としてと諫めるのは、大体私であることも。
その日も例に漏れず姦しかった。
久しぶりに顔を合わせ、話題も溜まっていたから一等仕方がない。
高校に入って感じた変化とか、クラスメイトや部活動の様子など各々の近況報告から始まり、
続いて、誰は結局どこの高校に入ったとか、早速恋人ができたらしいとか、相変わらずであるとかいう、共通の人脈の情報交換会、
それから思い出話に花が咲き、なんとなく、過去を懐かしむ雰囲気になった。
楽しかったね、と誰かが言い
戻りたいねー! と誰かが言った。
そのどちらかは私が言ったのかもしれない。
私たちは島に住み、島の学校に通っていた。1学年はおよそ60人だ。
島の中には一つしか高校がないため、ほとんどが島外の高校進学を選択する。
私の中学校から同じ高校に通った同級生は一人もいなかった。
環境が変わった心細さがまだ残る時期だったことが大きい。
しかし、対して一人が言った。
でも私は戻りたいとは思わないかな、
あの時もあの時で楽しかったし、これからもきっと楽しいよ。
私たちはこれからもこんな風に集まるだろうし。
確かこのようなニュアンスだったと思う。
「そうかなあ」などと煮え切らない返事を返しながら話題を変えたものの、
この発言に対しては、ちくっとした痛みが残った。
少し、ずるいと思った。
このタイミングでその発言はずるい。
私は停滞していて、彼女は前進していると感じ
私が間違っていて、彼女がきっと正しいのだろうと思った。
彼女は目立つ存在で、クラスのムードメイカーだった。
男女分け隔てなく仲良く、先生とも友好的な関係を築く。
成績は常にクラストップ。だから県内トップの高校に進学したのは傍からも当然の流れだったが、A判定が出てもなお高校受験の対策には妥協が見られなかった。
授業中に思い付いた駄洒落を伝えてくるようなユーモアのセンスもあった。
且つ吹奏楽部としての活動にも全力だった。
それでも嫌味には感じさせないのは、才能か。
近い距離にいたので、その裏にある努力も垣間見てきた。
私は彼女のそういう姿勢を尊敬していた。今でもそうだ。
だから、私は彼女のスタンスを、悔しくも素直に取り入れることにした。
自分の中で整理すると、それは無理せずしっくりきて、
自分なりに解釈して、ゆっくりと冒頭の思いが確立され、
ついにそれは私の中で当たり前になった。
現状を憂いても、過去に戻りたいとまで願うことはなくなった。
過去に戻りたいといったとき、私は現状の自分を認めたくなかったのだと思う。
「あの頃に戻りたい」思いが消えるまでの過程は私にとって、
嫌なことがあっても情けなくても不満があっても、あの頃より不幸だと感じても、
現状の自分を受け入れ、前を向く土台ができた期間だったと思う。
現在、唯一。
ただ唯一、過去の自分を羨ましく思ってしまう瞬間がある。
それは、部活動に打ち込んでいる人の姿を見た時だ。団体競技だとなおよい。
最近見たものだと、甲子園とか、よさこいパフォーマンスとか、書道パフォーマンスとか。
大会や発表の舞台に至るまでの過程を想像して、感動する。
そして、私自身が高校時代、部活動に打ち込んでいた数年前と重ね合わせ、
今の自分には、こんな形で取り組んでいるものはないなあと思ったりした。
過去に戻りたいとつぶやく人だって本気で戻りたいと望んでいるわけではない。
ただちょっと現状に不満があって、その不満がなかった頃のことを思い返しているだけだ。
しかし、過去の自分にあって今の自分にないものがあれば、
今の自分にあって過去の自分になかったものもある。
高校時代には打ち込める部活動があり、今の私にはないかもしれない。
例えばその代わりに、高校時代の私は毎年冬の時期のマラソン大会に苦しんでいたが、今は走ることを強制されない環境にいて自由だとか。本当に本気で、何か部活動的なものに打ち込みたいと思ったときは、新しく何らかを始めればいいだけだ。
そしてやはり私は、過去よりも今をより良いものにできると信じたいのだ。
これからも「あの頃に戻りたい」というぼやきは封印していく所存である。
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