パンダがバック転する日
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:猪瀬祥希(ライティング・ゼミ平日コース)
世の中には、不可能を可能にするサービスがあるという。
例えば、180度開脚できるようになるストレッチサービス。
開脚できなくて困った経験がある人はほとんどいないだろうが、健康に良いという理由で人気があるらしい。
他には、バック転教室というのがある。
体操選手が華麗に決める、あのバック転である。
ホームページを覗いてみると、経験のない人でもバック転できるまで講師が指導します、とある。
いずれも開脚やバック転できる夢を叶えたい人には、魅力的なサービスであることは間違いない。
それまで不可能だと思えたことが、できるようになる。
それはとても素晴らしいことだが、身も蓋もない言い方をしてしまえば、どう頑張っても超えられない限界はある。
特に自分で限界を決めてしまっている場合は、他人のサポート無しにその限界を超えることは難しい。
2週間前に、天狼院書店主催のライティング・ゼミが始まった。
私はこれまで、書くことが好きだと思ったことは一度もないし、ましてや得意だと感じた経験もない。
フェイスブックやブログで日常をお知らせする程度の質と量では、特に困ることはない。
しかし、いざ何か大切なことを伝えたいときになって、文章の書き方を知らないことを痛感する。
原稿を書いてみるものの、結局まとまらないまま、やがて熱量が下がってお蔵入りするのが今までのパターンである。
このパターンから抜け出したいと思ったのが、ゼミ申込みのきっかけである。
しかし、ほどなくして、自分が文章力を手に入れることは不可能だと確信することになる。
そんな出来事が、起きたのである。
このライティング・ゼミでは、実際に文章を書いて提出することができる。
提出した文章は講師に添削され、数日後にコメントが返ってくる。
さらに、内容が一定の水準に達していれば、天狼院のホームページに掲載される仕組みもある。
ゼミの最初の講座を受けてから5日後に最初の課題を提出し、その数日後に添削コメントが手元に届いた。
決して長いとは言えないが、本質を見抜いた的確なコメント。
そのコメントを読んで大きくため息をついた後、ぼんやりと周りを見回していたところへ、パンダの置物が目に飛び込んできた。
そして、急にこんな疑問が頭に浮かんだ。
「そういえば、パンダはバック転できるようになるのだろうか?」
世の中には不可能を可能にするサービスがある。
パンダが、ダダダッと助走をしたかと思うと、パンっと両手をついて、クルリとバック転を華麗に決めて着地する。
いや、どんなに優れたサービスでも可能にならない不可能なことはあるのだ。
パンダが、バック転できるようになるわけがない。
そもそも、腕が短すぎて逆立ちすらできないではないか。
あ、そうか。
自分にとって文章を書くことは、パンダのバック転と同じなのだ。
つまり、どうがんばっても可能にならない不可能。
そう思った理由は、添削コメントの内容がまったく理解できなかったからである。
もちろん、コメントは日本語で書かれているのだから、言葉としては理解できる。
ところが、意味がわからない。
ゼミには、文章のプロレベルの人も受講していると聞く。
そういう人なら、きっと分かるのだろう。
あまりに場違いなゼミに申し込んでしまったと悔やんでも、もう遅い。
しかし、そんなことを言っていても何も始まらない。
まずは、改めて自分の原稿を読み直すところから始めてみた。
ところが、状況は何も変わらない。
やはり何が問題なのか、どう修正すればいいのかわからない。
参考に他人の原稿を読んでみたが、自分の文章力の無さがより引き立つだけで、状況はより悪化する一方である。
そんなことを繰り返しているうちに、もともと持っていた文章への苦手意識がより強まってしまった。
そして、文章を書いてみようという気持ちはすっかり失せた。
たかが一回の添削で何を言っているんだ、という意見はごもっとも。
しかし、何事も最初が肝心である。
芽が出て間もない若葉は、わずかな力で簡単に倒れてしまうのである。
やはり、自分が伝わる文章を書けるようになるというのは、どう頑張っても実現できないパンダのバック転と同じなのだ。
いや、待てよ。
世の中には、不可能を可能にするサービスがある。
もしかしたら、このライティング・ゼミは、自分にとってはそういうサービスなのではないか。
伝えたいことを伝えられる文章を、書けるようになるかもしれない。
それはつまり、パンダがバック転するのと同じ意味でもある。
そして、今こうして課題提出のために原稿を書いている。
バック転するパンダを目指して。
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