大好きなあいつがもういない
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記事:多恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
仕事帰りいつものコンビニで私はあいつを探していた。
大好きなあいつだ。
仕事終わりのこの疲れを癒してくれるあいつは、いつも安定の位置を陣取りながら私の帰りを待っているように思えた。私のことをじっと待っている。健気な奴なのである。
この仕事を始めてから、肉体労働プラス感情労働(人を相手にする職業)でいつも疲労していて甘く包み込んでくれる存在は私の癒しとなった。
甘くされるのに人は弱い。本当に弱い。
前から嫌いではなかったが、なくてはならない存在に最近急上昇していた。
そんなあいつなのだが……。最近、見かけなくなった。いつも定位置にいるあいつがいない。こっそりと別のところから私を見ているのかと思ったがいくら探してもいない。
来る日も来る日も私はあいつを探していた。
どこへ行ってしまったんだろう。もう、この世には存在しないのかもしれない。
悲しい気持ちになった。
あいつに似た奴を見かけたので、嬉しくなったがどうしてもあいつの代わりにはならなかった。
駅前の私のコンビニ。そこにいつもあいつはいた。他のコンビニに行く気にはなれなかった。
「駅前のコンビニめ、あいつを出せ」
小心者の私は、呟いた。
店内に流れるコンビニのキャッチコピーは「いい気分」と歌っているくせに全く「いい気分」にはなれなかった。
そんなことを思ったところで願いが叶うわけでもなく、一向に出てくる気配はなかった。来る日も来る日も通いつめるが、あいつがいたところには別の奴がいる。前に誰がいたのかさえ知らん顔だった。
こんなに通い詰めているのに一向に会えない 。自分でも健気だと思うくらい毎日通うようになっていた。
もうあいつのことを忘れようとしていた頃、会社の人が旅行であいつに似たやつに出会ったらしい。そんなところに……。「やっぱり好きだよね」とその話で盛り上がり、私はあいつがコンビニにいなくて悲しいという話をした。
そしたら、「いるで?」というではないか。
こんなに探して「いない」のに彼はいるというではないか。「いない」のが不思議だという顔で言うのだ。
どこに!!
私の駅前のコンビニにはいないんだもん。出せ!
目撃情報を元に別のコンビニに会いにいった。
そしたら、いるではないか。私がこんなにも恋焦がれていることさえも知らないよという顔で……。
ちょっと、憎らしくもあったが久しぶりに会えた安堵感、手にとった感触は以前のまま変わっていなかった。何も変わっていないのだ。
あぁ、もうこの世にいないのでは……と心配した。
もう、会えなくてもこの世にいてくれるだけでいい。そう思った。
なぜか、私の好きになる奴はことごとく私の前から消えるというトラウマがある。忽然と姿を消すやり方で私の大好きなものは消えていく。
過去に囚われすぎていると言われればそうかもしれないが、できれば、毎日大好きなものに囲まれて暮らしたい。
それはささやかな願いではないのか? 叶わない願いなのか?
小心者の私は、ビクビクしながら生活している。もう、去られて傷つきたくない。
愛したものが自分から去っていく悲しみほど耐えがたいものはない。
愛し、愛されて生きたい。そう、願い全力で愛して生きている。
そう、私の芋けんぴ熱は止まらない。
駅前のコンビニでは消えてしまったが、車を走らせどうしても食べたくなった時には買いに行くのである。やめられない止まらない勢いで一袋を独り占めしてしまうのである。
「いい気分」にさせてくれるコンビニの芋けんぴが最高で、別に回し者でもなんでもないのだが気に入っている。コストといい量といい味といい最高なのである。
世の中には芋けんぴ専門店なんてものもあり、ごま、塩、厚切り、細切りなどなど様々な味や形状のものが売っている。色々、試しに買ってみたりしたが、食べなれているいつものやつじゃないと落ち着かないのである。そわそわするのである。落ち着かないのである。
私の好みは駅前のコンビニの芋けんぴなのである。それ一択しかない了見の狭い女かもしれないが、それは一途といってほしい。愛する人はただ一人というわけだs。
でも、新しい味を求め買ってしまう私がいる。これは、浮気なのかもしれない。愛してることを再確認するために別の人とっていう浮気だ。別の人にはとても失礼なのだが、人間はその人の良さは比較対象がないとわからないと思っているから浮気するのかもしれない。やっぱり、この人が最高と思うために浮気するということはあるかもしれない。
それは、絶対に別の人には知られちゃいけない秘密だけど、もっと愛することに必要ならばそれもいいかと思ってしまうのだ。
本当に悪い女である。ごめん。そう心の中で謝っておこう。
そんな(そんな)わけで今日もまた、他の芋けんぴを食べながら「あぁ、あいつが一番」と思い口にほおばるのである。
そして、いそいそとお気に入りの芋けんぴを探しにいくのである。
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