書店というクリニックで本という薬を求めた日々を想う
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:蒼山明記子(ライティング・ゼミ平日コース)
社会人になった20代の頃、会社帰りによく書店に立ち寄った。
その当時は、仕事をこなせるようになる楽しさがある反面、自分の無力感や人間関係に悩み、プライベートも充実しているようで何も満たされていないような枯渇感に悩まされた。
私は何をしたいのか。何を手に入れたいのか。
何かしなければ。何をしたらいい?
そんな思いに苛まれた時、よく書店に足が向いた。
手当たり次第に本を開く。
目についた題名、帯に惹かれると開く。
数ページ読んで気に入れば買う。
そんなことを繰り返した。
当時はインターネットが普及していなかったから、書店が私にとって一番の情報源だった。
実用書や雑誌等を除くと、自己啓発本や徐々に出始めた精神世界、スピリチュアルの本などにもよく手が伸びた。
きっとここ(書店)のどこかに私に必要な何か、言葉だったり、情報だったりがある。
そんな気がして、日常の葛藤や出来事の消化不良を助けてくれる胃薬のような本をひたすらに探し求めた。
月日は流れ、20代後半から両親の介護問題にぶつかったことで、私の心の葛藤は「何をしたいのか」から「どう生きていったらいいのか」という問いに変わり、考えても考えても解決策が見当たらない日々を悶々と過ごすことになった。
この時期には、パソコンを手に入れたことで情報の多くはインターネットで入るようになったし、頭も疲れていていたので、本を読む気にもならなくなっていた。
それなのに書店には相変わらず時間を見つけてはよく通った。
ここ(書店)には、私に必要な何か、言葉だったり、情報だったりがある。
その思いは変わらずにあり、本を見て歩くだけでも私の精神安定剤になっていた。
30代後半辺りになると、両親のことは一人で抱え込まず家族と協力しながら日々を過ごし、そんな日常にも慣れ、心にも余裕ができて再び本を読みたくなっていた。
この頃は、スピリチュアルというよりは心理学に近いものやエッセイに惹かれて、よく手に取った。
特にエッセイは、作者の本音が自分にリンクする時、先輩に意見をもらうような学びと共感を得られて面白かった。
それまでフィクションには共感できないような気がして敬遠していた小説にも興味を持ち始めた。
小説も、もしかしたら作者の経験から伝えたいことをフィクションに乗せて書いているのかもしれないと、そこから自分にリンクする部分があれば共感できるかもしれないと思ったことから、なんだか急に読む気になった。
実際読んでみると、やっぱり今までの共感というのとは違ったけれど、現実とは違う世界観に意外とハマりやすいタイプだったようで、その世界観に共感できて、ただただ面白かった。
ある意味、内容にハマることで現実から逃避するような感覚がストレス解消になり、それが小説を楽しめた大きな理由だったかもしれない。
振り返ると私にとって書店は、クリニックのようなものだった。
現実の消化を助けてくれる胃薬、心の安定剤をいつでも処方してくれる。
共感はサプリメントのように、じわじわと心を癒してくれた。
実際はそれらを自分で選ぶのだけど、そんな本を見つけた時は、まさに「出会い」だった。
ただ行くだけでも癒される場所だった。
40代に入り、両親を見送り、環境は変わり、気づくと書店にも前ほど足が向かなくなり、また本を読まなくなっていた。
ある程度の耐性がつき、20代の頃のような枯渇感も、30代で感じたストレスも、ゼロにはならなくても相当に消化し、そして環境が変わったことで本を読む時間が少なくなったことも大きかった。
ところが40代後半の今になって、改めて小説やエッセイなどに心が向き始めている。
また日常に荒波が来て、処方を求めたわけではない。
小説やエッセイから、改めて文章の構成や流れを感じ取りたいと思ったからだ。
きっかけは、ライティングゼミを受講したことだった。
文章を作る機会ができて、読んでもらえる文章というものを考えるようになり、一度ちゃんと学んでみたくなったのが受講の理由だった。
文章を作っていると、文才のなさを自覚する。
だから時間もかかるし、自分の作った文章を何度も読み返しては校正を繰り返すことになる。
どんな言葉でつづったら伝わるんだろう。
これはしつこいかもしれない。
これはちょっと恥ずかしい。
言葉選びがちょっと重い。つまらない。
そんなことを考えながら、言葉を変えたり消したりしていく。
書くことは、思いのほか自分の内側を見つめる作業になった。
そしてそれを読めば読むほど、自分を深掘りしていく作業になることにも気づいた。
書店に行って、私に必要な本を探そう。
薬としての本ではなく、教科書のような本を。
ちょっとカンニングな気分だけれど。
書けば書くほど、特効薬は自分の中から調合できるかもしれない。
新たな本との付き合い方が始まりそうだ。
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