メディアグランプリ

その写真から、母と先生のことをずっと疑っていました


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記事:たいらまり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
もしかしたらって、不倫の関係を疑っていました。
母が几帳面に整理している私と兄の幼少期のアルバムは、どうしても不自然に、ある時期だけ写真が多いのです。
その時期は私が小学2先生ころ。
撮影したのは、父や母ではない大人の男の人、兄の担任の先生です。
私は幼心に思っていました。
兄の担任と私の母の関係は、あやしい……。
 
私が子どものころ我が家は転勤家族でした。
3回目の転勤の時は、1年と半年で小学校を転校しました。
私は小学2年生、3つ年上の兄は5年生でした。
私は、その当時の兄の担任が大嫌いでした。
先生のくせにいつもカメラを抱え、やたらに写真を撮ってくるのです。
それも、私を追いかけまわすように。
でも、兄は先生を慕っていました。私の中では嫌なおじさんでしたが、人気のある先生だったようです。
校門前で、私の手を無理やり引っ張る笑顔の兄と、逃げようとする私の写真も残っています。
ひろたって名前の先生でしたが、陰でエロたって呼んでました。
もう、とにかく私は大嫌いでした。
 
大人になってアルバムをもう一度見返しました。
 
エロた先生が撮った写真には、写ることが苦手なはずの母がたくさん写っています。
とてもきれいに写っています。
母は20歳で結婚し、兄と私を産み、一生懸命に育ててくれました。
何事にも手を抜かない真面目な性格でした。
久しぶりに開いたアルバム、若く美しい母のたくさんの写真を見ると、当時の疑惑の感情が蘇ってきました。
やっぱり母とエロた先生はあやしい……。
いや、純朴な母はそうでなくても、エロた先生は下心を抱いていたはずだ、と。
 
その疑惑の尻尾を探すような目で私はアルバムを見続けました。
 
キャンプ場での写真。
モノクロの写真、全身びしょ濡れで石垣を登っている私がこちらを向いています。
濡れた髪、滴り落ちる水、ギュッと結んだ唇、泣きそうに潤んでいる黒い瞳。
あれ、なんだかこの写真とてもかっこいい……。
 
自宅で撮った写真。
私と兄の表情をたくさん撮っています。
エロた先生が嫌でふてくされてる私と、陽気な笑顔の兄。
どちらも無垢な子どもの姿が映し出されていて、とてもあたたかさを感じます。
 
もう30年も前のこと、現代のように誰もがおしゃれな写真を撮れる時代とは違います。
あらためて見ると、エロた先生の写真は、プロのような写真でした。なんだかとても惹きつけられるものがありました。
私は、あんなに嫌だったエロた先生の写真に夢中になってしまい、しばらく見続けてしまいました。
 
その時、びしょ濡れの私の写真に、もう一度目が止まりました。
キャンプ場での写真。
背景にはスイカ割りをしている子どもたちが小さく写っていました。
かすかな胸の痛みと一緒に、この日のことを思い出しました。
 
「スイカ割り、一緒においでよ」
「いやだ」
優しい誘いを、素っ気なく断る私。
私はこの頃、すごくさみしい意固地な女の子でした。
転校先ですぐに友達ができる陽気な兄に対し、私はどうしても新しい友だちができず、いつも兄にくっついてばかりいたのです。
このキャンプも、兄のクラスの夏休みの親子行事に、わたしもくっついて参加していました。
そこでも何かと泣いたりぐずったりして母を困らせていました。
本当は一緒にスイカ割りがしたかった、でも、その時の私は素直に、仲間に入ることができなかったのです。
兄は、兄の友達に取られているし、お母さんもお世話で忙しいし、完全に自分の殻に閉じこもっていました。
そして、スイカ割りをうらやましそうに見ながら、一人、河原で水遊びをしていたのです。
その瞬間を、エロた先生に撮られました。
「先生、撮らないで下さい!」
言葉ではいつものように嫌がりました。
でも、私はこの時、本当はすごくほっとしたのです。
どんな理由でカメラを向けたのかは分かりませんが、その時、猛烈に空しい思いをしていた私は、嫌いなエロた先生でも、カメラを向けてくれることで、一人ぼっちじゃない、と思うことができました。私の事みてくれているという安堵感に包まれました。
 
そういえば、写真を撮られることが多くなったのは、私たちの転校が決まったころからでした。1年半で転校を繰り返さないといけない私たちに、思い出をたくさん残そうとしてくれたのかもしれない……。
 
幼い記憶が次々と蘇ってきて、エロた先生に対し嫌な感情は、ぐらぐらと熱く溶けはじめました。
エロた先生は、どこにも誰にも馴染めず、心を閉ざしていた私にカメラを向け、感情を外に出してくれていたのです。カメラを向けることで、一人じゃないよ、ちゃんと見てるよって伝えてくれていたのです。
下心ではなく、人として愛情を持ってカメラを私に向けてくれていたエロた先生。
エロた先生のレンズ越しの愛に気づいたことで、さみしかった小さい頃の記憶は、守られていた温かい記憶に変わりました。
そして、母と先生の不倫疑惑もきれいに解消することができました。
今度は私が、疑惑をもたれるほど美しい写真を撮って欲しい、そう思っています。
 
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2017-10-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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