メディアグランプリ

恋の近視と遠視


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川由里絵(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

あるところに、恋をすると近視がひどくなる女の子がおりました。

女の子は恋を自覚した次の朝、急に色んな事が見えてきて驚きます。 例えばパソコンでこんな文章を読んでいる時も、何気なく意識が画面から離れてマウス持ってる手に目を移したりする……。 ついでにぼんやり気になる人の顔が頭に浮かんで……。 次の瞬間、目はぐっと現実のマウスを持つ指にクローズアップする。 「な、なにこれ! 人差し指の第一関節付近にチョットだけ毛が生えてるじゃん! 恥っ!」 1箇所気がつくと、今まで意識してなかったあらゆる毛が気になり始めて、女の子はコロンブスのごとく新大陸を次々発見してその対応に追われるのでした。

 

終いには「もしかしたらだけど、手触りも大事かもしれない……」と妄想を働かせ始めます。その頃にはカレーパンマンの特徴的な顔を再現したような、喜びと不安入り混じるクネクネした形の口になり、誰にも見られてはいけない顔になっていることに気がついてはいません。

 

そんなタイミングでドラックストアに行くと、今まで知らなかった魔法のアイテムが目に飛び込んできます。

世にある女の子のためのお悩み解決グッズを発見する事によって、今まで悩んでなかった悩みまで発見し、グーグルの検索ワードは男子禁制の世界で埋め尽くされます。

ミスユニバースでも目指すのかと思うくらい、多角的に全方向で自意識が高まって、

同時に自分の欠点で自己肯定感が地に落ちるのも女の子の特徴でした。

 

そしていざデートとなるとどうしても服が欲しくなります。

服を買えば、靴がカバンが、髪型がまつエクが……。

なんだか今あるものでは全てが物足りなくて、新しい自分になりたくなります。

お金はいくらあっても足りません。

ただ、磨かれるのが外見だけではないのは救いです。

素敵な人に釣り合いたいと思う女の子の気持ちは、仕事にも熱を入れ始めるのです。

彼から見た彼女が、仕事も楽しそうに。いや、もっと欲をかけば、イカした仕事してる人だって思われたいという気持ちから、企画の発案だって、会議で発言だって、なんでもできる気分になります。

 

何の念のためなのか、部屋も綺麗になります。

どこで誰に見られてるかわからないという意識が働き、

いつも以上に人に親切になります。

太りたくないという気持ちは食生活も変え、

野菜を取り入れ糖質を抑えたものを欲するようになります。

 

〝彼の目が気になる〟という行為が、極端な近眼を引き起こし、その症状によって女の子は「恋する乙女」へと変身させるのです。

 

しかし恋の話なのに、この話の主人公である「恋する乙女」の人生にはなかなか「彼」というキャストが出てきません。

残念なことに、ミスユニバースにエントリーしそうな勢いで「恋する乙女」に大変身したところで、恋が成就するとは限らないのです。

 

恋をすると近視になる女の子は、

彼の事を思うと遠視になります。

好きになってデートのチャンスが来たり、相手が前より近づいてきた途端、なんだかよく見えなくなってしまうというのです。

好かれようと思って、らしくない似合わない服を着てしまったり。

逆に背伸びをやめようと誓った結果、極端に普段着な服を選んでしまったり。

自分の話をしすぎてしまったり、聞き役に徹しすぎて間が持たなかったり。

帰り道は毎回1人大反省会をしてしまいます。

 

近づくと見えないくせに、遠くに居る彼のことはよく見えます。

彼の噂は好きになった途端になぜか耳に届きやすくなりますし、

もし同じ空間に居れば、遠くでもすぐに見つけられるようになります。

知りたくないと思ってもSNSの更新のお知らせは無視できず、写真やコメント欄に登場する他の女の子についヤキモキした気持ちが生まれます。

 

 

毎回乱視状態で片想道を駆け抜けた女の子は、

恋が実らずに終わった日、

自分の浮かれた日々が心底恥ずかしくります。

自分らしくない行動や言動を思い出しては身悶えるし、

オチを思い出せば穴を掘って3日間くらい入っていたい衝動に駆られてしまいます。

 

 

急ごしらえの張りぼては剥がれ、

心がしぼんでしまった女の子には新しい服がなじまみません。

登場回数が無意識に減ったころには、

何もなかったかのように日々振る舞うことで精いっぱいです。

「恋」は自分には向いてないと悲観します。

いつも通り普通に景色が見える状態が、とても心地よく思えるからです。

 

 

恋をしたときに、眼鏡かコンタクトレンズがあれば良いのにと思います。

それを得る方法はもしかしたら……。

 

女の子は10年前の自分と今の自分を比べると、少し容姿に自信が持てるようになっていました。

恋をすると今でも普段より何倍も美容に意識が向うものの、知識と基礎体力は徐々に増え、慌てふためき度は減ったようです。

仕事もスキルアップして、見えている視界はずっと広がりました。

沢山の人に出会い、幸せの形も人それぞれだということも知っています。

もしかしたら、恋だけでない様々な女の子の経験が、徐々にレンズになり自然と目に膜となって身についているのではないでしょうか。

 

この話はまだ途中なので、最終的な結末はだれも知りません。

でも女の子は信じています。

経験の結晶から生まれたレンズは日々純度を高め、

ハッピーエンドに繋がる使う出番を今か今かと待っているのだと。

 

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/40081

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2017-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事