人の「スペック」って何だ?
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記事:水月むつみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
最近、よく思う。
「人の『スペック』って何?」と。
人に対して、「スペック」という言葉を使う人を最近、よく見かけるのだけれど、私は、その言葉を口に出すのもためらわれるほど、好きじゃない。
それって、果たして、人に対して使って良い言葉なんだろうか?
そんなことを考えていると、ふと、私の親友のことが頭に浮かぶ。
私には、ものすごく年上の親友がいる。
たぶん、私の1まわりくらい年上だと思う。
「たぶん」と言ったのは、私が彼女の年齢を正確には知らないからだ。
知り合ったのは今から10年くらい前で、私は彼女のことを、遠くから「かっこいいお姉さんだなあ」と眺めていた。
長い黒髪で、峰不二子ちゃん並みにスタイルが良く、赤と黒の縁のメガネ、アメリカ帰りな感じのハキハキした喋り方、服は黒。そして、ミニスカート。私とはまるで正反対。
そんな憧れのお姉さんと仲良くなったのは、ここ5年くらいの話。
どうやって仲良くなったのか、記憶を辿ってみるけれど、はっきりとは覚えていない。たぶん、私が失恋した直後、偶然、帰り道が一緒になって、ご飯を食べながら相談した、というのが始まりな気がする。
そうして、彼女といろいろ話すようになって、かれこれ5年くらいは経つわけだけれど、私は彼女の年齢も、どこの大学に行ったのかも、アメリカのどういう会社で働いていたのかも、はっきりとは知らない。
話の中で、「私が⚪⚪︎︎歳の頃は」という台詞が出てくるので、「あ〜、その歳はもう過去のことなのね〜」と分かるくらいだ。
彼女がマスメディアや政治のことをアメリカで勉強していたのは知っているけれど、どこの大学に行っていたのかも、私は知らない。
私は彼女が何歳でもよかったし、「誕生日は、もはや祝われたくない」とか言っているので、何も聞かない。
人に誕生日を聞かれた時には、「言わないことにしているんです」と答えることにしているという、風変わりな人なのである。
というわけで、私は、彼女が何歳なのかも、どこの大学出身なのかも知らないのだけれど、でも、彼女がどういう思いで生きてきて、どういう経験をしてきて、何を考えているのか、どういう恋人と付き合ってきたのか、というようなことは、山ほど知っている。
ハスキーな声と、ハキハキした喋り方のせいで、オヤジみたいに見られると彼女はよく自分で言っているけれど、でも、恋人の前では猫みたいになることも、甘えるのが下手なことも、小さな女の子みたいにドギマギしたりすることも、私は知ってる。
結婚したけど、自分の気持ちに嘘がつけなくて、離婚したことも、いつも馬鹿みたいにガハハと笑っているけれど、実はものすごく真面目で頑張り屋さんなところも、毎晩お酒を飲んでいそうなのに、朝4時には起きて、夜10時には寝てしまうところも、彼女のそういうところを全部ひっくるめて、私は尊敬しているし、可愛いなあと思う。
そういう私が知っている彼女の部分は、たぶん「スペック」と言われるようなものではなくて、彼女の「スペック」については、私は何も知らないも同然だと思う。
人の「スペック」と言った時には、それは食品の裏ラベルに書いてある「原材料」みたいなもので、その人の「学歴」とか「年収」とか「年齢」とか、表に見えるものを指しているのだと思うのだけれど、私にとっては、それらは「人の靴のサイズ」みたいなものでしかない。
人の靴のサイズがいくつかなんて、たいてい知らないし、その人の靴のサイズが23cmだから好きになるとか、25cmだから嫌いになるとか、そんなことは普通、ありえない。
「靴のサイズ、23cmなんです」と言われても、「へ〜、そうなんですね」だけで終わる。
「東京大学出身なんです」
「へ〜、そんなんですね」
「年収2000万円なんです」
「へ〜、そうなんですね」
「高卒なんです」
「へ〜、そうなんですね」
という風にしか、私はならない。
高い学歴や年収を達成したことは確かに、すごいことではあるのかもしれない。
でも、そういう目に見えるものは、私にとって、ほとんど魅力にならない。
そういうものは「関係ない」というのとも違う。
ただ、そういう部分があるのですね、と認めるだけだ。
靴のサイズ、23cmなんですね。それもあなたの一部なんですね。ただ、それだけ。
そして、そういう目に見えるものは、私の好き嫌いにはほとんど関係がないというだけ。
その親友の彼女と私は、もし隣に並んだならば、およそ親友とは思われないであろうほどに、見た目が正反対なのだけれど、目に見えないところでは、共通しているところが割とある。
家族関係が複雑だったり、自分の気持ちに真っ直ぐだったり、不器用だったり、音楽が好きだったり。
スペックの点で言えば、私と彼女は誕生日が2日違いという点で似ているのだけれど、彼女は、いつまでたっても私の誕生日を覚えない。
彼女の誕生日の方が先だから、私はおめでとうのメッセージをするのだけれど、彼女はたいてい、その次の日に、私に「誕生日おめでとう」のメッセージを送ってきて、「私の誕生日はまだ。明日だよ〜」という事態になる。彼女にとって、それくらい誕生日というのは、どーでもよいことなのだろうと思う。
そんな彼女だけれど、私が彼女と一緒にいる時は、常に、300%くらい楽しいから、それだけでいいのだ。
彼女は、私に、あり余るほどの何かを与えてくれているので、私の誕生日を覚えていないことくらい、どーでもよい。
私が今にも死にそうだった時、励ましてくれたのは彼女だったし、いつも食事の時には、デザートプレートにメッセージを入れてくれるし、何より、心の底から優しい。彼女と話していると、一体何時間話したのか、時間が経つのを忘れてしまう。
私は彼女の生き方に惚れている。たぶん、それだけだ。
そこには、スペックの入り込む余地はない。
友達でいるために、それ以外に必要なものなんて、何もない。
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