心の中のクリスマス用靴下
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山田あゆみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
大好きなライターの方が、突然お亡くなりになった。その事実を知った時のショックは、ものすごかった。
もう二度と彼女の新しい文章を読むことはできない、という事実がたまらなく悲しくて、でも同時に、全く信じられなくて、頭の中を嘘であって欲しいという祈りに似た気持ちが駆け抜けた。こんなにも才能にあふれた人が若くして亡くなってしまった事に対しての何物へも向けられない怒りがふつふつと湧いてくる。悲しみと怒りと、どこかで信じられないという気持ちがぐるぐると心の中に渦巻いていた。私は動揺していた。会ったこともない人の死に触れた時に、これほどまでに心を揺さぶられ、これほどまでに大きな喪失感を感じたことはなくて、その事にもまた驚かされた。
彼女の文章は、例えば、何故だか理由もなく不安になって眠れない真夜中に、心を温めてくれるスープのようだった。とても繊細で、思慮深くて、優しい言葉を書く人だった。
彼女の書くものは、時に心をちくりと静かに刺した。それは、私が普段心の奥底にしまいこんでいる触れたくない暗い感情や、利己的な思いの存在を、暴き出した。でもその暴き出し方は、やっぱり優しくて、暗い感情も思いもそのまま受け止めていいのだよ、と丸ごと肯定されているような気がして、いつも最後には、ほっとした。
でも、もう二度と、新作は読めない。彼女の人生は終わってしまった。何もかもが終わってしまった。その事実は、時を経るごとに現実味を増して、渦巻いていた感情は次第に、ただただ淡々とした悲しみに変わっていった。終わってしまったことがとにかく悲しかった。終わってしまった。これから先、彼女の人生と私の人生は交わることがない。彼女が生きていさえすれば、私たちはライターと読者という関係をずっと続けていくことが出来たはずだった。でも、その関係は終わってしまったのだ。
別れの何が辛いかというと、今まであって、これから先もきっとあるはずと思っていた関係性が消えてしまうことだと思う。自分にこれほどまでの大きな影響を与えれくれた人が急にいなくなってしまう。それは、何と心細くて、辛いことだろう。
そう、私は会ったこともない彼女の文章に、本当に大きな影響を受けていた。その優しい文章に何度も励まされた。将来に悩んだ時に、心が傷ついた時に、彼女の言葉たちは静かに、だけど確実に私の背中を押し、心を優しく抱きしめた。大丈夫だよ、と言ってもらっているような気がした。私は彼女から沢山の勇気と希望と安心感をもらったのだ。そしてそんな「もらいものたち」は確実に私の心の中に残り続けている。私の中にしっかり根付き、私を構成する一部になっている。そうだ、この関係は終わってしまったけれど、全てが終わったわけではないのだ、と悟った時、なんだか少し悲しみが和らいだ。
別れは、終わりを意味するけれど、でも確実に残るものがきっとある。多大な影響を与えるほどそばにいてくれた人との関係は、崩れてしまっても、なくなってしまっても、その人が与えてくれたもの達と別れることは出来ない。その人がいてくれたから、今の自分があるのだから。ある意味、私たちは、知らず知らずのうちに、出会ってきた人から色々なものを、贈り物として受け取りながら生きているのかもしれない。それは、その人と関わったからこそ得られた感情だったり、気持ちだったり、時間だったりする。
私たちは、一年中、心の中にクリスマス用の靴下を吊り下げているようなものだ。その中にはどんどんと、出会った人からのプレゼントが入れられていく。大きく心を揺さぶられた時には、もらったプレゼントも大きいに違いない。綺麗にラッピングされた美しい贈り物たちは色鮮やかにきらめいている。心弾むような嬉しい気持ち。心の安らぎ。一歩踏み出す勇気。受け入れられたという安心感。思いがけない贈り物をもらうことも多々あるだろう。これまで、存在さえ知ることもなかったような感情。楽しみがそこに待っているという、わくわく感。人を思いやることの喜び。甘い恋心。心の底からふっと湧きあがる暖かい愛情。ここで時が止まってくれたらと、願わずにはいられないほどの幸福な時間。もしかしたら、これは必要ないのになぁ、なんてぼやきながら受け取った贈り物が思いの外、役に立つ事もあるかもしれない。それはお叱りの言葉がもたらしさ不甲斐なさかもしれないし、初めて知った嫉妬という感情かもしれない。受け取った時には意味を解釈できなかったものが、歳を重ねていくことで、重要なものであったことに気づくこともきっとあるだろう。生きていけば生きていくほど、贈り物の数は、増えていく。私たちは、そんな色とりどりの贈り物を心に抱きながら、また新しい人と出会う。時に、そのプレゼントたちは、思い出として、眺めてみることも出来るし、人生の大切なレッスンとして、折を見ては取り出すこともできる。でも、もらったことさえ忘れてしまって、心の靴下の奥の方にしまいこんでしまっている贈り物もあるだろう。一つ言えるのは、どのプレゼントにしろそれをもらったことで、そしてそれを心のどこかに持ち続けていることで、それに影響を受け続けるということだ。プレゼントは、人をより人間らしく、感情豊かに、魅力的にする。私たちは、そんなプレゼントを贈られたり、贈ったりしながら人と関わり合い続けるのだ。人生が終わる時、その贈り物の詰まった靴下をひっくり返して眺めることを今から心待ちにしておこう。どれだけの種類の気持ちがそこには入っているだろう。どんなに美しく輝いていることだろう。
そう、だから大丈夫だ。沢山のプレゼントを心に抱き、前へ進もう。別れは終わりではない。共に生きていこう。
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