メディアグランプリ

かなしい旅行


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:はぎ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
ポーン、ポーン、ポーン、ポーン
離陸サインの音と共に飛行機が滑走路へと進路を曲げる。
轟音を上げながら速度が速まり、身体中に圧力を感じた瞬間、窓の外にはアールを描いた広大な海岸線が広がった。
あんなに大きかった山はどんどん小さくなり、代わりに見上げていた青空がすぐ隣に見えた。
 
「もう終わりなんだ……」
なんだか妙にかなしくなった。
 
この地に着いたのは4日前。
日本を離れてから約7時間。少し肌寒い機内から降りると、早朝だというのにもう暑い。
暑いけれども、まとわりつくような湿気がなく空気がカラッとしている。
南国に来たのだと実感した。
長袖のカーディガンを脱ぎ、日焼け止めを塗る。
少し遅い夏休みのスタートだ。
 
空港からリムジンに乗り込み街の中心地に到着した。
広い道路にはショッピングセンターやホテル、その間をヤシの木が並んでいる。
都会的なのに自然が融合された雰囲気は東京では味わえない解放感でいっぱいだ。
 
まずは腹ごしらえと向かったのはショッピングセンター内のフードコート。
吹き抜けのフードコートには、おこぼれを期待しながら鳩が徘徊している。
ステーキとガーリックシュリンプのセットを注文した。
普通サイズにもかかわらず、わらじのようなサイズのステーキ。
食べ物ひとつとっても日本とは違うことに、ここは海外なのだと改めて思う。
今回の旅は妹と数十年ぶりの海外旅行。
大したプランを立てたわけではなかった。
名物を食べて、ビーチで本が読みたい、その程度だ。
何かをやりながら次の行動を考えるといったゆるい感じで進めていけばいい。
日々の忙しさから離れたかったんだから。
ステーキをほおばりながら話す。
「次はどうする?」
 
風がとても心地よい。車の中なのに太陽がたっぷり入りこむ。
まさにオープンカー。というかオープンバス。
トロリーバスという、外枠だけでできているようなバスに乗り込み次の目的地へ。
青い空とビーチをバックにバスは走る。
どこまでも、どこまでも……。
 
免税店、大型スーパー、ショッピングモール。
海にプール。
甘いケーキに、ステーキ、シーフード。
旅を進めるうちにここ行きたい、あれ食べたいと気付けばプランでいっぱいになっていた。
そんな状況に身体がついていかなくなった同行者・妹。
3日目の昼、ショッピングモールから戻ってくると
「1時間だけ休みたい……」
といって2時間も3時間もホテルのベットでカーテンを閉めっきりにして寝込んでしまった。
 
せっかくの旅行なのに……。
 
私の心はこんな気持ちに支配されてしまった。
1人で出かけることも考えたが、久しぶりの2人旅ということもあってか行動を共にすることに意義があると思うあまり、部屋の中でひたすら妹の回復を待ち続けた。
やりたいことはまだまだあるのに時間だけが過ぎて行く。
焦りは怒りとなり、体調が悪い妹に優しくなれなかった。
日本にいる友人に妹のせいでこんな旅行になってしまった、とメールを送ってみる。
友人はこの街の人と結婚し、日本とこの街をしょうっちゅう行き来している。
せっかくの旅行なのに気の毒だと同情してもらえると思いきや、思いがけない返事が来た。
 
「色々やりたくなっちゃうだろうけど、この街はのんびりするのが一番のぜいたくだと思うよ。私はベランダで風を感じながらコーヒーでも飲んでボーッとするのが好きなんだ」
 
友人の言葉にハッとした。
忙しさから逃れたくてプランを立てなかった旅なのに、気が付けばあれもこれもやろうと、ここでも忙しくしようとしていた。
のんびりしよう。のんびりさせてあげよう。心からそう思えた。
 
「ビーチ沿いを歩くだけで気持ちいいよ!」という友人の言葉のとおり、最終日である翌日は早朝からビーチ沿いを街の端っこまで歩いた。
砂浜で裸足になってみたり、大きな木に触れてみたり……。
散歩なんて何年ぶりだろう。澄んだ空気がとても気持ち良かった。
端っこは人も少なく、木陰の多いビーチは心地よい温度で、耳障りのよい波の音を聞きながらするうたた寝は最高にぜいたくだった。
 
最高の時間を過ごした街が眼下に広がっていく。
そしてだんだんと遠ざかり、雲で見えなくなっていく。
 
思い返せば今までだってやりたいこと、やっておけばよかったこと、色々あった。
けれども思い通りになんていかないし、同じ時間が永遠に続くことはありえない。
そんななかでどれだけたくさんの経験をし、思い出を作ることができたのかが大事なんだと思う。
小学校なら小学生なりに、中学校なら中学生なりに、当時の自分はそれなりにプランを立てて学生生活に挑んだと思う。
人生の一部を切り取ってみると、その中はやりたかったこと、できたこと、できなかったことで詰まっている。全てが思い出で全てが経験。
そこには必ず終わりがある。
充実していたからこそ終わりがかなしくなる。けれども楽しんだという満足した気持ちは次への意欲につながるはずだ。
 
旅の終わりは卒業式みたいなものだろう。
楽しかったことや後悔、感謝など様々な気持ちを思い返す時間なのだ。
かなしいのも旅が充実していた証ではないだろうか。
だったらこれでいい。
色々あったけれど、たくさんの思い出が詰まった2人旅となったのだから。
 
今はまだかなしいけれど、またいつか2人でどこか行こう。
そして思い出を作りに思い通りにならないプランをたてよう、と青空の中誓った。
 
 
***

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2017-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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