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今は自信をもって好きと言える

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記事:中澤一志(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
次は2階の端の部屋だな。
 
ガイドブックに目を凝らして次に見るものを探す。一直線にその場所に向かい、人混みの間から少しの間、鑑賞する。そして、またガイドブックを見て、次の作品へと急ぐ。いつもこんな感じだった。
 
美術館巡り、それは、普段はしないけれども海外旅行に行ったときには、大抵してしまうことの一つだった。特に絵画に興味があったわけではない。それでも見に行く理由は、せっかく海外へ行ったのに誰もが知っている美術館の超有名な作品、パリでいうならば、ルーブル美術館のモナリザやミロのビーナスを見て帰らないなんて、もったいない気がするというだけだった。
 
このような大きな美術館の場合、本当に丁寧に見ようとすれば一週間くらいかかるのではないかと思う。でも、多くの観光客はたいていの場合、それを数時間で見てまわるようなスケジュールを立てるのが普通だと思う。私の場合も同じだった。そうなると、誰がどう考えたってほんの一部の作品しか見てまわることはできない。そういう状況の中で、例えば、パリに行ってそれもルーブル美術館に行く時間をとったのにも関わらず、モナリザを見てこなかったということになってしまえば、誰だって完全に失敗をした気分になる。どう考えても、もったいない。さらに困ったことに、このような有名な作品は別に一か所に集められているわけではなく、色んなところに点在している。そうなると、もはや点と点を線で結ぶように、最短距離で効率的に見て回らないと、時間がないし、そもそも歩き過ぎで疲れてしまう。こう考えると、結局のところ、ガイドブックに従って有名な作品を見てまわることが現実的な方法だと思っていた。
 
確かに、有名な作品を見たという満足感は得られた。しかし、それだけなのだ。モナリザを見てきたという事実、ただその行為に満足しているだけと言ってしまってもいい。だから、その絵を見て感じたこととか、他には何が良かったのかというような記憶がほとんど残らなかった。後で誰かに何が良かったかと聞かれても、うまく説明することができなかった。別にそういうものだと割り切ってしまってもいいのかもしれないが、心の中にどうにかしたいというモヤモヤ感がいつも残った。わからないなりにも、美術館というのをもっと楽しみたいと思っていたのだ。
 
どうすれば、美術館をもっと楽しむことができるのか? いろいろ考えた挙句、私は単純な答えに行きついた。
 
それは、ガイドブックを見ないで鑑賞するということ。
 
こうすれば、初めから知らないんだから、見逃した気分になることはない。これしかない、そう思った。
 
この夏、この方法をとうとう実践する時が来た。場所はニューヨークのメトロポリタン美術館。幸いにして、この美術館では何が有名なのか、私は知らなかった。これならば、あれを見て来なかったと、後で後悔することもない。最高のモデルケースだ。そう思い、思いのまま、美術館を巡ってみた。
 
自由に歩きまわってみた。すると、色々なことが頭に浮かんできた。ある時には、この部屋の作品を一つもらえるとするならばどれにしようかとふと考えてみたり。また、オセアニアコーナーに何気なく入ってしまった時には、トーテムポールのような奇妙な彫刻を熱心に見ている人を見て、あれほど熱心に見ている人は普段は何をする人なのだろうかと身なりから想像してみたり。こんな風に、不思議と様々なことが頭に浮かんだ。美術館とは、想像力を膨らませるところなのかもしれない。新たな発見だった。
 
そして、最大の驚きは、出会いだった。
 
予想もしない出会いがあった。
 
見つけた瞬間、足が止まり、一瞬にして虜になった。
 
何がそこまで自分を惹きつけるのか、いま言葉で説明しようと思ってもうまく説明できない。ただ、目にした瞬間、私には光り輝いて見えた。そして、ずっと見続けてしまった。その絵に完全に魅了されたとしか言いようがない。正に運命の出会いのような瞬間だった。もし、この絵がガイドブックに載っていて、それに促されて観たのならば、こんな気持ちにはならなかったのではないかと思う。これが、美術館巡りの最大の醍醐味なのかもしれないと思った。自分にとって記憶に残る作品に偶然に出会えるということ、これは本当に素敵な瞬間だった。
 
だから、今度誰かにメトロポリタン美術館でどの作品が良かったかと聞かれたら、今では自信を持って言える。
 
クリムトの『メーダ・プリマヴェージの肖像』が最高だったと。
 
 
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2017-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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