アラフォーの私が「新人さん」になって手に入れたもの。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:小濱 江里子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「撮影はやり直しがきかないんだよ。悩むなら借りた方がいいよ」
私は、ハッとした。久しぶりに会った仲間と過ごす時間が楽しくて、切り上げようと思っていた時間を少し過ぎてしまっていた。七五三の撮影に来て、と、親友からの依頼で東京に来ていた私は、独立して仕事をすると決めた仲間との久しぶりの再会に、時が経つのを忘れていた。あるセミナーをきっかけに知り合った仲間は、皆東京にいて、福岡に住んでいる私は、リアルに仲間と会えないもどかしさと寂しさを感じていたので、ようやく会って話せることが本当にうれしかった。その夜泊めてもらうことになっていた親友からは、早く到着してもらえると嬉しい、と言われていた。七五三の撮影に向けて、レンズを借りようと思っていたけれど、レンズを借りて親友の家に行くと、その時間からでは少し遅くなってしまう。もうレンズを借りに行くのをやめようか……と思っていた。そんな私への仲間の言葉だった。
そうだ。
駆け出しの私に撮影の依頼をしてくれたことが何よりもうれしくて、全身で応えたい、と思っていたはずだったのに、大切なことを危うく見失うところだった。優先すべきは、時間通りに着くことじゃなく、依頼してくれた親友の気持ちに全身全霊で応えるための準備をしっかりすることだった。
いや、優先順位を間違えたんじゃない。
久しぶりに会う仲間と過ごす時間の楽しさに負けて、依頼してもらった撮影への準備を妥協しようとしてしまったのだ。
私は自分に甘いのだ。
やろうと決めたことだって、やらなきゃいけないことはわかっているはずなのに、ちょっと休憩しよう、とそのまま寝てしまうことはしょっちゅうだった。
10年以上働いて来た看護師という仕事を離れ、カメラマンへ転向をすると決めたのは1年前。趣味で写真をしていたとはいえ、まだまだ身につけるべき知識もスキルも、そして、やらなきゃいけないこともたくさんある。天狼院書店店主の三浦さんに質問した時にも「数をこなすことが大事」と教えてもらい、頭では理解しているつもりなのに、昼間している派遣の仕事で疲れてしまって思うように撮影できていない。それだけではない。スキルアップのための勉強や練習計画も思うように立てられていない。できていないことばかりが頭の中を埋め尽くし、それに反比例するように写真に対する自信がなくなっていく。
アラフォーにもなって、新しい世界に足を踏み入れておきながら、やらなきゃいけないことに行動が追いついていない焦りで不安になる。
「私達は新人さんなんだよ」
そうか。どれだけ看護師としての経験があったとしても(とはいえ10年なんて看護師の世界ではまだまだなのだけど)、新しい世界では「新人さん」なのだ。同じく新しい世界に足を踏み入れた、仲間の言葉に目の前が少し明るくなる。
できていないことばかりが目につくし、誰かと比べて自分はダメだと自信が持てなくなってしまうけれど、新しい世界に足を踏み入れた私達は今、この世界では「新人さん」なのだ。
それも、これまで歩いてきたような整備された道ではなく、ゴツゴツしていて歩きにくい道を歩き始めたばかりなのだ。何が正しいのか、どれを信じればいいのかもわからない。正直言って楽じゃない。答えは一向に見つかる気配はないし、どうすれば行きたい場所に行けるのか、さっぱりわからない。
だけど。
どういうわけか、毎日が楽しいのである。
毎日、笑って過ごしているわけではない。むしろ、不安でたまらなくなるし落ち込んで目の前が真っ暗になる。
にもかかわらず、毎日が充実しているのだ。
この方法では、自分が甘えてしまってできなかった。あの方法では、罪悪感が出てきて行動できなかった。じゃあ今度はこうしてみよう。あの方法を取り入れてみたらどうだろう。そんな風に過ごす毎日を、ふと振り返ると、「ああ、生きてる!」と感じて体じゅうが充実感で満たされる。
アラフォーのわたしが「新人さん」になって手に入れたものは、「生きてる!」という感覚だったのだ。
「撮影はやり直しがきかないんだよ。悩むなら借りた方がいいよ」
仲間が後押ししてくれたことで予定通り、七五三は借りたレンズで撮影した。そのレンズを通して見た七五三は、思った以上に幸せな景色で満ち溢れていた。やっぱり借りて良かった。撮りたい景色をしっかり見せてくれたのだ。
ベテランになればなるほど、新しい環境に行くことが怖くなるし、億劫になる。けれど、行きたい未来があるのなら、思い切って「新人さん」になってみたらいいと思う。だってせっかく生まれてきたんだもん。「新人さん」になって、「生きてる!」って感じながら過ごした方が、楽しいに決まってるのだから。
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