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男はなぜ夜の銀座へ行くのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:はぎ(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
「いらっしゃいませ」
開いたドアの先に見えたのは、夜の世界だった。

ブランドショップや百貨店が建ち並ぶ街・銀座。
昼間はセレブなマダムやお嬢様方がショッピングやランチに勤しんでいる。
ところが夜になると一変、ビジネスマンが増えてく。
そして皆ビルの中へ消えて行くのだ。

夜の銀座はどんなところなのだろう。
テレビでよく見るのは、着物を着た美しいママと身体のラインを強調したドレス姿のホステスさんがお客の男性と一緒に高いお酒を飲むシーンだ。
女である私はこれのどこが楽しいのか理解できなかった。
こんなところに高いお金を払う位なら、気心の知れた友人とおいしい食事をしながら思う存分話した方がよっぽど楽しく、ストレスを発散できると思う。
男はきっと「あわよくば精神」で通っているのだろう。ほんの小さなチャンスを夢見て足しげく通っているに違いない。

私の上司もそのうちの一人だった。
会食だなんだと理由をつけては夜の銀座へ繰り出す。
領収書の処理を任されるこちらとしては「また行ってるのか。たまには早く帰ればいいのに……」とあきれるばかり。
何が楽しくて男は銀座に行くんだか……。
そんなことを漠然と考えていたある日、取引先との会食に同席した帰り道に上司が言った。
「まだ(帰るには)早いから、行ってみるか?」
タクシーに乗り込みたどり着いた先は「あわよくば」の街・銀座であった。

お店のドアを開けると、そこはまさに非日常の世界だった。
ゆったりとしたソファー、いたるところにおいてある高そうなお酒、華やかな女性たち。
私が行ったところは銀座の中でも比較的カジュアルなお店だったらしく、イメージしていた着物の方や身体のラインが見てすぐ分かる服装の方は少なかったが、お店にいたホステスさん達は皆美しかった。顔やスタイルの良さもあるが、それ以上に笑顔がすてきだった。
女性の私に気を使ってか、やたらと褒めてくれるホステスさん達。
よく男性は「すごい」とか「さすが」とか褒めると良いみたいなことを聞くが、そんなものに騙される人はばかだと思っていた。
ところが実際に自分がその立場になると不思議なことに悪い気はしない。
自分よりも明らかに美しい方たちに言われるのは気が引けるが、それでもきらきらした笑顔でそう言われるとだんだん良い気分になり、心も開いていく。
「こういうところって皆何話してるんだろうと思っていたんです」と日頃の疑問を伝えると
「意外と普通でしょう?」と、ママ。
確かに普通だ。特別なことを話しているわけではない。ましてや口説き文句でもない。
あわよくばで通っていると思っていた上司も、さっきからどーでもいいことしか言っていない。
そしてお店の皆さんはそれを笑顔で、時々相打ちながら聞いている。そして答えてくれる。ただそれだけだ。それだけなのに上司はとてもうれしそう。
上司だけじゃない、まわりのおじ様もみんなうれしそうに話している。
たぶん私も……。
自分のこと見てくれて、ちゃんと応えてもらえるってこんなに心地よいことだったのか。
初めて上司の気持ちがわかった気がした。
夜の世界イコール男が女を口説く場所ではなかったらしい。
ここは大人の男の癒しの場所なのだ。
ここにあるお酒を家で飲むのなら、こんなに高くはつかない。
ビールにいたってはどこの家にもありそうなものだ。
それでもわざわざ高いお金を払ってまでここで飲みたいと思うのは、ここで飲むことで、話すことで癒されるからだろう。

それは私が温泉に行くことと同じことなのかもしれない。
ただ入るだけなら家のお風呂に入ればいい。けれどもわざわざ温泉に行くには理由がある。
大きな湯船、外で湯につかる解放感。
非日常の世界が、日常のなにげない行為を何倍も何十倍も楽しませてくれるのだ。
高いお金を支払っていることを感じさせないどころか、また行きたいとさえ思わせる。
夜の世界も一緒だろう。
みんな高いお金を支払っていることを忘れて、何度も通う。
経費だから気にならないのかもしれないが、経費だろうが給料だろうが支払う金額に変わりはない。
そこにはそれ相応の価値がある。
だから男は夜の銀座に行くのだ。

世の男性は皆、あわよくばで銀座に通っていると誤解していたことを今となっては申し訳なく思う。
しかながら中には癒し以上のものを求める男性もいるだろう。
けれどもそこは非日常だということをお忘れなく、とお伝えしたい。

 

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2017-09-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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