メディアグランプリ

鞍馬山に登って、自分を振り返った


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:一宮ルミ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

「なんで登り始めちゃったのだろう?」

夏休みを取って、京都へ来た。京都中心部の8月の暑さと人混みから逃れようと、私と友人の二人は鞍馬山にいた。

出町柳から叡山電鉄で鞍馬へ。
何も知らず、登り始めた鞍馬山。山を登ることに多少の覚悟はしてきたが、思った以上に辛い。
日頃、車通勤の生活と、事務の仕事。歩く必要のない生活だ。当然、日常的に運動不足。
その上、私は、「運動したら負け」だというほどに、運動が嫌いだ。ましてや「山登り」など私の辞書にはない。

鞍馬寺までの道のりは、上り階段と坂道の連続だった。
最初こそ、おしゃべりしながら、元気に機嫌よく登っていたけれど、30分もしないうちに、二人ともハアハアと息切れし、足がガクガクして、体が重くてたまらない。それでも、友人は、四国霊場八十八ヶ所を歩いたことがあるそうで、私に比べればずっと楽に登っているようだった。

「さすが牛若丸が修行した山!」
と、感動するが、一方で、
「私たちには苦行だよ、苦行」
愚痴も飛び出す。

それでも、登り始めたものを途中でリタイアするのは悔しい。
私たちは一歩一歩、歩みを進めた。
階段を一段ずつ、踏みしめるように登る。

登山慣れした様子の年配の夫婦が、私たちを颯爽と追い越していく。
一緒に登り始めた街中でデートしているようなラフなファッションのカップルも、ずっと先まで行ってしまった。

自分の体力の無さにショックを受け、運動不足を恨んだ。

それでも、友人に励まされながら階段を上り、坂道を進む。
いつしか、おしゃべりする元気もなくなって、辺りの木々の何処かにいる蝉たちの声しか聞こえなくなった。

苦しい。しんどい。やめとけばよかっただろうか。あとどれくらいあるの?

そうして、2時間くらい登っただろうか。とうとう目的地の鞍馬寺金堂に到着した。

一息ついて、辺りをじっくり見回す。こんな高いところまで、自分の足で歩いて登って来たんだなあと、しみじみ思う。見下ろしても山しか見えない、上を見上げても空しか見えない。

登りきった自分がちょっと誇らしかった。
休みを取って、鞍馬山まで来てよかった。

新しい職場は、戦場のようなところだった。
職場の空気は、常に臨戦態勢。そんな状況についていけない自分への劣等感、この先への不安、逃げ出したい気持ちとの葛藤で、ヘトヘトになった。
今日できなかったことを数え、明日やらなければならない面倒なことを思い、ため息をつく毎日。
それでも、一日、また一日となんとか終えていく。気がつけば数ヶ月が過ぎていた。

職場の現状はあまり変わっていないけれど、気がつけば、曲がりなりにも、なんとかやっていけている。
相変わらず、失敗することばかりだけれど、自分はこんなもんだといい意味で諦めがつくようになった。

山の麓から頂上を見れば、遠く、高く、こんなの登れるはずがないと思うけれど、一歩、また一歩と、足を進めて登っていけば、いつしか頂上にたどり着く。

そんな山登りのように、初めてする仕事のゴールは遠く、高く、
「本当にこれが自分にできるのだろうか」
と、不安になるけれど、今やらなければならないことを一つずつ終えて行けば、いつの間にか前に進んでいたことに気づく。

途中、私たちは何度も休憩した。修行の山とはいえ、今は観光地。道の途中にはちゃんと休憩用のベンチがあって、「○○まであと○分」といった表示もされている。
私たちは、何度もベンチに座り、水を飲み、息を整えて、さあ頑張ろうと声を掛け合った。
「○○まであと○分」の表示に、励まされた。
休憩所では、カップのかき氷を買って食べた。コンビニにも売っているようなよくあるやつだ。
でも、かき氷は冷たくて、甘くて、暑さの中登り続けて、疲労困ぱいの私たちを心も体もホッとさせてくれた。カップのかき氷がこんなにありがたく、美味しかったことはなかった。お店のおばさんにも励まされ、頑張る元気をもらった。

仕事が辛い時、「これができなければ、もう自分の居場所はここにはない」と絶望的な気持ちになった。「自分がいることでみんなに迷惑をかけているのではないか」という思い込みに囚われた。追い詰められた気持ちのせいで、周りが見えなくなっていた。

そんな時、逃げるように仕事から離れて、仕事とは関係ないことに挑戦してみたり、美味しいものを食べに行ったり、友達に愚痴を聞いてもらった。
そうすると、自分が満たされ、周りの優しさに気づき、焦りや不安も落ち着いて、また仕事に戻る気力が戻って来た。
それは山登りの休憩と同じだ。

泣き言を言いながらも、毎日を一生懸命、自分なりのペースで進んできていた。仕事を離れることは、逃げているだけだと思っていたけど、それもまた仕事へ戻るための必要な休憩だった。
鞍馬山を登ることで、いつの間にか、この数ヶ月を振り返っていた。

これからも、新しい問題にぶつかるだろう。失敗することも、落ち込むこともあるだろう。それでも、一歩一歩、休みながら、一生懸命に進んで行こうと、鞍馬の神様仏様に誓う。

 

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2017-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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