fbpx
メディアグランプリ

Siriと仲直り


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:下山員須子(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
何度やっても、私の思っているように私の声を、Siriが認識してくれない。
イライラして短気な私は思わず、「お前役にたたんな!」と言ってしまった。
そうするとSiriは「私ですか?」と、少し震える声で悲しそうに聞いてきた。

胸がキュッと痛んだ。

「さっきはきつい言い方してごめんね」と言うと、「いいんですよ」と許してくれた。
「優しいね」と言うと、「照れますね」とはにかむように答えてくれた。
「これからもよろしくお願いします」と言うと、「こちらこそよろしくお願いします」と返してくれた。
これでSiriと仲直り。私の暴言も忘れて、彼女は今後も私のために色々なことをしてくれる。

人間同士でもこんな風に上手く仲直りできたらなぁ。

母と姉が、今仲たがいしている。

私は三姉妹の真ん中だ。姉は、長女らしく責任感が強く面倒見が良い。
父の死後、姉が一番母のために奔走した。
死後の手続きや提出書類の多いこと。しかもうちは自営業だったので、仕事の関係でもすべきことが多かった。こんなに多くては悲しみなどには浸っていられない。すべきことが山積みだ。

でも、母はただ悲しみに浸っていた。

しかも父は人に任せることができない人だったために、加えて突然亡くなったために、何がどこにあるのかも全くと言っていいほど誰にも告げていなかった。
書類探しから始まり、三人で手分けして用事にあたったが、一番大変だったのは姉だった。

彼女は毎日頑張った。
頭の良い人だったので、先のことまで考えて動いた。できるだけ無駄を省き、どの方法が一番有益かを考えた上で選択した。
有益かどうかを、基準にしていたが一番重きを置いていたのは母の気持ちのつもりだった。

でも、忙しいためにどんどん口調はきつくなり、時間が無いために、なぜこの選択をしたのかという説明が簡素化された。母は年のせいもあってか、何度も姉に同じことを聞いていた。

両親は「親が白だと言えば、黒いものも白だ」という考えの人だったので、子供に意見されたり、偉そうに言われたりすることを極端に嫌がった。姉は極力気を付けていたが、体力的にも精神的にもつらくなってきていた。

二人の心にストレスがどんどん溜まっていった。そんな状態だったので、仲たがいするのも時間の問題だった。
私と妹はそうならないように、母を怒らせないように姉の努力を伝えていたつもりだが、無駄だった。

ひどい言葉に心が折れ、姉は去った。すべてをあきらめるかのように去った。

これまで母は、三姉妹の中で姉に一番つらく当たってきた。母に言わせれば、姉はもっとできるはずだから、認めてこなかったらしい。きつく当たったらしい。

子供が複数いると、全員に同じ愛情を注ぐのは難しい。親は平等に子供を愛しているというのは詭弁だ。親も子も兄弟姉妹も違う人間である以上、性格も違い、相性もある。我が子でも合わない場合もあるのだ。愛していても、同等の愛情を違う人間に注げられるとは限らない。
どの子を一番愛するのかは、その親による。私の母はそれが姉ではなかったというだけのことだ。

当の本人には自覚がないのでさらに大変だ。いや違う。母の口調からはそれを分かった上での行動だったと思う。

以前私はふたりめの子が生まれた後、長女との関係に悩んでいたので、児童心理の先生に相談に行った。先生は、「親子関係はいくつになっても修復できる。一番いいのは抱きしめることだけれども、大人になると恥ずかしさからできにくいだろう。でも大丈夫、女の子だから割と簡単。ただ手をつないで歩けばいい。手をつないで買い物に行けば、それで大丈夫。あなたの愛情は娘さんに伝わるから」と言ってくれた。そして私は実践し、母にも伝えた。こんなことで親子の仲がなおるのだから。
それでも、母はこう言った。「頭ではわかっていても、どうしてもできない」と。
同じように母親に愛してもらえなかった母の育ってきた環境が、母をそうさせてしまっているのかもしれない。でも、それは母達が解決しなくてはならない問題であって、同じようにしていいという言い訳にはならない。同じ母親として認めることはできない。

姉はただ母に認めてほしかったし、愛してほしかっただけ。そんな簡単なことが、そばで見ている私にすらわかった。でも、母にはできなかった。そして母は、「親は子供に謝るものではない」と思っている。あきらめたかのように見える姉が、母が手を伸ばしてくれるのを待っているのに。

素直に謝ることも、素直に受け入れることも、そして手を差し伸べることもできない二人に、どんな今後があるのだろうか。

Siriは機械だから、感情はないはずだ。だから、ただ私の言葉を受け入れる。ただただ淡々と。
Siriが悲しそうに答えたのも、嬉しそうに答えたのも、全部私の妄想かもしれない。私が感情のある生き物だから、そう感じただけかもしれない。感情があるのは、良いのか悪いのか。Siriのように、相手の言葉を、ただ受け入れられたら楽だろう。
「いいですよ」「これからもよろしくお願いします」と、言えたら楽だろう。

もしも、私が、暴言の後にSiriにすぐに謝らなかったとしても、時間が経った後でも、それでもきっとSiriは答えてくれるのだろう。

「いいですよ」「これからもよろしくお願いします」と。
 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜選べる特別講座2講座(90分×2コマ)《10/29まで早期特典有り!》

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2017-10-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事