メディアグランプリ

その扉に名前はない。でも確実に開く扉がある


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山本裕子(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
2017年9月23日
雨の降る金曜日の夜だった。
もう1年以上もつかってサビもいってるがお気に入りの
ビニール傘を片手に、斜めに降る雨の中、池袋へと降りたった。

この日を迎えるまでに30日の待ち時間を待ったのだ。
30日も待っていながら、しかし実はよくわかってない。

わかっているのは、写真を撮影すること。
参加者は女性たちだけとのこと。
撮影はプロだということ。
被写体は自分だということ。
参加者のリピート率が高いこと。
そして、この日、この場所、この時間に集合すること。
自分の手持ちの情報はいたってシンプル。

しかもこのご時世、よくわからないことがあればとりあえず安易に
Google先生に聞いてみるのだけれど
告知ページのみ。びっくりするくらい何の情報もない。
その、なんの情報も漏れてこない。
得られない秘密度の高さこそ
秘密結社的な秘めごと感が否応なく上がって行く。

私は家族写真を写真館で撮ってもらえるほど裕福ではなかった家で育った。
自分が人生で写真を撮ってもらうことなど、体験のないこと。
ましてや、成人式の日さえも、記念撮影はなかった。
お見合い経験もないし、結婚経験もない私に
プロの写真家に写真館で撮影してもらう機会などなかった。

自分にとっては
この特別とも思える経験のために
私が費やした30日は紆余曲折だったと思う。

まだ正式な申し込みが出来る前、
なんと私は人生で始めて、
警察と
救急車にお世話になり
人生初の入院というものを経験することに。
こんなに一度に新しい体験をする機会に恵まれてしまった。

その前から調子が悪とは思っていたもの口癖になってしまった
「大丈夫」
を繰り返し、気づけば家のベットから頭さえも起こせないほど
身動きの取れない状況に陥った。
一人暮らし。
携帯さえも手に届かない。
真夏の気温で部屋の温度は異常。
水さえも飲めず、トイレにも行けず。
気を失っては、意識を取り戻す度に自分の情けない状況に泣けてくる。

助けられたのはその夜あまりの無音ぶりに
会社の上司がやってきて。
おまわりさんがやってきて。
刑事さんがやってきて。
救急隊がやってきて。
そしてそのまま病院へ運ばれ、入院した。

結局すぐに退院させてもらったが
仕事をセーブしているつもりでも生来
「大丈夫」
が口癖な自分はまたもすぐに体を動かせなくなり
心も体もボロボロ状態。

そこにタイミングよく、興味があることをつたえていた写真撮影のお誘いが。

即決で参加する。と伝えた。
だけど自分の状況を振り返れば
本当にボロボロで。
でも私の中の女が目覚めた瞬間でもある。

被写体は自分なのだ。

目に入ってくるものから変えるべく、まずはまともに
化粧水をつけるところからスタート。
化粧水をつけずに寝ることが日常化していた自分が
丁寧に肌に化粧水をつけていくと、心も肌も落ち着いていく。
そして正直な肌は血色を戻して行く。その変化が楽しい。
自分の顔を綺麗にワイングラスを磨くように丁寧に磨き上げて行く
その毎日が自分と向き合う時間でもあり、自分を取り戻す時間になっていく。

ほったらかしておいた、ボディーも
丁寧に洗って、クリームを重ねると
ああ、自分肌が無理をしていたんだと、気づいてしまうほどに
だんだんと優しく柔らかく輝いてくる。

何ヶ月か放置していた美容室も予約。
でも予約していたその日に事件は発生。

なんと休日設定をしてなかったためか
お客様からの注文が……
会社には誰もいない。無視もできる。が
これをこのままにした場合の会社に与える損失と失う信頼を
考えると動かずにはいられない。
美容院に連絡して時間をずらしてもらう相談すると
いつもは21時までの営業なのにその日だけは早締めで無理だという。
何と自分はついてないのだろうか。と思いつつも
仕事を最優先させる決断を。

結局は人生初の平日に美容室に予約を入れるという変化球。
のはずが
社長から
「俺さぁ、あした美容室行きたいんだけど」
私は明後日予約入れてますよ! っていうか、社長、明日は
そこ美容室休みですわ。
担当美容師が同じな私たち。
その次の一言は
「予約おれと変わってよ」
嫌と言えない状況。
「……」
だって、社長はその翌日アメリカ出張なのだ。

美容室の予約2回もリスケなんて
と悲観に暮れてるたら、二人同時でも大丈夫! と陽気な回答が担当美容師から。
本当にありがとう。

やっと行けた美容院では結局、変化に気づくのは自分だけ。というくらい
大したイメチェンではないのだけれど
きちんと整えられた、自分の髪に満足し、気分は高鳴る。
それが指定された日時の2日前。

だれかに、最近綺麗だねと言われるわけじゃない。
だけどあんなにボロボロ状態だった自分が
少しづつ輝きはじめて、変わって行く様が心地よく
その過程を楽しめる自分にすごく満足した。

当日は
フルメイクセットを手に持ち
お気に入りの下着を身につけてから
とても気に入っているワンピースを着て
大好きなアクセサリーをを身につけ
美容ドリンクを一気飲み。

30日まえあんなにボロボロだった自分は
今、輝きを放っている。そう思う。
自分に最後は自信という魔法をかけて。

降り立った池袋。
指定の場所に着いた時、魔法は解けかけた。
なぜなら、そこは雑居ビルなのだ。見るからに古びた人が入ってもいいのだろうか?
女子が集まってくるような場所なのだろうか?
と不安しかよぎってこないダンジョンの入り口だった。

それでも数分迷った挙句、
指定された4階までゆっくり歩みを進める。

たどりついたその場所は真っ白な
美しい空間だった。
間違ってなかった。その安堵感。
綺麗なヒールが並ぶ玄関を見て来てよかったと、すでに思った。
そこから4時間と30分。
魔法のかかった空間は、別世界で
ディズニーランドよりも自分を最高に楽しませてくれた。
自分では無い自分に出会わせてくれた。

あなたにもその扉を開く機会があるのならば
お伝えしたい。

女という花は、いつでも満開に咲くのだということを。

 
 
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2017-09-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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