メディアグランプリ

800円のコース料理:シビれるチャパニーズフードが世界を175°ひっくり返した


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:計良 将吾(ライティング・ゼミ特講)

 
 
先に伝えておくが,僕はいわゆる『ラーメン好き』でも『担々麺好き』でもない。正確に言うと,『好きではあるが,店巡りをしたり,ウンチクを語ったり,写真を撮ってインスタに載せるようなレベルではない』というところだ。あくまで一料理として,他の食べ物と同じ扱いなのである。
 
そんな『えこひいき』しない僕が,よく通った担々麺専門店がある。北海道は札幌にて営業する『175°DENO担々麺』だ。
もう4年ほど前になろうか。僕が札幌に住んでいたときの話なのだが,ある日,何気なくFacebookを覗いていると,ある記事が目に入った。それは友人の投稿だったのだが,あろう事かそれは『普段食レポなど書かない』友人が書いた『食レポ』だったのだ。と言っても,記事は担々麺の写真一枚に『店名『だけという,いたって稚拙なもの。食レポなどと言ってしまうと,食レポ家の一族から末裔まで呪いをかけられてしまいそうなものだ。しかしその稚拙さもといシンプルさが逆に僕の興味をそそり,店名の『175°DENO担々麺』というヒントを頼りに行ってみることにした。
 
お店に向かう途中,正直僕はドキドキしていた。なぜならば,僕は辛いものがあまり得意ではなかったのだ。そしてこの特大インパクトの店名,175°DENO担々麺である。175℃のクソ熱いスープ,もしくはそれを感じさせるほどの辛さなのか……はたまたエアコンの設定が175°なのか……。いやいや,よく見るとこの度は『°』だ。『℃』ではない,安心しよう……。そうこう考えるうちにお店へ到着。札幌の中心街,大通公園から路地を一本,雑居ビルの1階にその担々麺専門店はあった。休日の昼間ということもあり,数人の待ち列が出来ていた。
 
先に食券を買おうと券売機を見ると,メニューに激しい違和感を感じた。基本メニューは『担々麺(汁なし)』と『担々麺(汁あり)』なのだが,それぞれが3つのグレードに分かれているのだ。ここまではよくある話なのだが,問題はそのグレードだ。『痺れない』『痺れる』『すごく痺れる』という,恐怖すら感じる表記。どうせラー油の量だろう。辛いものを避けたい僕は,迷わず『汁有り(痺れない)』を選択。ついでに小ライスも購入し,券を片手に最後尾へ並んだ。
 
回転も早く,サービスもテキパキしているため,意外にも早く席に案内された。小ぢんまりとした店内はキレイで整然としていて,一見担々麺が出てくるようには感じない。座席は14席ほどで,カウンターやテーブルには真っ赤に透き通るラー油が置かれている。
 
席に着き,2枚の食券を渡すや否や,店員がとんでもないことを聞いてきた。
「少しだけ痺れても大丈夫ですか?」
ダメですよ! 僕は辛いものが苦手なんだ。だから恥を忍んでこんな可愛い『痺れない』を選んだんだ。それなのに貴方は……いや待てよ? ここまで言うって事は何かあるんだろうか。思い切って質問に質問で返してみた。
「辛くないですか?」
すると意外な返答が。
「辛くないですよ。辛さはお手元のラー油で調整ください」
なんだって? あの3段階のグレードは,ラー油の量じゃないのか? なんという解放宣言だ。ここまで来たらとことんやってやろう。更に質問を続ける。
「『痺れる』ってのはどう違うんですか?」
「山椒の量が違うんです。正確には山椒の中国版,花椒です。」
なるほど,辛くないのならいい。何故か強気になった僕はあっさりと『痺れ』を承諾した。
 
間もなくして汁有り担々麺が運ばれてきた。ベージュ色のスープに同じくベージュ色の麺,ところどころにラー油のアクセントが映えている。ひき肉と対をなすように水菜が添えられ,その下カシューナッツや小エビが息を潜めている。なんとも言えない美しさが,そこにはあった。
 
先ほどの「辛くない」解放宣言を聞いて安心していたが,やはりラー油の『赤い』ビジュアルは強烈である。まさに2000年前後を一世風靡したビジュアル系のようなインパクトだ。
少しだけ怖気づいた僕だったが,意を決して麺を口に運んだ。もちろん,『えこひいき』しない僕は写真も撮らずにかぶりついた。
 
この一口目の衝撃は今でもはっきりと覚えている。なんと,ラー油が辛くないのだ。正確に言うと,辛味はあるのだが嫌な辛味ではない,というべきか。むしろ,そこに意識がいかないくらいの旨みに支配されてしまうのだ。鶏ガラベースのスープに施された甘い白ごまの風味が口いっぱいに広がっていく。噛めばほどよい弾力でスープを引き立てる麺。そして,これでもかと追いかけてくるトッピングの味,ひき肉の旨味,カシューナッツの甘味,小エビの出汁,シャキシャキとした水菜の食感。紛れもなく洗練された,『シビれる『一杯だ。一口食べただけで,創業者のこれまでの努力が容易に想像できてしまう。
 
気がつくとあっという間に3分の2ほど食べてしまった。この間1~2分だったと記憶している。ここでようやく僕も『痺れ』の本当の意味に気づく。口の中が痺れているのだ。しかも,麻痺のような『無』ではなく,『美味しさ』で『ロック』されるという,嬉しい痺れなのである。なんとシビれる料理だろう。『食レポなど書かない友人』のおかげで出会ってしまったのだ。
 
特筆すべきはまだある。この一杯で,水菜・スープ・小エビ・肉・カシューナッツという菜・汁・魚・肉・菓が全て楽しめてしまうという事だ。もはやこれはコース料理と言って良いのではないか。しかも800円という破格。おそらく有名中華料理店に作らせるとこの値段の倍はするであろうクオリティ。間違いなく本物である。
 
そして僕が更に言いたいことは,この一杯でほぼ全ての味覚を感じられるということ。これまで,辛味・甘味・旨味について言及してきたが,実はもう一つある。花椒には痺れのほかに,酸味も含まれており,これが絶妙なアクセントになっているのだ。つまり,この一杯で,苦味以外の全ての味覚を楽しめる。素材だけでなく,味覚の面からもコース料理なのだ。
 
ここまでの味を引き出すための秘密として,この店は調味料にこだわっているという点がある。ラー油は自家製で,元となる唐辛子と花椒は中国四川省へ社員が買い付けに行っているのだ。更に,社員を四川省へ研修に行かせるという徹底ぶり。もともと担々麺は四川省のファストフードであるが,日本人が日本で作るこの料理はチャパニーズフードなのかもしれない。なお余談だが,店名の175°とは,ラー油を作るときの温度らしい。やっぱり℃じゃないか!
 
そんな担々麺専門店が,2016年10月にニューヨークで開催された『ジャパンフェス』にて,ラーメン部門の優勝をかっさらった。世界中の食べ物が集まるニューヨークの人たちが選ぶという事は,世界が認めたと言っていい。これからも色んな方に是非『世界が認めた最高にシビれる担々麺』を体験して欲しい。
 
 
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2017-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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